↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/18

僕の可愛い娘、ミアへ

元気にしていますか?お父さんはとっても元気です。

なんて、たった9日しか経っていないのに、こんなことを聞くなんて可笑しいよね。お父さんとは違って、とってもしっかりしてるミアのことだから、大丈夫だって分かっていても6日目あたりまでは心配で心配で、アリシアさんにも叱られちゃいました。

今回、家に帰るって約束した日まで後1日だって言うのに、こんな手紙を書いたのには理由があります。

あっ、帰りたくないとか、そんな事じゃないからね。安心して?ちゃんと、シグナの町まで帰って来てるんだよ?ミアが待つ家まで、ちゃんと後1日という所まで帰ってきてるんだよ?ミアの為のお土産も一杯買ってあるんだ。楽しみにしていてね?



手紙を読み始めたミアは、今は必要のない、後でゆっくりと読めばいい部分を流し、その文面の中から大切だと思えるところだけを抜き出して読み解いていった。

その文字、言葉の選び方、何より幾ら子供相手への手紙だからとはいえ店を構える商人としての威厳も何もあったものではない内容に、手紙に残る気配を再度感知しなおさなくとも、この手紙が父・ジェラルドの手によるものだと知らせてくれる。だから、ミアに宛てた他愛もない部位は後回しにして、ミアは今のこの状況を説明している部分にだけ、目を通す。

シグナの町。

それは、ミアが今居る自宅兼店のある港町から馬車で1日程の場所にある町の名だ。

その町は、泳いで渡るのは無謀だと言われている横幅が長く、底も深く、そして流れが早い上に小さくとも魔物が住み着いている大河に寄り添っていることで有名だった。水棲の魔物も頻繁に出現しているのだが、何代か前の国王によって橋が掛けられ、治安維持の為に騎士団が常駐しているということで、今では何の苦労もなく両岸を行き来出来るようになっている。

この次の文で、ミアは頭を傾げた。



トラブルが起きてしまったんだ。



どんな問題があったというのか。まぁ、ミアという存在がある限り、どんなに離れていようとも、命に関わるような危険が起こったとしても、怪我1つ無いであるうが。

そんな言葉があれば、心配せずにいられない。娘なのだから。

そこで一枚目の紙が終わっていた為、ミアは逸るように紙を捲った。



橋が壊れてしまったんだ。もうね、ミアも前に見ただろう。あの長くて頑丈な橋が、一瞬で全壊だよ。橋桁も残ってないんだよ!?お父さん、ビックリしちゃったよ。

シグナの町に常駐している騎士団の人の話だとね、何だかよく分からないらしい大きな魔物が最近、川に住み着いてしまったらしいんだって。橋が壊れてしまったのは、そいつの仕業だって言われたよ。

だから、お父さん、ミアの所へ約束通りに帰れそうにありません。

橋が直るまで、この町に足留めです。

見ただけで圧倒される傭兵の集団や、冒険者の人達が何人かは、自力で河を渡っていったんだけど。お父さんには、あの動きはちょっと、ううん、絶対無理だから。

あっ、それでね…



「一緒に、住むの?」

この後、父からの手紙は延々と、大切なことを所々に散りばめながら、計七枚の紙に及んだ。

それにざっと目を通して要約したミアは、手紙からゆっくりと顔を上げ、読み終わるのを焦ることなく待っていてくれた目の前の三人を見回した。

手紙の内容はこうだった。


彼等四人は王都の冒険者ギルドで護衛として雇い入れた。

本当は一人を、と思っていたが『エチゴヤ』という店の名前をギルドで出したところ、四つのパーティがどうしてもと頼んできた。お互いに一切引かない彼等が、賃金は雀の涙程度でいいからと言うので、全員雇った。賃金の代わりに店の商品を融通することで話をつけたらしい。

大河で足止めを喰らい帰れないことにミアが心配で仕方なくなったジェラルドが、護衛に雇った四つのパーティのいずれかに、大河を先に渡って店へ向かってくれないか、と頼む。これもまた、我こそはと言い争いになった為、それぞれのパーティから代表して一人ずつを出し、その四人に向かわせることになった。

これが、今ミアの目の前に居る四人とのこと。

ジェラルドが大河を渡って帰り尽けるまで、ミアと一緒に家で暮らして欲しい、ミアが望むなら店を開けてその手伝いも。


そんなことが手紙には書かれていた。


「そういうことになるんだよ。そう、クーゼン氏、君のお父さんから頼まれたんだ」

信じてもらえるかな?

