持たざる者に幸あれ---エルリカ
「なるほどな。あんたみたいな雑草野郎にうちのおばあちゃんが押されるとはねぇ」
彼女の名前は、エルリカ・ラルトマン。彼女の祖母、サリエナ・ラルトマンとの戦闘の経緯をなんとか説明し、現在に至る。
「サリエナさんがお持ちの刀がなんとか欲しくて、やむを得なかったんです。あなたが止めに入らなければその刀は、俺のものだったのに。」
「自分の身内が喧嘩売られて止めに行かねぇバカはいねぇよ、アホ!」
「ですよねぇ...」
「エルリカ、少しは落ち着きんす。わっちは商人じゃ、約束は守りんす。」
「はぁ?何言ってんの?おばあちゃん!」
サリエナの言葉にエルリカは口をあんぐりと開けている。
「おばあちゃんまけてないじゃん!なんで?」
「この小僧も言っておったじゃろ。主が来なければわっちゃぁ負けていたでありんす。その事実は変わりんせん。」
「サリエナさん...あなたは一端の商人ですね!」
「雑草野郎は黙ってろ!」
エルリカがこちらを鬼の形相で睨みつける。
「すいません...」
「おばあちゃん、その刀はおじいちゃんの形見でしょ?そんな大切なものを『愧心』のない雑草野郎に渡す必要なんてないよ!」
「確かにこれは、あの人の大切なものじゃ。じゃが、この小僧はどこかあの人と同じ匂いがしんす。わっちももう長い訳ではありんせん。こやつに託すのも1つの選択肢でありんす。」
「だけどよぉ...」
「エルリカ、主もこやつの剣を受けたのじゃろ?なら、気付いているのではないかや?己の心を騙してなんになるのかや?」
「確かにこいつの剣はおじいちゃんに似てる。けど、こいつは持たざる者だ。だから...」
「いい加減にせぬか!なにをぐだぐたとぬかしておる!そんなじゃから、男の1人も出来んのじゃ!これはわっちが決めたことじゃ!黙っとれ!」
とうとうサリエナの堪忍袋の緒が切れた。エルリカは驚きか恐怖か悲しみか、どれとも言えない表情を浮かべる。
「あのぉ、頂けるということでよろしいのでしょうか...」
光が恐る恐る声をかける。
「主よ。先程の話は忘れておらぬな?わっちは主にこの刀を託し、約束を守りんす。主も約束を守ってくれるかや?」
「ありがとうございます!任せてください!」
改めて確認するサリエナに、光は自信に溢れた返事で返す。
「約束?」
話がよく分かっていないエルリカが慌てて尋ねる。
「俺はサリエナさんから刀を貰う。その刀で俺は『剛力羅』を制して学園に入学し、サリエナさんを専属の武器調達人として雇い、資金を払い続ける。さっきも説明したはずだろう?」
「わりぃ、怒りのあまり聞いてなかっ...は?『剛力羅』を制する?お前アホか?」
納得するように頷いていたエルリカが、突然大声をあげた。
「またこの流れか...俺は勝つよ、絶対に。」
同じ流れに呆れた表情をうかペ、光は苦笑する。
「無理に決まってるだろ!お前は持たざる者だぞ?ましてや私も参加する。お前の剣が私に止められている時点で不可能だろう?」
「今は得物が違う。負けるはずがない。」
「それもそうか、だけどなぁ、流石に『愧人』を相手には無謀過ぎないか?」
エルリカは驚きを通り越し、心配の念を向ける。しかし、光の心が揺らぐはずがない。
「俺は優勝しなきゃならないんだよ。それが俺が今成すべきことで、大切だからだ。なにを言われようとこの意志は変わらない。」
「主はやはり馬鹿じゃな。じゃが、やってみなければわかりんせん。わっちは主に賭けるでありんす。」
サリエナがからかいつつも信頼の表情を浮かべる。光と剣を交え、可能性を抱いているのだろう。
「おばあちゃんが言うなら...でも私は容赦しないからね!」
「いいよ、負けないから。」
「ふんっ!さっさと失せなさい、この雑草野郎が!」
エルリカがしっしと手を払う。どこか嬉しそうなのは気のせいだろう。
「そうさせてもらうよ。『剛力羅』に向けて刀に馴染まないとだし。」
「とっとと失せろ!次会ったら殺す!」
「是非優勝してくりゃれ?」
「はい、任せてください!」
エルリカは背を向け、恐ろしいことを言うが気にしない。サリエナと固い握手をし、武具屋に別れを告げる。
『剛力羅』の最終エントリーは一週間後、来る日に向け刀を慣らすべく森に早足で帰る光。足取りは軽く、馬のように駆けた。
「しゃあ、いっちょやりますか!」
『剛力羅』の開催場所であるリンデル闘技場では既にエントリー受付が始まっていた。
「生徒会長、今年は面白いのいますかねぇ」
「私は興味はありません。私は成すべきことのためにここに来ました。他人のことなど知る必要はないので。」
「つれないなぁ、会長は」
学園の生徒会の面々が受付をしながら今年の参加者の目利きをして楽しんでいる。
「悠、学園長がお呼びよ。」
「分かりました、ここは任せます。」
早足で、学園長の元へ向かうのだった。




