持たざる者に幸あれーーー開会
「さぁさぁ、いよいよこの日がやって参りました!第73回『剛力羅』まもなく開幕です!」
司会の女性が会場を盛り上げる。リンデル愧人学園内の収容人数5万人の大きな闘技場で今回の『剛力羅』は開催されている。会場は超満員。立ち見客もいるほどで、とてつもない熱気に包まれている。
「まずは、私の自己紹介から!私はリンデル愧人学園4年、ルルテア・ファンセンが今回の『剛力羅』の司会を務めさせていただきます!どうぞよろしく!」
会場からは歓声が鳴り止まない。
「では早速、参加者の皆様の登場でーーーす!」
ルルテアの合図と共に歓声と拍手で会場が揺れるほどの盛り上がりを見せる。
それに続くようにぞろぞろと参加者が会場へと足を踏み入れる。
「ではでは、皆さんが出揃ったところで本大会のルール説明をさせていただきます。」
「参加者は100人。予選と本選があり、本選へと駒を進めるのは、予選を突破することが出来た16名のみとなります。予選は100人全員参加によるバトルロワイヤル!本選はトーナメント方式となります!」
光は周囲を見渡す。『剛力羅』に参加する面々、会場全体、そして空を見上げる。
光に緊張の色はない、むしろ楽しそうだ。
ふと、エルリカを見つけ目が合った。エルリカは口をぱくぱくしている。どうやら何か言っているらしい。
「雑・草・野・郎」
エルリカは一睨みすると、そっぽを向いた。
「ははっ、元気そうだ。」
今大会には、エルリカを始め数々の猛者達が参加していることだろう。今からわくわくが止まらない。
「それでは早速予選のルール説明となります。ルールは簡単。会場中心部にあるこの予選専用のステージが舞台となり、場外、戦闘不能、あるいは降参をした場合脱落となります。最後まで残った上位16名がそのまま本選へと駒を進めることができます。武器、愧術の使用など特に制限はございません。力の限りあばれちゃってください!」
ルールは至ってシンプルだ。光にとっては大変都合が良い。強いやつが生き残る、実に簡単で分かりやすいルールで助かった。
「開戦の前に、リンデル愧人学園が誇る、七色神王第5位!マギナ・クロック学園長より挨拶を頂き、学園長の開始宣言より予選開始となります。では、学園長、よろしくお願いします。」
ルルテアの言葉に続いて学園長が会場に登場する。
「えー、諸君。あー、うん、今日は頑張りたまえ。ここは学園長らしく胸を打つような言葉をかけるべきなのだろうが、私の性にあわないので割愛させて頂く。が、これだけは言わせてくれたまえ。」
気だるそうな声で話している。しかし、会場は先程までの大騒ぎはどこにいったのか、しんと静まり返っている。
マギナは会場全体を見渡した後、より一層気だるげに続けた。
「私が君たちに期待することはただ一つだ。ーーー私を楽しませろ。」
マギナはそういうと口角をぐいと釣り上げた。
「それでは、予選、開始!」
同時に会場が熱狂に包まれる。
だけではなく、光の周囲にいた幾人かの参加者が一斉に光に向かって襲いかかった。
「まずはお前からだ!」
「お前だな!?例の『持たざる者』は!」
「参加したことを後悔させてくれる!」
各々が声を上げながら剣などの武器を振り上げ襲いかかる。
が、それは光の予想の範囲内。決して焦ることはなく息をするかのように半歩身を引く。
襲いかかってきた三人のうち二人の武器が交錯する。
「ち、舐めた真似しやがって!」
残る一人が後方から斧で切りかかる。が、これも光はひらりと身を翻し、苦もなく回避する。続けて、倣うように周囲の参加者も各々斬りかかってくる。しかし、光は【檜】を抜刀するどころか、軽く避ける程度で光に攻撃が届くことはない。
「あいつが【愧刻】の言ってたやつじゃないか?」
会場からはちらほらそんな声も聞こえる。
光が攻撃を回避するごとに、光を襲っていた参加者は焦りの色を浮かべる。
