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40.再会



「ごめんね、二人とも。心配かけちゃったわね」


 そう言って目を細めて笑うコノーテの表情は、昔と変わっていなくて。


「お姉様……っ!」

「コノーテッ!」


 アーベリアとディーンは堪らず叫ぶと、コノーテのもとへと走った。

 勢いのまま胸の中に飛び込んだアーベリアを、コノーテはしっかりと抱き留める。


「大きくなったわね、アーベリア。お母様に似ているわ。美人さんに成長したわね」

「お姉様、生きておられたのですね! 良かった……本当に良かった――」

「あぁ、本当に……。本当に良かった……」


 目尻に浮かんだ涙を何度も指で拭ったディーンは、気になったことをコノーテに訊いてみた。


「だが、今までどこにいたんだ? 私は……その、てっきり――」

「ディーン、あなた声がガラガラで酷いじゃない。喉を傷めちゃったの? あとで喉によく効く薬草を処方してあげるわ」

「あ、ありがとう……」


 コノーテは頷くと、言葉を続ける。


「あのね……実は私、今までずっと記憶喪失だったの」

「記憶喪失っ!?」


 コノーテは、目を見開き驚く二人を見て苦笑する。


「えぇ。十二年前のあの時、崖に追いつめられた私は、護衛騎士さん達の声を聞いたの。『勇気を出して、崖から飛び下りて。大丈夫、必ず助かります』って。確かに頭に響いたその声に、私は迷わず崖から飛んだわ。そして川に落ちたの。その衝撃で記憶を失ったみたいで、川岸に倒れていた私を助けてくれた老夫婦のもとでお世話になって暮らしていたの」

「そんなことが……」

「護衛騎士さん達は、最後の最期まで私を助けてくれたわ……。記憶喪失のまま暮らしていたけれど、一か月前くらいかしら……この子が私のもとへ飛んできたのよ。その懐かしい姿を見て、今までの記憶をすべて取り戻したの。この子のお陰ね」


 コノーテの肩の上で、氷の鳥が恥ずかしそうに羽根の先で頭を掻いた。


「十二年前の子と大きさが違っていたから、ディーンがまた私を想って作ってくれたんだ、生きていたんだってわかって、本当に嬉しかった。すぐに連絡したかったけど、村の人達の薬草作りに忙しくて連絡できなかったの。あの村、年配者ばかりだから……。そんなある日、ラハンさんが村にやってきたのよ。私が昔作ったクッキーを持ってね」

「まぁ、お義兄様が?」

「うん、そうだよー。毒草に関しては、専門家の『薬草師』に訊いた方が早いと思ってね。そしたらアーベリアの実のお姉さんっていうじゃない。もう本当ビックリだったよー」


 突然、コノーテの後ろからニュッと笑顔のラハンが出てきて、アーベリアとディーンは再び驚き飛び上がりそうになってしまった。


「……兄上の驚かせたりは相変わらずだな……」


 ラハンの姿を見て、イグニスが呆れた表情を見せながら歩いてくる。


義妹(いもうと)の驚く顔も可愛いからね。貴重だし、ついやっちゃうんだよなぁ。イグニスだって気持ちわかるでしょー?」

「俺に同意を求めるな」

「ほらほら、感動の再会はあとあと。悪人どもがお待ちかねだよー?」


 ラハンの言葉に、アーベリアとディーンはハッとして後ろを振り向いた。

 センダン達は状況についていけず、ポカーンとした顔でこちらを見ている。


「そうね、極悪党どもはさっさとやっつけちゃいましょ。もうあのクソジジィの顔を見るのは御免(こうむ)るわ」


 コノーテはそう言うと、まだ固まっているセンダン達に〝毒〟の説明をはじめた。

 中庭にいる国民にも聞こえるように、声を張り上げる。


「まず、私は『薬草師』の免許を持っている。だから、草の知識に関しては間違いないことをこの命に懸けて誓うわ。あのクッキーにかかっていた白い粉は、ある毒草から作られたもの。その毒草はセインウッドでは育たないものだったわ。気候がその毒草の生態とまったく合っていないのよ。その毒草は、ユグドール王国南西地方にだけ自生するものだった。摘んだら殺人と同じくらいの罪になる毒草よ」

「さらに極めつけは、〝毒〟を入れた侍女が、処刑前に家族へ【遺書】を残していたんだよ。『お金欲しさに、王の命令で王弟殿下のお菓子に〝毒〟をかけてしまった。すごく後悔している。殿下や皆に申し訳ないことした』って謝罪もね。家族は王達が怖くて、今まで誰にも伝えられなかったんだって。――あーぁ、これはもう言い逃れできないねー」

「……っ」


 コノーテとラハンの追い打ちに、センダンとルマーサは蒼白になり、その場に膝から崩れ落ちる。


「アーベリア!」


 そこへ、ライラックがアーベリアに声をかけてきた。


「君は僕を愛しているんだろう? なら、僕だけでも助けてくれ! そして一緒にこの国を立て直そうじゃないか。僕が王になって、君が王妃になる。最高の話だろう?」


 ライラックは、アーベリアは必ず頷いてくれると思った。

 今までも、そしてこれからも彼女は自分の言うことに素直に頷き、愛する自分を支えてくれるだろう――と。


 そんな自信に満ちたライラックに、アーベリアはニコリと微笑んだ。



「いいえ、御遠慮いたしますわ。――あぁ、言い方を間違えました。断固としてお断りいたします」



 ハッキリと、王城にきてから初めて拒絶の意を示したアーベリアに、ライラックは口をあんぐりと開け絶句する。


「嘘をついてしまい申し訳ありません。わたくし、あなたのことを最初からまったくお慕いしておりませんでした。むしろ嫌悪感を抱いておりましたわ。なんでも母親のいいなり、婚約者がいるのにほかの御令嬢と仲睦まじくするなんて、本当最低の行為ですもの」

「え……」

「それに、わたくしの愛する人は別におります。決してあなたではありませんわ」

「え、え……?」


 泣きそうな、心底情けない顔つきのライラックからスッと目を逸らし、アーベリアは膝をついて俯いているセンダンとルマーサに近付く。

 そして、凛とした声音で言い放った。


「あなた方の罪は非常に重いですわ。あなた方の身勝手な思いで、罪のない人々が多く命を散らせました。彼らはさぞ無念だったことでしょう。本来ならば、この場で【斬首刑】なのですが――」


 【斬首刑】と聞いて、センダンとルマーサは「ヒッ」と怯えた声を漏らす。

 そんな彼らに、アーベリアはニコリと美しい笑みを浮かべて言った。



「御安心くださいませ。そんな野蛮なことはいたしませんわ」




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