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国を救った英雄は「褒美に聖女が欲しい」と言った  作者: 弥生紗和
第3章

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最終話 指輪

 リアはフォリーと一緒に教会へ戻った。ゼインもリアと同じように寝坊したので、まだ家にいるはずだ。

 教会へ入ると、ちょうど出かけようとしているゼインと『祈りの間』で出くわした。


「リア、戻ったのか……」


 そう言いかけたゼインは、フォリーの姿を見て言葉を失った。リアの後ろに立っていたフォリーは、気まずそうな笑顔を浮かべながら「やあ、戻ったよ」とゼインに言った。


 ゼインは無言のままフォリーに近寄り、二人は何も言わずただ抱き合った。お互いに背中を叩き、ようやく身体を離す。


「フォリー、すまなかった。俺はお前に取り返しのつかないことを言った」

「もういいんだよ。お前の手紙を読んだ。もう僕は気にしちゃいない」

「だが……人間と暮らすお前に、俺は『魔族の元へ帰れ』などと……」

「本当にもういいんだって。僕もあの時は冷静じゃなかった。ウルティオと会えたことが嬉しくて、大事なことを忘れていたんだよ。僕の本当の仲間は、ここにいるってことをね」


 ゼインは嬉しそうに口元を上げ、フォリーも笑顔で応えた。リアは二人が仲直りしたことにホッと胸を撫で下ろす。


「それで、向こうでは何をしていた? 随分帰りが遅かったじゃないか」

「そうだね……初めはウルと一緒に過ごしていたよ。沢山彼と話をした。それから彼らの集落で一緒に生活を始めたんだ。彼らはいい連中だったけど、やっぱり僕は向こうでは『よそ者』だから、大変なこともあったよ。そんな時……使い魔たちがゼインの手紙を持って現れたんだ。僕は手紙を読んですぐに帰ろうと思ったけど、ウルを放っておけなくてさ」

「そうか。ウルティオは納得しているのか?」


 フォリーは微笑みながら「ああ」と頷いた。ウルティオと再び別れる決断をした彼の表情は、ほんの少し寂しそうだ。彼が村へ帰ると決断するまでに、多くの葛藤があったはずだ。それでもフォリーは村に戻ってきた。


「お前の居場所は今も昔も変わらずここにある。フォリー、俺にとってお前は大切な友だ。お前を無理やり俺の復讐に付き合わせたこと、申し訳ないと思っている。お前は何も悪くなかった。お前はただ、小さな子供を助けただけだ。俺の村が襲撃されたのはお前のせいじゃない。これだけは言っておきたかった」


 フォリーは驚き、目を大きく見開いた。そしてその赤い瞳から、一筋の涙が頬を伝った。


「僕にとってもゼインは大切な友だよ。ゼインと一緒に戦えたことを誇りに思う。僕にとってゼインは英雄だ」


 二人は笑顔で再び抱き合った。


 ♢♢♢


 その日は村のみんなで広場に集まり、パーティーをした。今日の主役はフォリーである。彼の使い魔たちも招かれ、使い魔の為に、木の実のパイやベリーのジュースなどが振る舞われた。


 村人たちはゼインが獲ってきた鹿肉のステーキや野菜のスープなどの様々な料理がテーブルに並ぶ。蜂蜜酒とエールはあっという間に消えていく。気づけば焚き火を囲んでダンスが始まり、どこからか笛で音楽を奏でる者が現れ、広場は賑やかだった。


 リアとゼインは輪の中心から少し離れた場所にいた。今日のリアの装いは、ゼインからの贈り物としてフォリーが買ってきたワンピースを彼女自身で直したものだ。まとめ髪にキラリと光る髪飾りは、北部からやってきた鍛冶職人サムが作ったもの。サムは手先がとても器用で、女性向けの髪飾りを作っては旅人向けに売っていた。リアもサムの髪飾りを気に入り、一つ買ったのだ。

 二人は木のベンチに並んで座り、村人たちが楽しんでいる様子を眺めている。フォリーは仲間たちと酒を酌み交わしていて楽しそうだ。


「フォリー様が戻ってきてくれて、よかったですね」

「そうだな」


 リアがしみじみと呟くと、ゼインもフォリーを見ながら頷いた。日は既に傾いていて、もうすぐ夜になる。パーティーはまだ終わる様子がない。恐らく酒好きの大人たちはこのまま残り、夜遅くまで楽しむつもりだろう。


「……リア。渡したいものがある」

「何ですか?」


 リアは不思議そうに首を傾げた。ゼインはズボンのポケットに手を突っ込むと、おもむろにベンチから立ち上がった。


「ゼイン様?」


 ポカンとしているリアの足元に、ゼインが跪いた。わけが分からないまま、リアはゼインに手を取られる。

 するとゼインはリアの左手の薬指に、指輪をはめた。


「……これ……」


 リアは信じられない、という顔で呟き、自分の左手を見つめた。薬指に輝く、金色の指輪だ。


「リア。俺にも指輪を」


 リアはゼインから指輪を受け取ると、今度はゼインの左指にゆっくりと指輪をはめた。リアの指輪と全く同じものだ。

 

「俺たちは嘘偽りなく、夫婦になった。これは夫婦であることの証だ」

「これ……いつの間に作ったんですか?」

「サムが来た時、侯爵からの手紙があっただろう。手紙にはこう書いてあった。『二人の仲を確かなものにする為に、夫婦の証である指輪を作るべきだ』と。侯爵が職人を村に寄こした本当の理由は、俺たちの指輪を作らせる為だったんだ」


 リアはあっけにとられていた。アイアングレイ家から『お礼をする』と言われていたのは確かで、彼らは本当にその約束を守り、貴重な鍛冶職人を村に譲ってくれたのだ。なぜ鍛冶職人だったのか、それはリアとゼインに指輪を贈る為だった。


「綺麗……」


 リアは手を顔の上にかざし、左手に輝く指輪をうっとりと見つめた。


「リア。俺は生涯、命を懸けてリアを守ると誓う」

「……はい、ゼイン様。私も命を懸けて、ゼイン様をお守りすると誓います」


 ゼインはリアを愛おしそうに見つめ、立ち上がると「行こう」とリアの手を引いた。二人が向かったのはフォリーたちがいる輪の中心だ。


「おっ、噂をすればお二人の登場だ」

「何の噂をしてたんだ、フォリー……まあいい。みんなが揃っているところで伝えることがある」


 ゼインはフォリーたちに左手の指輪を見せた。するとフォリーたちは驚いて顔を見合わせたあと、喜びを爆発させた。


「よかったね、ゼイン。これで正真正銘の夫婦だ!」

「ほら、だから言ったじゃねえか。偽装なんて面倒なことをせずに、さっさと夫婦になっちまえばよかったんだ!」

「うるさいぞ、ブライアス」


 茶々を入れるブライアスをじろりと見たゼインの表情は明るい。一緒にいたワイリーも、幼馴染のヴィクターとローズも、みんな二人の結婚を祝福した。


「それじゃあ改めて、本当の夫婦になった二人に乾杯しようじゃないか」


 フォリーがカップを掲げ、みんなで「乾杯!」とフォリーに合わせる。リアはみんなに祝われ少し照れくさかったが、隣に立つゼインの嬉しそうな顔を見ながら、幸せを噛みしめていた。


 日はすっかり落ち、焚き火のオレンジ色が濃くなった。リアとゼインの結婚を祝う為、パーティーは夜遅くまで続いたのだった。


  完

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!面白かったら評価いただけると嬉しいです。

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