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3.いざ、王城へ



 アーベリアとイグニスは、高台にそびえ立つユグドール城の門前で足を止めた。


「ついにきたな」

「えぇ。ようやくわたくしの念願がひとつ叶いましたわ」


 言葉を交わすと、二人は示し合わせたかのように顔を見合わせ、頷く。

 二人の姿をとらえ、門番がこちらに向かって声をかけてきた。


「そこのお二方。貴族の方とお見受けしますが、御用件をお伺いしてもよろしいですか?」

「かしこまりました。わたくし、バセロルト公爵家の長女、アーベリア・バセロルトと申します。王太子殿下の婚約者として、本日登城いたしました。国王陛下から戴きました書簡に書かれております日付が本日となっております。御懸念のようでしたら、陛下へ御確認いただけますと幸いですわ」


 アーベリアはニコリと微笑むと、優美にカーテシーをする。


 それは、まごうことなき上位の貴族の女性が行う、洗練された美しい礼の仕方だった。


「……! あなたが――」


 門番は軽く目を見張ると、ある感情を含ませた視線をアーベリアに向けた。

 それは、あきらかに『同情』と『憐憫(れんびん)』の(たぐい)だった。


「大変失礼いたしました。本日が登城の日だと伺っておりませんでしたので……」


 門番が頭を下げるのを、アーベリアは首を左右に振って止める。


「大丈夫ですわ。お気になさらないでくださいませ」

「ありがとうございます。国王陛下と王妃陛下は謁見の間におられます。案内の者を呼んでまいりますので、少々お待ちください」


 門番が反対側にいたもう一人の門番の方を向くと、彼は頷き城門を開け中へと入っていった。


「……門番に姉上の登城を知らせなかったのは、王妃の差し金だな。城に入る前に問答無用で門番に追い返されることを狙っていたんだろう。やれやれ、浅はかな企みだ」

「ふふっ」


 イグニスが視線を変えず、門番に聞こえない声音でそう言うと、彼女は口元に手を置き可愛らしく笑う。


 少し経って門番が連れてきた城の家令は、アーベリアを視界に映すなり『侮蔑(ぶべつ)』と『(あなど)り』の色をありありと顔に出した。


「……こちらへ」


 家令はボソリと言葉を投げると、踵を返しさっさと歩き出す。

 上位貴族で、そのうえ『王太子の婚約者』であるアーベリアに対し、こちらの様子をいっさい顧みず足を進める家令に、イグニスは小さく息を漏らすと、黙ってアーベリアの後ろに続く。


 謁見の間の前に着くと、家令は振り返りアーベリアをジロリと睨み見た。


「国王陛下と王妃陛下にくれぐれも失礼のないようお願いします。特に王妃陛下に少しでも粗相をしたら、速攻で追い出しますからね」


 家令は吐き捨てるようにそう言うと、足早に廊下の向こうへと行ってしまった。


「……あきらかに奴は王妃の犬だな。王妃の前では尻尾を振って喜ぶんだろう」


 周りに誰もいないのを確認すると、イグニスが侮蔑を込めた口調で言った。


「ラハンお兄様の情報どおり、ここは王より王妃の影響力が大きいようですわね。となると、彼女の溺愛する王太子の婚約者となったわたくしへの風当たりは強いでしょう」

「だろうな。それでもやるんだろう?」

「もちろんですわ。『王太子の婚約者になる』という願いが叶ったんですもの。愛する人のためならば、そんなことではへこたれませんわ」

「ベタ惚れだな」

「えぇ。わたくしの〝天使〟ですから」

「……幻滅しなきゃいいが」

「するはずありませんわ」


 アーベリアはキッパリと即答し小さく笑むと、謁見の間の扉を見上げて言った。



「――さぁ、行きましょうか」




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