持たざる者に幸あれーーー再会
「貴様のようなゴミクズは我が家の恥だ!失せろ!」
光の生まれた家は、代々優れた『愧人』を排出してきた家系だった。光は4人兄弟の末っ子で、兄が2人、姉が1人いた。光は自分以外の家族の名前を教えて貰えなかった。光以外は優秀な『愧人』で、光だけが家系で唯一の持たざる者だった。故に酷い迫害を受けた。毎日の罵詈雑言は当たり前。父の暴力は頻繁に行われ、母は毎日生ゴミを食べさせ、兄達は光をサンドバックにして遊び、姉は見向きもしなかった。扱いはまさにゴミ同然で、誰一人として光を擁護するものはいなかった。
「こんなゴミクズはとっとと埋めるとしよう。」
ある日、父の口から光を生き埋めにする案が出た。遂に死ねる時が来たと光は喜んだ。裏山に埋めることが決まり、誰がやるかという話になった時、これまで一切光と関わろうとしなかった姉がその役をかって出た。光にとって誰であろうと構わなかった。
「いくぞ、、、」
初めて聞く姉の声は耳に残る綺麗な声だった。光の手を強引に引っ張り、早足で裏山へと向かう。
道中は何も話さず、裏山の中腹に差し掛かった所で、姉が歩を止めた。無言でスコップを光に押し付けた。
(自分で自分の墓穴を掘れと言うことか)
自分が死ぬためなら、喜んで受け取れた。光は目を輝かせながら穴を掘った。その間姉は木に腰掛けこちらをじっと見つめていた。
「終わったよ。」
穴を掘り終え、姉に声を掛ける。我ながらなかなかの出来だと思った。姉はゆっくりと立ち上がり歩み寄ってきた。光は穴に横たわりいつでも埋められる準備が出来ていた。しかし、そこで姉の違和感に気づいた。泣いていた。意味が分からなかった。姉は声をあげず、ポロポロ涙を流していた。
「ごめんなさい...」
突然震えた声が目の前から聞こえた。見えなかった。姉が光を抱き寄せ、肩に顔を埋めていた。
「ごめんなさい...」
再びその声が聞こえたかと思うと、光は意識を失った。
ようやく死ぬ時を迎えた。
目が覚めた。目が覚めた?意味がわからない。有り得なかった。姉が泣いて謝っていたとはいえ、命を奪われ埋められたはずだ。目が覚めるわけがない。姉の涙に対する動揺が抜けなかったが、深呼吸をして冷静に考えた。
「目が覚めるとすれば死後の世界か?」
思いつくのはそれぐらいだった。改めて周りを見渡すと、山の中だった。ふと異様な者が目に入った。地面にスコップが刺さっていた。掘り返されたようなあとがあり、墓を連想させた。
「ここは、裏山!?」
そこは、間違いなく気を失う直前までいた裏山だった。なにがなんだかまた分からなくった。自分は生きているのか、はたまた幽霊になって自分の墓を見ているのか。あれだけ家族に恨まれていたのに、殺されなかったはずはない。だから、生きているわけがない。
手足を確認したらしっかりと生えていて、薄くなっていたりもしなかった。
「墓を掘ればわかるか。そこに俺の体があれば死んでるし、なければ生きてる。」
スコップを取り、気を失う以前同様穴を掘り始めた。
穴から出てきたのは光の死体ではなく、紙切れ1枚だった。
(ごめんなさい。生きて強くなって)
それだけだった。恐らく女性の筆跡だと思われる綺麗な字だった。考えられるのは姉しかいない。姉の涙と言い、この紙切れといい。本当に意味が分からなかった。光はたしかに姉から距離を置かれ、気にかけてもらったことなど1度もない。なのに何故?疑問が募るばかりだった。
「結局死ねなかったな。」
様々な考えが巡ったが考えるのをやめた。なにを考えたって拉致があかない。だから、姉を信じることにした。姉の見せた涙を、姉の言葉を信じることにした。蔑まれ続けた光にとって初めての言葉だった。嬉しかった。そんな言葉をくれた姉に生きて会うために生きることにした。
「とは言ってもなぁ...どう生きればいいのやら。」
生きることを決めたとはいえ、生き方を知らない。強くなると言っても、持たざる者である時点で限界が目に見えている。それでも闇雲に生きてみようと思った。
明日からの馬鹿げた人生にむけ、掘った穴で寝ることにした。
目が覚めた。森の中ではなく、真っ白な天井だった。
「懐かしい夢をみたなぁ。走馬灯かな。あれっ、でも腕を跳ね飛ばされたような...」
