表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名も無き戦場  作者: 六花
灯火
PR
17/76

第十六話「祈りの輪郭」

教会の中は、静かだった。

光はあるのに、温度はない。

それがセイリスの日常だった。


祈りの言葉は、もう口に馴染んでいる。

意味を考えなくても、自然に出てくる。

それは救いというより、習慣に近かった。


「セイリス」

後ろから声がする。

振り返ると、司祭が立っていた。


「外の手伝いが入っている。行けるか」

「……はい」

短く答える。


理由は聞かない。

いつもそうだ。


外に出ると、街はいつも通り動いていた。

人がいて、音があって、生活がある。


その中に混ざると、自分の静けさが少し浮く。


レイの店の前を通り過ぎる。

今日は入らない。

ただ、少しだけ視線が止まる。


(あの場所は、少し騒がしい)

そう思って、すぐに歩き出す。


依頼先は小さな孤児院だった。

教会の管理下にある場所。


扉を開けると、子どもたちの声が一瞬止まり、すぐに戻る。

見慣れた光景だった。


「セイリスお姉ちゃんだ」

その声に、少しだけ表情が緩む。


「……うん」

それだけで十分だった。


掃除、食事の手伝い、傷の手当て。

どれも慣れている。


誰かを救っているという実感はない。

ただ、そういう“形”を続けているだけだった。


ふと、手が止まる。


笑い声。

泣き声。

それらが混ざる空間。


(私は、これを“救い”と呼んでいいのだろうか)


その疑問は、以前より少しだけ重くなっていた。


自分が壊れないための、ただの動作として祈る。


「セイリスお姉ちゃん」

小さな手が服を引く。


「また来てくれる?」


少しだけ間が空く。


その“間”が、昔より長く感じた。


「……来るよ」


そう言ったあと、ほんの少しだけ続ける。


「来られる限り」


その言葉の意味を、自分でも完全には理解していなかった。


帰り道。

空は明るいのに、どこか遠い。


街は変わらない。

人も、音も、流れている。


(救うって、なんだろう)


答えは出ない。

でも、答えを求めているわけでもなかった。


ただ一つだけ確かなのは、


やめることは、できないということだった。


歩き続ける。

祈りの形が崩れても。


それでも、手は伸ばし続ける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