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44.輝かしい未来【完】



「改めまして、これからどうぞよろしくお願いいたします、皆様」


 アーベリアは、残った貴族達に再び深々と頭を下げる。


「顔をお上げください、アーベリア様。実はバセロルト公爵閣下に、【戦勝記念日パーティー】でお会いした時に頼まれたのですよ。『私の娘が近い将来、この国を変えるでしょう。そのときは〝バセロルト公爵家の娘〟ではなく、〝娘自身〟を見て評価していただきたい。私への忖度(そんたく)は一切無しでお願いしたい』と」

「……お義父様が、そんなことを……」


 思わず翠の目を潤ませたアーベリアに、メセイア侯爵は優しく笑う。


「ともに、この国を住みよく豊かな国へと変えていきましょう。――それでは、気持ちも新たに、国の名前も変えましょうか」

「国の名前を……?」

「はい。領民から昨日のことを聞きましたよ。皆、期待に胸を膨らませた興奮状態で、落ち着かせるのに一苦労でした。『セインウッド王のような立派な明君になりたい』と、貴女は仰ったそうですね。セインウッド王の意思を受け継ぐ、ユグドールの新たな女王――【セインドール王国】なんていかがでしょう?」


 メセイア侯爵の提案に、周りの貴族からワッと歓声が上がる。


「いいじゃないか、その名前!」

「あぁ、俺は賛成だ!」

「セインドール王国万歳! セインドール女王万歳!!」


 皆から湧き上がる喝采に、堪らずアーベリアの頬に涙が伝う。

 イグニスはそんな彼女に静かに近付くと、ハンカチをそっと差し出した。


「では、生まれ変わるセインドール王国の新しい女王の誕生を祝福して、ささやかですがパーティーを開催しましょう。正式な戴冠式は後日に」

「え? パーティー?」

「はい。実は昨日の夜、自分達貴族宛に公爵閣下から書簡が届いたのです。『明日はきっと良き日になると思いますから、パーティーの準備はそのまま進めるよう城の者達に伝えてあります。せっかく用意した食材が勿体ないですからね。明日は存分に楽しんでください』と。――まったく、あの方はどれくらい先まで見越しているのでしょう。あの方が――バセロルト公爵家が我らの味方で良かったと、心の底から思いましたよ」


 苦笑するメセイア侯爵の言葉を聞いて、アーベリアはもう涙が止まらなかった。


「会場はすでに準備ができていますよ。――さぁ皆さん、参りましょうか」


 アーベリアの様子を見たメセイア侯爵はフッと口元を綻ばせ、ほかの貴族に声をかけ先陣を切って歩き出す。


「よし、行こう行こう! 御馳走が俺達を待ってるぞ!」

「前王と王妃がいるパーティーは、顔色を常に窺って料理を食べた気がしなかったからな。今日は存分に味わって心ゆくまで食べるぞ!」

「何がキッカケで怒るかわからなかったしなぁ。下手すりゃその場で処刑だったし。いやぁ、こんな清々しい気分は久しぶりだ!」

「城にいる前王と王妃派の者達はビクビクしてるでしょうな。罪を犯した者は全員牢行き、残った者はもう威張ることもできないでしょうし」

「ふむ、しっかりと反省してほしいものですな」


 皆、和やかに談笑しながらパーティー会場に向かう。

 そして、謁見の間にはイグニスとアーベリアの二人が残された。


「……大丈夫か」

「――えぇ、大丈夫ですわ。わたくし達もいきましょう」


 イグニスのハンカチで涙を拭ったアーベリアは、顔を上げ微笑んだ。


「――リア」


 愛称を呼ばれ、アーベリアはイグニスを見上げる。

 彼の神秘的な銀の瞳は、まっすぐアーベリアの顔を見つめていた。



 イグニスがアーベリアの愛称を呼ぶとき、それは二人が〝姉弟〟から〝恋人〟へと変わる合図だった。



「城の中に潜り込み、ユグドール王達の不正の証拠を見つけ、腐った王家を一掃し、貴女がこの国の女王になる――俺達の〝目標〟は達成した。だが、これからも様々な困難や苦労があるだろう。ここからが本当の〝始まり〟だ」

「……えぇ、覚悟していますわ」

「約束してほしい。気負いすぎないと。そして、俺の前だけは〝素〟のリアに戻っていい。どうしようもない時は、我慢せずに俺にぶつけてほしい。俺はこれからも貴女を支え続ける。貴女と共に歩むために」

「……ありがとう、イグニス」


 アーベリアは嬉しそうに笑うと、イグニスにそっと身体を寄せた。


「……お伺いしたいのですが」

「なんだ?」

「わたくしが王太子と一緒にいる時、嫉妬はしましたか?」

「いや、まったく」

「……あなたの態度を見て、そうだろうと思っていました。恋人なら、少しくらい嫉妬してもよろしいのではなくて?」


 少し拗ねた様子のアーベリアに、イグニスはサラリと返す。


「それが演技だとわかっていたし、リアを信じていたからな。『愛する人のためなら』、だろう?」

「まぁ、そう返してくるなんて……。狡いですわ」

「内心は照れていたぞ」

「それなら許してあげます」


 アーベリアとイグニスは顔を見合わせ、ふっと口元を綻ばせる。


「あなたと、わたくしの愛する人達――わたくしの二つの家族のために、必ずやこの国を住みよく豊かな王国へと変えてみせますわ」

「あぁ」

「あなたとの関係も、近いうちにお義父様達に伝えないといけませんね」


 二人は家族には内緒で、密かに愛を育んできたのだ。


「兄上はとっくの昔に気付いているな。父上と母上も恐らくわかっているだろう」

「そうですよね……。お義父様達に隠し事はできませんものね」

「俺達からの報告は待っているだろうし、忙しくなる前に一度家に顔を見せるか」

「えぇ、そうしましょう」


 イグニスとアーベリアは強く抱き合うと、そっと身体を離す。


「愛する人達のためならば、これから先、どんな困難や苦境に陥っても乗り越えてみせますわ」

「あぁ、俺もだ」

「さぁ、行きましょうか。皆が待っていますわ」

「あの様子だと、もうほとんどの料理がなくなっているかもしれないな」

「ふふっ、そうですわね。でも、皆さんが楽しんでくれているのなら何よりですわ」

「あぁ……そうだな」



 ――そして二人は、しっかりと足を踏みしめ歩き出す。



 この先に待っているであろう、輝かしい〝未来〟と〝栄光〟に向かって――








Fin.








長き物語を最後までお付き合いくださり、感謝の気持ちで一杯です。

本当にありがとうございました……!




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