第五十八話「歪みの向き」
村の異常報告は、昨日よりもさらに増えていた。
だがセイリスは、その変化そのものよりも“質”の違いに気づいていた。
「場所が……収束している?」
報告書を並べる。
出現地点はバラバラだったはずだ。だが今は違う。
点ではなく――線になっていた。
村の外れ、畑、旧街道跡。
地図の上に置けば、それらは奇妙なほど一直線に並んでいる。
その線は、ゆっくりとある方向へ伸びていた。
「ダンジョン……の方角」
セイリスの声は、確認というより独り言に近かった。
ギルドの記録も同じ傾向を示していた。
「魔物発生地点の偏り」
「遭遇率の変動」
「戦闘痕跡の減少」
どれも単体では異常ではない。
だが“並べたときだけ”意味が変わる。
まるで誰かが、意図して配置しているかのように。
セイリスは地図に指を置いた。
そこにはまだダンジョンの明確な入口は記されていない。
それでも――
「ここが……起点?」
その言葉には、まだ確信はなかった。
ただ、違和感だけが確実に積み上がっていく。
村人の話が頭をよぎる。
『あの辺、風が変わった』
ただの感覚のはずの言葉が、今は別の意味を持ち始めていた。
風ではない。
流れだ。
何かが、この土地を“引いている”。
夜になる前、セイリスは村の外れへ向かった。
地面は静かだった。だが、静かすぎた。
まるで音だけが消されているような違和感。
剣の柄に手を添える。
「……ここではない」
そう呟いた直後。
ほんの一瞬だけ、空気が歪んだ。
それは視覚ではなく、感覚だった。
空間の“向き”がずれたような違和感。
そしてすぐに元に戻る。
まるで、存在そのものが拒まれたかのように。
セイリスは目を細める。
(今のは……)
(転移魔法でも、空間魔法でもない)
(でも確かに、“何かが繋がっている”)
村へ戻りながら、セイリスは確信に近いものを抱き始めていた。
この土地は、ただ魔物が出る場所ではない。
もっと根本的に――
何かが“流れ込んでいる”。
そして、その流れの先にあるものを、まだ彼女は知らない。
ただ一つだけ分かるのは。
「この先に、何かがある」
そう感じるには十分すぎる“歪み”が、この村にはあった。




