その6
そして、一軒のマンションの前に停まった。
その二階の部屋の前の手すりにピーは止まっていたのである。
一颯は友晴を見ると
「じゃあ、行ってくる」
と車から降りて二階のピーが止まっている場所へと向かった。
ピーは一颯がくると頭に止った。
一颯はインターフォンを押して
「こんばんは」
と呼びかけた。
それに坂巻百合子が戸を開けて姿を見せた。
百合子は驚いて
「一色さん、あの」
と呟いた。
一颯は笑みを浮かべて
「畦倉常務が推進派で貴女を利用して勝野課長を落とそうとしてた」
と告げた。
百合子は驚いて
「そ、そんなことは」
と呟いた。
一颯は理沙から受け取った古波彩との密会写真を見せた。
「これが、証拠だ」
この女性は…
そう言いかけた途端に百合子は写真を奪うように手にして目を見開いた。
「嘘…畦倉常務は…私のことを愛してるって言ってたわ」
こんな女のこと聞いてない
…。
…。
一颯は先程ピーが言っていた言葉の意味を理解し
「なるほど、そう言うことだったのか」
と畦倉と彼女が男女の仲であることを直感で理解したのである。
一颯は彼女を見て
「だから、畦倉常務に協力したわけか」
と告げた。
百合子は俯くと
「そうよ」
なのに…こんな綺麗な女性と…
「私、騙されて…あんなことを」
とその場に座り込んだ。
一颯はふぅと息を吐き出した。
彼女の自白を携帯に録音し、それを畦倉克夫に聞かせた。
「彼女は今日辞表を出しに行って全てを告白すると言っていました」
と時計を見て
「今頃、貴方と推進派の計画は社内で明らかになってしまっているでしょうね」
と告げた。
畦倉克夫は蒼褪めると立ち上がってその場を立ち去った。
それを見ていた理沙は一颯に
「一色君、もしかして…依頼料…」
と呟いた。
一颯は嫌そうに彼女を見て
「しらん」
と答えた。
その時、扉が開き、古波彩が姿を見せた。
「相変わらずね、合併の邪魔をしてくださる」
アハハと笑って封筒を置いた。
「依頼料よ」
畦倉にここを紹介して依頼するように勧めたのは私だから
一颯は封筒を手に
「お前の思惑と正反対になったんじゃないのか?」
前に失敗したくせに
「また依頼して来るとはいい度胸だ」
と告げた。
彼女はふっと笑うと
「失敗じゃないわ」
期待通りに暴いてくれてありがとう
と告げた。
「実はアトラス機器から今回の合併の話を消して欲しいって依頼が来たのよ」
三清精密機器の開発内容とかは魅力があったらしいんだけど
「グループの状態がね」
粉飾決算の可能性があることが調査で分かったらしいの
「合併したら足を引っ張られるかもと言う話になったのよ」
それには一颯も友晴も正も驚いて彼女を見た。
「でも、断りを入れると裏で動いていたことが分かるから…無傷で解消して欲しいってことだったのよ」
その代わり他との合併ではマザーに依頼するっていう話で
…。
…。
唖然とする彼らに彩は
「期待通りに全てを明らかにしてくれて、ありがとう」
と手を振ると部屋を後にした。
一颯はワナワナと震えながら
「坂路、塩!」
塩巻いとけ!!
と自席に座った。
理沙はそれに
「もう用意してるわ」
と戸を開けると塩をまいた。
ピーは籠の中で
「コワイヨ、コワイヨ」
と鳴いていたのである。
数日後、三清グループの粉飾決算が明らかになったものの三清精密機器は特許を武器にグループを下支えしたのである。
友晴はその記事を読み
「…まあ、痛み分けと言う感じですね」
と呟いた。
一颯はふぅと息を吐き出し
「しゃちょー、今度あの女の依頼だったら俺ノータッチで!」
しゃちょーがよろしく
と告げた。
正はそれに
「私が出来る訳ないことを一颯君は知っているでしょうに」
と応えながら
「ピーちゃんの散歩宜しく」
と告げた。
ピーはそれに背中を向けて嫌々感満載で水を飲み始めたのである。
一颯はそれを見て
「…じゃあ、恨むならしゃちょーを恨むんだな」
ピー
と呼びかけて手を伸ばしたのである。
ピーの鳴き声が響く探偵事務所であったが…それもまた穏やかな日々の一場面であった。




