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7.愛する人のために



「奴ら、姉上が断らないとわかって、どんどんとつけ上がってきているな」

「あれくらい、どうってことないですわ」

「頼みを断れば、奴らは真っ先に王妃に告げ口し、ここぞとばかりに姉上を責めて城から追い出すに決まっているからな。何もできず、すまない」

「いいえ、謝る必要はありませんわ。あなたは重たい荷物をすべて持ってくださるじゃありませんか。それに、いつもわたくしの傍にいてくれる……。それがどれほど心強いことか」

「……そうか」


 イグニスの無の表情が微かに和らいだ時、ノックの音が聞こえたと同時に扉が開かれ、侍女長のミモザが入ってきた。

 彼女は不機嫌な顔つきを隠そうともしていない。


 アーベリアが『首振り令嬢』と呼ばれるようになってから、ミモザの態度が一気に悪化していた。


「もうすぐ湯浴みの時間ですが、御自分で準備して入ってください。『首振り令嬢』の貴女ならもちろん頷きますよね?」

「えぇ、わかりましたわ」

「結構。侍女長の立場だと、毎日暇でダラダラしている貴女と違ってあれこれ忙しいんですよ。そんな私にあまり手間をかけさせないでください」


 溜め息とともに言葉を吐き出すミモザに、アーベリアは申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「それは大変失礼いたしました。ところでミモザさん」

「は? まだ何か?」


 歩き出そうとしていたミモザは、苛立ったようにアーベリアの方へ振り向く。

 そんな彼女の態度を意に介さず、アーベリアはニコリと笑みを向けた。


「首につけているネックレスとそのイヤリング、とても素敵ですわ。デザインも独創的で目を奪われてしまいました。感性が素晴らしいですのね」

「……褒めても何もでませんよ。それでは失礼します」


 ミモザはそう言いながら満更でもなさそうな顔つきになり、カツカツと床を鳴らし部屋から出ていった。

 イグニスが微かに眉をひそめる。


「こちらもこちらで態度がひどくなっているな。王妃が後ろ盾にいるからだろう」

「わたくしは自由に湯浴みができて嬉しいですわ」

「前向きな思考なのはいいことだ。それにしても、奴の装飾具が気に入ったのか? やけに褒めていたが」

「えぇ。とても綺麗で印象的でしたので」


 静かに微笑むアーベリアに、イグニスは僅かに眉をしかめる。

 しかしそれ以上彼女に言及せず、別の話題に変えた。


「こんな状況を父上と兄上が知ったら、穏やかな表情の下に莫大(ばくだい)な怒りを(にじ)ませ、徹底的にあの女や重鎮達を潰すだろうな。再起不能になるまでに」

「ふふっ、それは容易に想像できますわ。ですが、決してお父様達に伝えてはいけませんよ。わたくしのせいで公爵家と王族との関係にひびを入れたくありませんから」

「わかっている。だが、いつまでもこんな状況が続くと、精神的に参るのは姉上だ」

「わたくしがもっと殿下と仲良くなれば、王妃陛下に苦言を呈してくれるかもしれません。愛する人のために頑張らないといけませんわね。――さぁ、湯浴みの準備をしましょうか」

「…………」


 軽やかに浴室に向かうアーベリアの背中を見ながら、イグニスは何かを考えこむように眼鏡の下で銀色の睫毛を伏せたのだった。




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