懐かしくも彼の生きる意味を与えてくれた過去の夢をみて、微笑みつつも、先日の戦いで失ったであろう左腕を見た。
「腕ならもと通りですよ。」
「へぇ、って、は!?」
突然聞こえた女性の声に驚き、当の腕を見た。
あった。生えていた。ちゃんとくっついていた。
「はひょぉ!?」
動いた。確実に動いた。鮮やかに宙を舞った腕がもと通りに。
「変な声を上げるものではありません。あなた、会長を呼んできてもらえるかしら?」
女性がそばにいた見張りらしき男性に声を掛ける。
「申し遅れました。私はシャルヴィ・リトバイセ。副会長です。あなたの名前をお伺いしても?」
「あっ、はい。俺は光。烏原 光です。シャルヴィさんといいましたか?どうして俺の腕はもと通りなんですか?」
「烏原!?あなたがあの!?」
シャルヴィが口をあんぐりと開けている。
「え、あっ、はい。一応は。この名を名乗ったら本家に怒られるとはおもいますが、あえて。そんなことより、俺の腕...」
「なるほど、あなたが...と、腕の話でしたね。我が学園には優秀な医療技術をもった人間がいるのです。その人にかかれば、腕を繋げるぐらいどうということはありませんので。」
「は、はぁ。」
「お待たせしました。」
受付で聞いた凛とした声が聞こえた。
「悠、彼の名前を聞いたら驚きますよ!」
「そうですか、では名前を伺っても?」
なぜか目を輝かせてシャルヴィは悠に促す。
「えっと、烏原 光です。」
おずおずと答える。
「わかりました、ではエントリーの手続きを行いますので暫くお待ちください。」
特に変わった反応も示すことなくエントリー用紙を取り出す。
「え!?おれ参加できるのですか!?」
参加できることを今知った光は驚きの声をあげる。
「当然です。持たざる者のあなたは生徒会たる私に傷を1つ付けました。参加資格はそれで十分です。」
「うそ!当たってたんですか?よかったぁ、あの時死ぬの覚悟で左腕を盾にしたかいがありました。」
「やはりそうでしたか。あまりに無謀な行為に剣がぶれてしまいました。本来なら胴体が裂けていたはずなのですが。」
「あのー、そんなに綺麗な顔で恐ろしいこと言わないでください。」
光は自分の行動を完全に見切られていた事にショックを覚えると同時に未だ命があることに感謝した。
「悠?」
ふとシャルヴィが悠に声を掛ける。
「どうしました?シャル。」
「えっと、あの、いえ、なんでもありません。」
「そうですか。では私は彼のエントリーを済ませて来ますので失礼します。」
「あっ、お疲れ様。」
あのいかにもしっかり者のシャルヴィがどうしてか動揺している。
「シャルヴィさん?」
「あぁ、なんでもありません。剛力羅の詳細は追って連絡します。腕の状態が完全に治るまでここで安静にしていてください。」
「了解です。」
「では、私も失礼します。」
シャルヴィは早足に部屋を出ていった。
「とりあえずエントリーは完了かな。『剛力羅』まで後1ヶ月あるけど、どうしよう。リンデルにいてもいいこと無さそうだし、また森にこもろうかな。」
『剛力羅』への決意を胸に光は再び夢に落ちた。
「悠!どうして!」
シャルヴィが怒りの混じった声で呼びかける。
「シャル、先程からどうしたのですか?」
表情1つ変えず振り返る。
「悠、それは私のセリフよ!」
「なんの事ですか?」
「あの子、烏原って名乗ったじゃない!あなたと同じ苗字なのよ!」
「光なんて名前の家族は知らない。」
「あなた弟がいるって!名前も確か光って!」
とぼける悠にシャルヴィが問い詰める。
「、、、やはりシャルは騙せませんか、、、」
少しの間の後小さく答えた。
「あの子の前で取り乱す訳にはいかないから。私だってすぐにわかったよ。生きてるって思った。嬉しかった。ありがとうって、ごめんねって、伝えたかった。傷つけてしまって自分を憎んだ。でも、でも!私はあの子を捨ててしまったの!今更どうしろって言うのよ!」
目に涙を浮かべ、心の叫びを声に出す。
「あの子は成すべきことがあるって言ってたでしょ。姉さんを探してるって。あなたもあの子のために頑張ってきたんでしょ?ちゃんと向き合って上げなさい。」
シャルヴィが冷静に諭す。悠も落ち着こうと深呼吸を繰り返す。
「わかった。話してみるよ。その前にシャル、あなたにはきちんと話しておくことがあるの。」