「武器くらい抜け!それとも何か?その腰についてるのは飾りか?」
「逃げてばっかいやがって!いくら避けれても攻撃出来なきゃお前に勝ち目はねぇ!」
イライラからか挑発することで己を鼓舞しているように見える。
その後も絶えず光を攻撃するが、誰一人として光にかすらせることすら出来なかった。それどころか、互いの武器が交錯するばかり。さらには、交錯により怪我をしている参加者さえいる始末だ。
「どうなってやがる!なぜ当たらん!なぜこちらばかりに被害が出る!」
「お前が適当に振り回してるからじゃないのか!?」
「いーや、てめぇが周りも見ねぇで突っ込むからだ!」
憤りが積み重なり攻撃する手を止め、口喧嘩をする者も出てくる始末だ。なにをやっているのか。光は、呆れてしまった。
「おいおい、何をやってるのさ。闇雲に武器は振り回すし、ただただ真っ直ぐに突っ込んで来るし、折角背後を取ってるのに殺気でバレてるし、息巻いてた割には大したことないじゃんか。」
光の発言に、周囲の参加者は顔を真っ赤にする。
「くそがぁ、お前なんか…」
「お前ら、どけ!!!!」
声がしたのもつかの間、声がした方向から岩の弾が飛んでくる。
しかし光は、それでも抜刀することなくひらりと身をかわすと、岩の弾は後方にいた参加者に直撃し、意識を刈り取った。
「うわぁ、痛そ。」
光がそうこぼすと【檜】の柄に手を添える。
「流石にさ、君たち森の獣より怖くないよ?よっぽど連携を取りながら襲いかかってくる狼の群れの方がやっかいだよ。」
そう言って、ゆっくりと【檜】を抜刀する。
「さて、本気じゃないんだろう?本気で来なよ。」
その言葉は周囲の参加者を刺激するのに十分な効果があった。全員が神愧をふんだんに使用し、身体を強化する。愧術を使うもの達はすかさず詠唱を始めた。
流石はリンデル愧人学園への入学を望む者たちなだけあって、怒りに任せてはいるもののささやかながら連携を取り始めた。
今度こそ、光の【檜】とそれぞれの得物が交錯する。光はそれをいとも簡単にいなしていく。
詠唱を終えた愧術使いもそれぞれの技を放つ。だが、そのどれもが光に当たることはなかった。驚くべきは、その全てが光の背後にいた参加者に直撃し、場外や戦闘不能に陥れた。
「いやぁ、いくらなんでも愧術は受けられないよね。」
いつの間にか、会場の歓声のうち半分はどよめきになりつつある。
「あいつなんなんだ?まるで背中に目がついてるみたいじゃねえか。」
「実は『愧人』なんじゃないか?いやでも、それなら逃げる必要なんてないか…」
「大したことないね。生徒会長の悠が『剛力羅』に参加した時は、抜刀するどころか、神愧すら起こさずプレッシャーだけで半数以上を気絶させてた。それに今大会参加者にだって、とんでもない化け物が隠れているだろうよ。アルシアとかな。」
会場のあちこちでそんな声が聞こえる。光はこんな状況でも会場の声を拾える程度には、まだまだ余裕があるらしい。
光を襲っていた参加者たちにはいよいよ疲労の色が見えてきた。
「はぁ、はぁ、くそが『神愧』を込めた会心の一撃を叩き込んでいるはずが、まともに当たりやしねぇ。」
「ありえねぇんだ、普通『持たざる者』が『愧人』の攻撃を受けたら、腕なんか一瞬で折れてるはずなんだ。」
「それだけじゃねえ。体捌きはもちろん、おそらく俺たちはあいつに誘導されてる。」
あまりにも光に攻撃が届かないあまり、怒りの感情は静まり、武人や剣士としての冷静さを取り戻しつつある。
だからこそ、光の技量の高さに歯噛みするしかない。
光は、辺りを見回す。あちこちで戦闘が起こっており、脱落者もそれなりに出てきているようだ。
「さて、見せ場も欲しいし、準備運動も程々にして俺も、すこーしだけ本気出しますかね。」
そう言って、【檜】を構え直す。
一度目を閉じ、再び開く。それだけで光の周辺の空気が一瞬にして変わった。
「さぁ、反撃といこうか。」
反撃の狼煙があがった。




