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温泉神の試練 〜八十八か国を巡る魔物退治と混浴の旅〜  作者: サンサンマツリ
第二章【承】広がる噂と絆の深まり、そして温泉国への到達

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第二十話 四人目の仲間と新たな旅路


 湯の温もりが肌を包む。遺跡の温泉は静かに湯気を立て、星空を映していた。

 スヴィーナの警戒は、湯に沈んでも消えない。彼女の青い瞳が、遺跡の影を見つめている。パティは隣で気持ちよさそうに伸びをしているが、俺の頭の中はクラリスのことでいっぱいだった。


(本当に、また会えるのか……?)


 翌朝、霧が遺跡を包んでいた。

 俺たちは野営の準備を終え、次の国へ向かう支度をしていた。

 パティが荷物を背負い、スヴィーナが地図を広げている。遺跡の温泉からは、まだ湯気が立ち上っていた。


「マックス、こっちの道でいいにゃ?」

 スヴィーナが地図を指差す。俺が頷こうとしたとき、霧の向こうから足音が聞こえた。

 三人が同時に振り返る。


 霧の中から、金髪のエルフが歩いてきた。青いローブが朝の光を受けて、柔らかく揺れている。クラリスだ。


「おはようございます」

 彼女は穏やかに微笑んだ。その手には、小さな荷物が握られている。


「クラリス……」

 俺は声を出した。彼女が立ち止まり、俺たちを見つめる。


「一晩考えました。お待たせしました。私も一緒に行きます」

 静寂が落ちた。パティが最初に動いた。


「ほんと!? やった!」

 パティが駆け寄り、クラリスの手を握る。クラリスは少し驚いたような顔をしたが、すぐに優しく微笑んだ。

挿絵(By みてみん)

「よろしくお願いしますね」


「こっちこそ! あたし、パティ。よろしく!」

 パティの尻尾が激しく揺れている。クラリスがその尻尾を見て、小さく笑った。


 俺も近づき、手を差し出す。


「よく来てくれた」


 クラリスが俺の手を取った。その手は、思ったより冷たい。


「マックス様。これからよろしくお願いします」


「マックスでいい。様もいらない」


「……では、マックス」

 クラリスが微笑む。


 だが、スヴィーナだけは動かなかった。彼女は地図を持ったまま、クラリスを見つめている。その視線は鋭く、値踏みするようだ。


「スヴィーナ……だったわね」

 クラリスが彼女に声をかける。スヴィーナは無言で頷いた。


「よろしく」

 短い言葉だけ。スヴィーナの警戒は、まだ解けていない。

 クラリスはそれを気にした様子もなく、荷物を背負い直した。


「では、出発しましょうか」


 俺たちは遺跡を後にした。

 山道を歩きながら、パティが隣でぴょんぴょん跳ねている。


「ねえねえ、クラリスって魔法使えるの?」


「ええ、少しだけ」


「すごい! あたし、魔法見たことないんだ!」


「そのうちお見せしますね」


 パティとクラリスの会話が、山道に響く。木漏れ日が二人を照らし、鳥の声が聞こえた。俺は後ろを歩きながら、前を歩く三人を眺めていた。


(これで、四人か……)


