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大陸中から、そして他大陸から、人や物が押し寄せてくるこの港街。
大人達が仕事に精を出しているその横で、親の手伝いなどを終えた子供達が元気に、時には大人顔負けの知恵を絞って、子供という時間を堪能している。
ちょろちょろと、忙しく動く大人達の合間を走り抜ける子供達。
もしかすると、大人よりも余程、この街の隅から隅まで、特に新しい出来事については詳しいのでは、と思わせる程、彼等子供は気づくと街の至る所で遊んでいた。
大人の数が多ければ多くなる程、子供の数も増えるというもので。
そして、その人数が多くなればなるほど、幾つもの派閥というものが出来上がっていくのは、大人の世界も子供の世界もそう違いはないもので。
今現在、この街には大きく区分してしまえば、6つのグループが出来上がっている。
だが、別にそれが最近になって生まれたものという訳ではない。
その数は多くなったり、少なくなったり、と変化しながら、子供達が作り出す派閥、グループというものは、それこそ港街の誕生にまで遡って、街の記録などには残っているのだ。
趣味趣向、好き嫌い、大雑把に言ってしまえば気が合うか合わないか、それぞれの独自の特色というものを持って、彼等は仲間を増やしたり、減らしたり。
グループ数の変動よりは珍しいことではあるが、その特色というものも、その時その時のリーダーによって変化を見せることもあったらしく、決まったものというものは無いともいえた。
ただ、それぞれのグループには決まった色というものがあった。
それが定められたのは何時の頃かも分からないまでも、古くからの伝統、という言葉と共にたった一つだけ全てのグループに共通して定められた決まりだ。
一つのグループにつき、一つの色。
その色をしている物を身に付けることが、仲間の証。
その決まりについ最近、ある名前がついた。それは当事者である子供達だけでなく、子供の頃には今の子供達と同じように各々、グループに属してヤンチャの限りを尽くしていた元・子供達、つまり街の大人達も興味津々、話に耳を澄ませたものだった。
カラーギャング。
同じ色を纏って、競い、助け合い、そして各々の活動を楽しむ集団をそう表す国があるのだと。
それを言ったのは勿論、子供達からグループの枠組みなど超えて尊敬を集め、慕われているミアだった。そうであったからこそ、その言葉は子供達にも大人達にもあっさりと受け入れられ、仲間の証の意味はこれまで以上に重要なものになった。
ミアは何時も、子供達からの相談、それがただの雑談のようなものであっても、真剣に聞き、答えを与えてくれた。
だから、今回のこれも、きっと何か術を与えてくれるだろうと、彼等は信じている。信じているからこそ、早く早くと急く心を抑え込み、こうして『エチゴヤ』にまでミアと共に足を向けたのだ。
ミアが指し示す答えに信頼が無ければ、それぞれのグループのリーダーである少年達が移動や待つという無駄な時間を許す訳はなく、すぐさまにでも指示を出す為に動いていた筈だ。
「おまたせ」
信用している。だから、外に出て来たミアが手にしていたその道具を、懐疑的に見ている大人達を横目に、彼等はすぐに受け入れることが出来た。
見たこと無い、聞いた事もない、と大人達は口にしているようだったが、そもそも子供でこの街から滅多に出ることもない彼等はそんなことで物事を判断しようとも思わない。彼等子供の判断はただ、信用出来るか、どうかでしかないのだ。
一本の細い金属をL字に折り曲げただけのように見える、二本で一対の道具。
ミアはそれを、探し物をする為の道具だと説明した。
とても役に立つものだと、言った。
「これを持って、頭に探している物を思い浮かべる。それがこれの使い方」
棒を両手に一本ずつ、棒が平行になるよう前方へと向ける。使い方はそれだけ。平行に並んでいる棒が外側に向けて開いていく方向に、頭に思い描いた探し物がある。
簡単でしょう、とミアはリーダー達の中から無作為に、四人を選んでそれを与えていった。
残念なことに四組しかないから、全員には渡せない、と。
