4.王族の者達
「あぁ」
イグニスも扉に視線を向け頷くと、謁見の間の扉をノックする。
ややあって騎士の一人が扉を開けたので、二人は謁見の間へと足を踏み出した。
正面奥にある向かって左の玉座には、くすんだ水色の薄い髪と同じ色の瞳をした太った男がふんぞり返って座っている。
葉巻を口に咥えている彼は、センダン・ユグドール。
このユグドール王国の国王だ。
並んで右側の玉座には、赤茶色のソバージュの髪と同じ色の瞳をした、目つきの鋭い女性が座っている。
色とりどりの装飾で飾られた派手な扇子で口元を隠している彼女は、ルマーサ・ユグドール。
国王の妻であり、ユグドール王国の王妃だ。
アーベリアとイグニスは玉座と一定の距離が開いた位置で足を止め、アーベリアはしとやかにカーテシーをし、イグニスは片膝をつき深く頭を垂れる。
センダンはそれを見て、葉巻を咥えたまま口を開いた。
「話すがいい」
「寛大なる国王陛下。拝謁を賜り、心より感謝申し上げます」
アーベリアは完璧なカーテシーを保った姿勢で、よどみなく挨拶の言葉を紡んでいく。
「崇高で偉大なる国王陛下、ならびに王妃陛下に謹んで御挨拶申し上げます。バセロルト公爵の長女、アーベリア・バセロルトと申します。このたび王太子殿下の婚約者として選ばれましたこと、大変光栄に存じます」
「……態度といい言葉といい、噂どおりの令嬢のようだな。しかし、だからといって調子に乗るなよ。これから我が息子の婚約者として恥じない行いをしろ。わかったな」
「かしこまりました。陛下のお言葉を深く心に刻み、誠心誠意王太子殿下に献身いたします」
アーベリアがさらに深くカーテシーをすると、ルマーサが眉間に皺を寄せ、嫌なものを見る目つきで彼女を見下ろした。
「フンッ、アタクシは認めていないわよ。こんな乳臭い小娘がアタクシの可愛い可愛いライラックの婚約者なんて! アナタもアナタよ。アタクシに黙って勝手にあの子の婚約者を決めて!」
「……はぁ、まだ言うのか。ライラックは今年でもう二十五だ。跡継ぎのこともあるし、いい加減正式に婚約者を作らないとどうする。この国で王族の次に地位が高いバセロルト公爵家の娘を選んだのだし、あのとおり教養もある。それに、公爵家と深い関わりを持った方が、こちらとしても都合がいいのはわかっているだろう。いちいち文句を言うな」
「……フンッ!」
ルマーサが鼻を鳴らし、扇子で口元を隠したままプイッと横を向く。
「恐れながら陛下、わたくしに発言の機会をお願い申し上げます」
「いいぞ、申せ。――あぁ、頭も上げていい」
「ありがとうございます」
アーベリアは背筋を伸ばして姿勢を正すと、センダンを真っ直ぐに見た。
「わたくしに護衛は必要ございません。ここにおります、バセロルト公爵家の次男、イグニス・バセロルトがそれを務めます。もちろん、彼にかかる費用はすべてバセロルト公爵家が負担いたしますわ」
「……ほぉ」
「わたくしにかかる労力は、陛下と王妃陛下の安全と穏やかに過ごすための労力にお使いくださいませ。その代わりと申しては心苦しいのですが、彼の部屋をひとつ提供していただけると大変ありがたく存じます」
「フン、なかなか気の利く娘だな。いいぞ、部屋なら余っている。お前の部屋に近い場所で一部屋用意させよう」
「陛下の寛大なる御心に深く感謝を申し上げます。もうひとつ、わたくしに付けてくださる侍女は一人で十分でございます。わたくしにかかる人件費は極力減らし、こちらも陛下と王妃陛下のためにお役立てくださいませ」
「ははっ、いい心掛けだな。王妃よ、息子の婚約者に優秀な侍女をつけてやれ」
「…………」
ルマーサはセンダンの言葉に返事をせず、アーベリアを憎々しげな眼差しで見下ろす。
すると、謁見の間の扉がノックされ、一人の男性が扉を開け入ってきた。
「父上、母上。今日、僕の婚約者が来るって話だけど――」
薄水色の髪を後ろで結び、母と同じ赤茶色の瞳を持つその優男は、ライラック・ユグドール。
この王国の王太子であり、アーベリアの婚約者となった男が、にこやかな笑みを浮かべこちらに近付いてきたのだった――