 スヴィーナが俺の隣に並ぶ。彼女は小声で囁いた。


「マックス……本当に大丈夫にゃ?」


「何が?」


「あの人。まだ信用できないにゃ」


 スヴィーナの声は低い。俺は前を歩くクラリスの背中を見た。


「確かに謎は多い。でも、悪い人じゃないと思う」


「……そうだといいけど」

 スヴィーナは納得しない様子で、前を向いた。


 昼過ぎ、俺たちは小さな川で休憩を取った。

 パティが川の水を汲み、クラリスが火を起こす。魔法で火種を作る様子に、パティが目を輝かせていた。


「すごい! 魔法ってこんなに便利なんだ!」


「基本的な術ですよ」

 クラリスが謙遜する。だが、その手つきは確かで、火はすぐに安定した。


 スヴィーナは川辺に座り、ペンダントを握りしめていた。古い銀のペンダントで、何か刻印が彫られている。


「スヴィーナ、どうした?」


 俺が声をかけると、彼女は慌ててペンダントを服の中に隠した。


「な、なんでもないにゃ」


「そうか……」

 彼女の様子がおかしい。だが、それ以上は聞けなかった。


「家族みたいだね!」

 パティが突然言った。俺たち三人が同時に彼女を見る。パティは無邪気に笑っている。

「だって、こうやってみんなで旅してるの、家族みたいじゃん!」


「家族……」

 スヴィーナが小さく呟いた。その声は、どこか遠い。


「良い言葉ですね」

 クラリスが微笑む。だが、その微笑みには影があった。


 俺は黙っていた。


(家族か……)


 元の世界の仲間たちを思い出す。俺が守れなかった、大切な仲間たち。


「マックス?」

 パティが心配そうに覗き込む。俺は首を振った。


「いや、なんでもない」


「そっか」

 パティは納得して、また火の世話を始めた。

 四人それぞれが、「家族」という言葉に何かを感じている。だが、誰もそれを口にしなかった。


 夜になり、俺たちは野営地の近くで小さな温泉を見つけた。封印された社のものではなく、山道にひっそりと湧き出ている天然の温泉のようだ。


「温泉だ!」

 パティが喜んで駆け寄る。湯気が立ち上り、硫黄の匂いが鼻をつく。


「ここで休みましょう」

 クラリスが提案し、俺たちは温泉に浸かることにした。


 星空が広がり、湯の音だけが静かに響く。

 四人で湯に浸かりながら、しばらく誰も口を開かなかった。


「……温泉神の試練は、これから厳しくなるでしょうね」

 クラリスが突然言った。俺は彼女を見る。


「どうしてそう思う?」


「古い伝承に書かれていました。温泉を解放するほど、魔物は強くなると」


「伝承……?」


「ええ。温泉神についての、古い文献です」

 クラリスの声は穏やかだが、その表情は一瞬曇った。


「お前も、温泉神のことを知っているのか?」


 俺の問いに、クラリスは少し考えるような仕草を見せた。


「……古い伝承で読んだだけです。詳しいことは分かりません」


 曖昧な答えだ。スヴィーナが身を乗り出す。


「あなた、本当は何者なの?」


 スヴィーナの声は鋭い。クラリスはその視線を受け止め、穏やかに微笑んだ。


「ただの魔法使いですよ」


「嘘にゃ。普通の魔法使いが、あんなに詳しく魔物の弱点を知ってるわけない」


「……研究の成果です」


「研究だけで?」

 スヴィーナは食い下がる。だが、クラリスは答えない。


 沈黙が落ちた。


「まあまあ、仲良くしようよ!」

 パティが間に入る。


「クラリスだって、悪い人じゃないでしょ? あたしたちを助けてくれたし!」


「それは……そうだけど」

 スヴィーナは納得しない様子で、湯に沈んだ。


 クラリスは静かに星空を見上げている。その横顔に、何か複雑な感情が浮かんでいた。

「四人で力を合わせれば、大丈夫だよ!」

 パティが明るく言う。その言葉に、クラリスが小さく微笑んだ。


「そうですね。頼りにしています」


 俺も頷く。


「ああ。これからよろしく頼む」


「はい」

 クラリスが答える。だが、その声には何か、言葉にできない重さがあった。


 湯に浸かりながら、俺は考えていた。


(クラリスは、何を隠している……?)


 だが、今はそれを問い詰めるべきではない。彼女が話す時が来るまで、待つべきだ。


 翌朝、俺たちは再び旅に出た。

 四人で歩く道は、三人の時より賑やかだ。

 パティの明るい声、スヴィーナの冷静な指示、クラリスの穏やかな助言。そして俺は、四人を見守りながら歩いている。


(これからどうなるんだろう……)


 温泉神の試練は、まだ始まったばかりだ。だが、四人で力を合わせれば、きっと乗り越えられる。

 そう信じて、俺たちは次の国へ向かった。

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