海へ帰りたい~ある蟹の願い
小さな蟹。
ある海の中で元気に生活していたが、知らない人間に魚肉ソーセージでつられて今は小さなプラスチック水槽の中に熱帯魚用の塩水をため、その中に閉じ込められている。
最初は逃げたくて何度か脱走したが、海は近くにないため、せいぜい部屋のすみに隠れる程度だ。またすぐに水槽に戻される。
そんな生活をしていると、徐々に蟹が元気がなくなり、ある時に動かなくなってしまった。
海に帰れない。そんな現実が蟹の心を壊したのだ。
そこへ、ユチオがカモメに乗ってやってくる。夏なので窓が開いていて、人間の子供が動かない蟹をみて泣いていた。
ユチオは家の中に入りこみ、蟹を両手に持ち、立ち去ろうとした。
「どこへ連れていくの?」子供は15cm位の白い毛むくじゃらの生き物にそう聞いた。白い毛むくじゃらは、首から星形の物体をひもに通してかけていた。
「一緒に来るかい?」毛むくじゃらは子供に聞いた。
うなづくより先に、子供もユチオと同じ15cm食らいの小人になった。そして2人でカモメの背中に乗った。動かなくなった蟹も一緒だ。カモメの背中にしっかりと小人にされた子供がしがみつき、その後ろに蟹を持った毛むくじゃらの生き物が余裕で座っている。
カモメはユチオ達を乗せたまま、カモメ独特の鳴き声をして部屋の窓から飛び立った。
この地域に海はないため、カモメをみた人はなぜこんな所にカモメがいるのかと不思議に思った。
彼らを乗せて、長い長い時間飛んで、海についた。ユチオは首につけていた星形の欠片をはずして、蟹に巻き付けた。そしてそのまま蟹を海に投げ込んだ。
蟹は海の底に底に沈んでいった。
ユチオは、子供と一緒にカモメの背中に乗りながら波に揺られてそれをみていた。
子供は蟹に何も言うことは出来ずに、ただ見ていることしかできなかった。
沈んだ海の中の蟹。どの位時間が経ったのだろう。しばらく時間が経って星形の欠片は、いつの間にか蟹からなくなっていて、蟹は動き始めた。
子供は目覚めると自宅にいた。先ほどの毛むくじゃらは夢だったのか。蟹はどこ?
水槽には蟹はいなかった。すっかり消えていた。
子供は言った。
「蟹は海に帰れたんだね」
先ほどのカモメの背中にぴったりくっついていた感触がリアルすぎたのだ。




