43.ユグドールの貴族達
翌日、ユグドール城の謁見の間にて。
アーベリアは玉座の前に立ち、ユグドールの貴族達と対面をしていた。
彼女の斜め後ろで、イグニスが銀の瞳を細め、貴族達の一挙一動を監視している。
「昨日の騒動を耳にしましたが、本当だったようですな。センダン王が廃位し、貴女がこの国の新しい君主――女王になると」
ブラタナス男爵が太った腹を揺らし、アーベリアをジロリと睨みつけながら口を開いた。
彼は、センダンとルマーサに媚び入り甘い汁を啜っていた貴族の一人だ。
「はい。若輩者でございますが、この国のために誠心誠意尽力いたします。皆様のお力添えを賜りたく、何卒よろしくお願い申し上げます」
アーベリアが滑らかな動きでお辞儀をするのを見て、ブラタナス男爵が鼻で嗤った。
「フン、未熟で無知な小娘にこの国の君主が務められるものか。ピーピー泣きっ面を見せる前にとっととここから出ていくんだな」
「あぁそうだ! 女が王になるなんて間違っている。この国が近隣諸国に舐められるのが目に見えているじゃないか。この国の貴族としてそれは赦されるものじゃない!」
「そうだそうだ! セインウッドの王女だかなんだか知らないが、その国はもうとっくの昔に滅んでいるんだ。我らの国にでしゃばってくるな!!」
ブラタナス男爵の非難を皮切りに、次々とほかの貴族から罵倒が飛び交う。
それらを言っている者は男爵と同じ、センダンやルマーサに取り入り、領民の苦労とは裏腹に私腹を肥やしてきた貴族だった。
アーベリアは、自分の手が小刻みに震えていることに気が付いた。
それは緊張か、それとも大の大人達に怒鳴られ責められていることに対しての恐怖か。
「……?」
ふと視線を感じ、アーベリアは後ろを振り向く。
イグニスがアーベリアをジッと見つめており、彼女と目が合うと、彼は真摯な眼差しで微かに頷いた。
その仕草が「大丈夫だ」と言ってくれているようで、アーベリアの緊張がふっと解ける。
彼女は一度深呼吸をすると前を向き、玉座に置いてあった紙の束を手に取った。
「この国は、ある一部の貴族が裕福に暮らし、真面目に生活を営む貴族や国民が高い税に喘ぎ、苦しんでおります。家を失い、外で凍えながら暮らす者達もおります。それらを解決するための是正案を熟慮しましたので、お聞きいただけましたら幸甚に存じます」
そして、アーベリアは紙に書かれている是正案を読み上げていく。
彼女が読み終わるころには、文句を言っていた貴族達の顔色が悪くなっていた。
「そ……そんなふざけたやり方、俺は認めんぞ!!」
「そ、そうだそうだ! なんでわしらがそんな面倒なことを――」
「ふむ、なるほど……良い案ですね。正直感心しましたよ。自分は賛成いたします」
再びブラタナス男爵を筆頭に怒号が飛び交おうとしたとき、一人の紳士が静かに言葉を発した。
彼は、バセロルト公爵の次にこの国で権力を持つ、メセイア侯爵だった。
「そこまでの案を貴女お一人で考えたのなら大したものです。メセイア侯爵家はこの国の新しい女王を支持しますよ」
「ビナンテ伯爵家もアーベリア女王を歓迎します」
「リサル子爵家もです。どうぞよろしくお願いいたします、アーベリア女王陛下」
口元に微笑を浮かべ頷くメセイア侯爵の後ろから、次々と好意的な声が飛ぶ。
「ありがとうございます、皆様」
アーベリアも微笑み、深く頭を下げた刹那、ブラタナス男爵の怒声が王の間に響いた。
「そんなの俺は認めんぞ! よそ者はこの国から出ていけ! 新しい王は俺達が決める!!」
「……そうしてあなた方は、自分達の思いどおりにできる王を選び、すり寄り取り入って再び私腹を肥やすのですね。領民の嘆きの声を一切聞かずに」
「なっ!? なんだとっ!?」
カッとなってアーベリアを見上げたブラタナス男爵は、無意識に「ヒッ」と喉から声を出していた。
アーベリアは、見る者をすべて凍えさせるような冷めた眼差しで、男爵を見下ろしていた。
「あなた方の数々の不正の証拠もちゃんとありますよ。王太子と王妃の金庫にしっかりと入っておりました。調子に乗ったあなた方から脅しをかけられたとき、逆にそれを使って脅すために取っておいたのでしょうね。もちろんあなた方も牢行きですよ。廃爵は確実です。民間人になったあとは、王と王妃と同じく、この国のために汗まみれになって働いてもらいましょう。この国を豊かにするために、働き手はいくらあっても足りませんから」
言い終わったアーベリアは、ニコリと極上の笑みを作った。
「……!!」
身に覚えのある貴族全員が、真っ青になってドサリと尻餅をつく。
そしてブラタナス男爵をはじめ不正を犯した貴族達は、これから己の身に降りかかる苦難に絶望しながら、謁見の間の護衛をしていた騎士達に牢へと連れていかれたのだった――