ラースもすぐに信じてもらえるとは思ってはいないのだろう。困った、とその顔には書いてある。確かに、あるのは手紙と鍵だけ。それだけで親がいなくて不安だろう子供が、見知らぬ大人達を信じてくれるのか、と言われば、普通ならば大泣きされて近所の大人や警邏隊に助けを求められるのがオチだろう。そう、普通の子供ではないミアは考えた。


「…分かった。でも、本当にお金は必要無いんだよね?うち、四つも冒険者のパーティをギルドを入れて雇うようなお金、本当に、本当に、無いんだから!」


ギルドを介するということは、仲介料をがっちりと組み込まれている賃金を支払わなければならない。

小さな店を、噂のおかげで客は絶えないとは言っても一つの商品の単価の安い『エチゴヤ』では大した儲けはないのだ。しかも、今回の父の十日間の不在という、その間の休業は懐にとても痛かった。普通に生活する分には大丈夫でも、予定外の出費は確実に避けたい。


子供らしい赤裸々な言葉で、ミアはそれを彼等へと突きつけた。

護衛という本来の仕事以外の、子供の世話や店の手伝いなどという事をしても、追加料金は無いぞ、と。


「それなら、大丈夫。僕等四人が依頼を受けたのは、この『エチゴヤ』で欲しい商品があるからだからねぇ。お金じゃなくて、それさえ分けて貰えればいいんだぁ」


元々、こっちに来るつもりだった時に、ジェラルド・クーゼン氏に会ってねぇ。こりゃあいいや、って思ったんだよ。


ミアの子供らしい、けれど子供らしからぬ圧力を放った剣幕に答えたのは、相変わらずヘラヘラとしているガロウズだった。

「欲しい商品?」

あぁ、"幸運を得られる店"、その噂を信じて来たのか。またか、そうミアは思った。

でも、わざわざ王都からご苦労なことだ、とも。

王都はこの街から、歩いてなら十五日。足の速い馬車ならば三日もあれば行ける距離ではあるが、そう簡単に遊びに行くという訳にはいかない距離だ。


「私達はそれぞれ、別の雇い主から言われてきたのよ。『エチゴヤ』の『飴』を手に入れてこいって」


エレクトラが口を開く。

可愛らしいという感想が適切な、涼やかな声が、彼等が欲しいのだという商品をミアに教えた。

「あめ?飴って、甘くて固いお菓子の、飴だよね?」

そんなものが欲しいのか。

ミアの声はありありとそんな思いを物語っていた。

飴なら、『エチゴヤ』でも何種類と置いてある。色々な果物の味のもの。蜂蜜味のもの。色々な薬効があるもの。丸い形のものに、棒状のもの、液体状のものもある。でも、それは『エチゴヤ』に限ったことではなく、この街のどの店に入ったとしても、それくらいの品揃えはある。幸運が得られる、という肩書きがあるからといって王都から人をやって買いに行かせるようなものではない。

酔狂なことだ。

しかも、それぞれの、というくらいだから最低でも四人の人間が、それを望んでいるのだ。

長い間、こことは世界が違うとはいえ、人間という存在を観察し続けてきたミアも呆れるしかない話だった。


「そう。でも、あれは特別な飴なんじゃないかな、って噂になっている飴が、僕達は欲しいんだ」


特別な飴?

そんなもの、あったかな?


ミアには心当たりが全く無かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。