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41.惨めな最後



 アーベリアの言葉に、センダンとルマーサは目に見えてホッとした表情を浮かべる。

 しかし、続けられた彼女のそれに、二人は再び〝絶望〟を味わうことになった。


「あなた方をそう簡単に死なせはいたしませんわ。【打ち首】なんて苦しむ暇もないではありませんか。死んで楽になるだなんて、わたくしが絶対に赦しません。あなた方には、この国のために死ぬまで働いてもらいます。娯楽もなく自由もなく、おしゃれも買い物もできない、毎日地獄のような過酷な環境の中で、朝から晩まで年中無休、汗水流しながら一生労働してください。牢にいる時間が勿体ないですし、判決後すぐに働いてもらいます。泣いても喚いても無駄ですわ。この国の元王族として、国民の皆様のお役に少しは立てるのだからありがたく思いなさい」


 いつも穏やかに微笑んでいた彼女の、今まで見たことのない()めた表情と()えたエメラルドの眼差しが、センダンとルマーサを無意識に凍えさせる。


 二人は、当たり前だが一度も働いたことはない。もちろんライラックもだ。

 国の最高位である自分達が、一般民と汗を垂らしながら働く――


 それは、彼らにとって〝屈辱〟以外の何ものでもなかった。


「……ふ……フザけるなっ! 誰がそんなことするかっ! 生意気な小娘――いや、〝極悪女〟め! この国の王であるワシがここで成敗してくれるわ!!」

「アナタ、アタクシも加勢するわっ!」


 センダンが咆哮したかと思うと、隠し持っていた短剣を取り出しアーベリアに襲いかかった。

 ルマーサも懐から扇子を取りそれを広げると、鬼の形相で掴みかかってくる。


「……本当に馬鹿な奴らだ。手に負えないな」


 イグニスが小さく息を吐く。

 彼は動こうとしなかった。これから起こる彼らの〝末路〟を知っているからだ。



「――ねぇ? アンタ達さぁ、ボクの可愛い義妹(いもうと)に刃を向けてるの? あぁ……いけないなぁ。いけないねぇ、そんなことしちゃ。そんないけない愚か者には、オシオキが必要だねぇ?」



 センダンとルマーサのすぐ後ろで低音の声が聞こえ、二人は心臓が飛び出るほど驚き足が止まった。

 瞬間、強烈な回し蹴りが二人に直撃し、その身体が見事に吹っ飛ぶ。


「グェッ!」

「ギャッ!」


 カエルが潰れたような声を出した二つの身体は、バルコニーの手すりの上を軽々と飛び越え――


「ギャアアァァッ!!」

「ヒイイィィッ!!」


 センダンとルマーサは、涙を流し絶叫しながら下へと勢いよく落ちていく。


 二人が地面に激突する刹那、横から風が吹きすさび、その身体を一瞬浮き上がらせた。

 そして、二人はドサリと音を立て地面に落ちた。


 突然吹いてきた風のおかげで、ぶつかる衝撃が和らぎ打ち身程度で済んだが、二人とも白目を剥いて口から泡を吹き気絶していた。


「――兄上、気持ちはわかるが奴らを死なせるな。奴らには死ぬまで地獄を見させるんだからな。死んでも地獄行きだが」


 『風魔法』を使ったイグニスは深く息をつくと、ラハンに抗議を入れる。


「キミが魔法でなんとかしてくれると信じてたからね。彼らは一度死ぬ瞬間を味わわせないと懲りなさそうだったしさー。これで少しは、彼らが殺した人達が感じた恐怖と痛みがわかったんじゃない? まだ全然足りないけどね」


 サラリとそう言い、ニコニコしているラハンを見つめたイグニスは小さく笑うと、「確かにな」と同意した。


「あっ、そうそう。十二年前に捕らえられた料理長や使用人達は、父さん達が処刑したことにしてコッソリと逃がしたよ。〝毒〟を少し飲んでしまった料理長は、ちゃんと治療を受け元気になってるよ。今頃は皆、他国で家族と幸せに暮らしてるんじゃないかなぁ」

「……っ! 本当かっ!? あぁ、良かった……。ありがとう、本当にありがとう……!」


 ラハンの予期せぬ吉報にディーンは涙ぐみ、そんな彼の手をコノーテはそっと握り締めた。


「さっ、アーベリア。下にいる国民に挨拶しておいで。この国の新しい〝君主〟として」

「……はい。ありがとうございます、お義兄様」


 ラハンに頷くと、小さく深呼吸をし心を落ち着かせたアーベリアは、バルコニーの手すりへと向かう。

 

 彼女が中庭へと顔を覗かせた瞬間、民衆からワッと歓声が上がった。


「王と王妃の無様な姿が見れて、胸がスッとしたよ! ありがとう! ざまぁみろだ!」

「王家の悪政にはほとほと困っていたんだ。皆が住みやすい国を作ってくれよ!」

「若いあんたには期待してるぞ!」


 国民からの好意的な発言の数々に、アーベリアは驚きを隠せない。

 まだ二十を過ぎたばかりの小娘が、この国の〝女王〟になると宣言したのだ。


(批判や誹謗の方が多いと覚悟していたのに――)


「それだけ国民の心は酷く擦り減っていたんだねぇ。前王達の、自分だけ良しとする圧政にさ。この国の女王になると告げた以上、キミは国民の声に耳を傾け、期待に応えなきゃいけないよ。できるかい?」


 ラハンが横に来て、アーベリアに問う。

 それに彼女は迷うことなく首を縦に振った。


「やりますわ。わたくしは、お父様の――セインウッド王のような立派な明君になりたいのです。必ずや、この国を住みよく豊かな王国へと変えてみせましょう」


 アーベリアの決意を聞き、民衆からさらに大きな歓声が湧き起こる。


 中庭に集まった人々を解散させ、アーベリアはセンダンとルマーサ、ライラックを投獄するよう騎士達に頼む。

 静かになったバルコニーで、ラハンは再びアーベリアに訊いた。


「アーベリア、明日はどうするんだい? もう生誕祭はできないでしょ?」

「はい、生誕祭は中止です。ですが、この国の貴族には予定どおりお城に来てもらいます。そして、わたくしに付いてきてくださるかどうか、お伺いしようと思っております」

「うん、そうだね。貴族を味方につけることは、今後の政治のために大切なことだよ。けど、この国の貴族は一筋縄じゃいかないよ。前王と一緒に甘い汁を啜っていた貴族も多くいるしね。心ない言葉や痛烈な批判は覚悟しておいた方がいい」

「はい。御忠告ありがとうございます、お義兄様」

「その言い方だと、父上は明日来ないんだな」


 イグニスの質問に、ラハンはにこやかな表情で言った。


「うん。明日、バセロルト公爵家は欠席するよ。キミならその意味がわかるよね? アーベリア」




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