街の中心部から四方に向けた、四人がこれを使って歩く。棒が左右に開く方向を見つけていけばいい。
傍で見ている大人達は皆、懐疑的だ。
見たことも聞いたこともない、しかも仕組みがとんと分からないのだから、それも当然だろう。魔術を扱えるものはそれに対して目を凝らしてみるが、魔力を有しておらず魔道具ではないということしか分からなかった。
本当に、ミアが説明した効果があるのだろうか。
だが、少年達は違った。
「よし!急いで、街の中心だな!」
「中心ってぇと…」
ありがとう、とミアに礼を言うと少年達は慌てるように、疾風のような駆け足で街の中心に位置する場所へと急ぐ。その様子にも表情にも、疑っている様子は一切無かった。
「俺には、ただの火かき棒にしか見えないんだが…」
「まぁ、火かき棒にしては曲がっている位置が可笑しいけどな」
これで見つかる、という子供の声が姿の見えなくなってもまだ、聞こえてくる。それだけ探し物とやらが見つかることが嬉しいのだろう。そして、ミアの言う通りにしたら確実に見つかると思っているのだろう。
だが、大人達はどれだけ考えても、納得出来そうに無いのだ。
あれに何の効果があるのか、と。
「じゃあ、私もまた行ってきます。夕飯を作る時間には帰ってくるから」
少年達は駆けて行ってもミアは残っていた。ミアの用事は終わったのだと、あの棒について考え悩む頭の脇で考えていただけに、ミアがそう言って返事を待つことなく出掛けていった。
「あっ、はいはい。いってら…えっ、ちょ」
その言葉があまりにもあっさりとしたモノだった為に、探し物をするという棒について考察を行っていたガロウズは反応が遅れてしまった。不思議なアイテムの登場に対して、それはガロウズだけではなく、ラースもアクナもエレクトラも殆ど反応は同じ。もしも本当に有用ならば此処を去る時に購入しようか、と彼らは考え込んでいた。
その中で一番に、反応することを思い出せたガロウズが顔を上げて、出かけていくミアの背中を見ようとした。だが、もうすでに、首を四方へと回してみても何処にも、ミアの後姿は見つけられなかった。反応が遅れてしまったといっても、たったの数秒のこと。子供の足ではどんなに急ごうと、そんなに離れることは出来ない筈なのに。
ガロウズは朝感じた、色々な思いの混ざった複雑な想いを、再び胸に湧き起こさせた。
火かき棒に見える。
大正解。ミアは常連客が口にした率直な感想に心の中で喝采を送った。口元に笑みを浮かべたその表情は、悪戯が成功した子供の様に無邪気で可愛らしい。
だが、その間もミアは少しも足を止めることも、その動きを緩めることもしなかった。
出掛けてくると告げてすぐに、ミアは全速力で駆け出ていた。
自分を抑えることを放棄し、人の子では有り得ない速度を出したミアの走りは一瞬にして、ミアが渡した火かき棒を手に、真剣な面持ちで走る少年達を抜き去る程。
勿論、それを人に見られれば大きな、では言葉として過小な程の騒ぎとなり、ミアが人ではないとばれてしまうだろう。
人ではない速度での走りと共に、ミアは人の姿を取ることを止めていた。
うちの娘に、といったジェラルドの望みだったから、それがこちらの世界では出来たから、ミアは人の娘として存在を造っていた。それを止めたミアの姿は誰の目に止まることもなく、きっと少年達には一陣の風が追い抜いたかのように思えただろう。
ネタを明かしてしまえば、何のことは無いのだ。
人よりも速くに街中を駆け抜けることが出来る。誰にも見つかることなく、そして実体が無い為に壁などの障害物も簡単に通り抜けることが出来る。
少年達に渡した、あの棒に何の効果もありはしない。
あれはミアが、探すふりをしながら火かき棒を曲げただけの代物だ。
ダウジングという道具を即興で作っただけなのだ。
元々のそれに効果があるかはミアも知らない。姿を隠したミアが左右に動かして、ミアが先に見つける誘拐された子供の所へ誘導しよう。少年達に渡したあれは、そんな安直な考えによるものだった。
友達は大切にね。
お父さんがそう言うから。
本来ならば店と父の為にしか動こうとは思わない○○○○を動かすのは、大切な父にそう言われたからでしかない。




