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名も無き戦場  作者: 六花
灯火
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第二話「揺れる光」

戦いは終わっていた。

少なくとも、そう認識されている。

それにもかかわらず、セイリスの胸の奥には奇妙な感覚だけが残り続けていた。


夜は静かだった。

窓の外には月が浮かび、淡い光が石造りの床を照らしている。

いつもと変わらない夜だった。

そうであるはずだった。


それなのに眠れない。

目を閉じるたび、あの戦場が浮かぶ。


刃の軌道。

風の流れ。

そして、あの男の瞳。


敵だった。

間違いなく敵だったはずだ。

だから剣を振るった。


それなのに。


「なぜ……」


小さく漏れた声は、自分自身への問いだった。


なぜ届かなかったのだろう。

なぜあの戦いは終わったのだろう。

なぜ、今になって考えているのだろう。


答えは出ない。

出るはずもない。


セイリスはベッドから起き上がる。

冷たい床が足裏に触れる。

その感覚だけが妙に鮮明だった。


部屋の片隅には剣が立てかけられている。

幼い頃から共にあったもの。


いつもなら、それを見るだけで心は落ち着いた。


だが今は違う。


胸の奥のざわめきは消えない。


まるで小さな亀裂だった。

今にも壊れるほどではない。

だが確かにそこにある。


セイリスは窓辺へ歩く。

夜風が頬を撫でた。

遠くの灯りが揺れている。


もし。

もし自分が間違っていたら。


その考えが浮かんだ瞬間、胸が強く痛んだ。


違う。

そんなはずはない。


否定する。

即座に。

反射的に。


だが、一度生まれた問いは消えない。


敵とは何なのか。

正しさとは何なのか。

自分は何を信じているのか。


今まで考える必要のなかった問いだった。


だからこそ恐ろしい。


セイリスは窓の外から目を逸らす。


静かな夜だった。

誰も気づかない。

誰も知らない。


だが確かにその夜。

聖者と呼ばれる少女の中で、小さな揺らぎが生まれていた。


それはまだ疑念ではない。

反逆でもない。


ただ一つの問い。


けれど人は時として、

世界を変えるほどの答えに辿り着く前に、

ほんの小さな問いから始まる。


月明かりは静かに部屋を照らし続けていた。

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