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名も無き戦場  作者: 六花
灯火
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第三話「振り返らない者」

戦いが終わってから数日が経っていた。

街はいつも通りだった。

朝になれば人が行き交い、商人は声を張り上げ、酒場には笑い声が響く。


あの日の戦いを知る者はほとんどいない。

知っていたとしても、それはどこか遠い場所で起きた出来事に過ぎなかった。


世界は変わらない。

何事もなかったように回り続けている。


ヴァルクは酒場の隅に座っていた。

木製の椅子は少し軋み、安い酒の匂いが鼻につく。


決して居心地の良い場所ではない。

だが、慣れている。


向かいの席に座る男が紙束を差し出した。

依頼書だった。


討伐。

護衛。

探索。


どれも似たようなものだ。


「どれにする?」

「これでいい」


紙を一枚抜き取る。


「相変わらず迷わねえな」

「迷う理由がない」


それだけだった。


仕事を受ける。

終わらせる。

報酬を受け取る。

また次へ行く。


その繰り返し。


だが。


紙を畳もうとした瞬間、脳裏に剣閃がよぎる。


白銀の光。

迷いのない踏み込み。

噛み合わない感覚。


「……」


一瞬だけ手が止まる。


だが、それもすぐに消える。


変な戦いだった。

それだけだ。


男が不思議そうな顔をした。

「どうした?」

「別に」


ヴァルクは立ち上がる。


依頼書を懐へしまい、剣の重みを確かめる。


外へ出る。

風が吹いている。

雲が流れている。

空は高い。


歩き出す。


止まる理由

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