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国を救った英雄は「褒美に聖女が欲しい」と言った  作者: 弥生紗和
第1章

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第5話 壊滅した村

 ようやくたどり着いた英雄ゼインの村は、リアが想像していたよりも酷い状態だった。


 焼け落ちた建物はそのままで、生き物の気配は全くない。植物や木は枯れ、重苦しい風がぬるりとリアの頬を撫でる。英雄ゼインはこの村で生まれ育ち、魔族の襲撃で村が壊滅したという。

 ゼインは襲撃の際に自分の妻と両親、妹まで一度に失った。この村は襲撃された時のまま、時が止まっているように見えた。


 本当にこんなところで暮らすのだろうかと不安になりながら、リアは馬車の窓から外を眺めていた。すると石造りの古い教会が彼女の目に入った。他の建物は全て木材で建てられていたようだが、教会だけは頑丈な石造りのせいか、そのままの姿を残していたのだ。リアが知る教会と比べるとずいぶん小さい、二階建ての小さな建物だ。外壁には炎で焦げたような黒ずんだ跡が残っているものの、造りはしっかりしているように見える。

 

 誰もいないはずの村だったが、驚いたことに教会の中から一人の男がふらりと出てきた。それは長い銀髪の男で、足元まで覆った黒いローブ姿で、恰好からみて魔法使いのようだった。無人の村だと思っていたところに突然現れた魔法使いらしき男。何者かとリアは身構えたが、馬を降りたゼインと男は知り合いのようで、親しげに会話を交わしている。


 リアが馬車を降りると、男はリアに丁寧に挨拶をした。

「聖女リア様、魔法使いフォリーと申します。長旅でお疲れでしょう」

「リアと申します……すみません、他に人がいらっしゃると思わなかったので、驚きました」

 

 リアの素直な感想にフォリーは余裕たっぷりの笑顔で返した。物腰柔らかな優男といった雰囲気で、無口なゼインとは違うタイプだ。彼は女性のような美しい顔立ちをしていたが、その瞳は燃えるような赤色だった。この瞳の色こそが、魔法使いの証でもある。

 

「僕はこの村で暮らしていたことがありましてね。ゼインとは一緒に戦った仲間なんです。この男に頼まれたことがありまして、先に村へ来ていたんですよ」

「ゼイン様のお仲間……そうでしたか。でもあの……言いにくいんですが、あなたは魔法使いですよね? その……」

 

 リアは言いにくそうにフォリーの顔を見上げる。リアが戸惑うのも当然だった。なぜなら魔法使いは、元々魔族と同じ種族だからだ。遠い昔、人間と共に生きることを選んだ魔族が『魔法使い』となり、魔族と分かれた。魔法使いは、たとえ人間の味方であっても魔族との戦争には関わらないと決めた者が多い。リアが戦場で味方の魔法使いを見ることは稀だった。


「僕は確かに魔法使いですが、ゼインの友人として彼と共に戦うと決めただけですよ」

「すみません、余計なことを」

「いえいえ、魔族との戦を避けるべきと考える魔法使いが多いのは確かですから。それよりもこの教会をご覧ください。どうです? リア様をお迎えする為に修理したんですよ。中も綺麗にしたので、快適にお過ごしいただけるかと」

 フォリーは早く教会の中を見せたくてうずうずしているようだ。


「修理……? ひょっとして、教会を直したのはフォリー様なのですか?」

「そのとおりです」

 フォリーはそう言って胸を張った。隣のゼインは「お前が直接直したわけじゃないだろう」と彼を小突く。不思議そうな顔をしているリアに、フォリーは咳ばらいをしながら説明をした。

 

「僕には忠実なしもべである『使い魔』がいますから、作業は彼らがやってくれるんですよ」

 

 フォリーは腰から小さな杖を取り出して軽く振った。その場では何も起きず、リアが首を傾げているとフォリーが少し焦った顔で、もう一度杖を大きく振る。すると向こうからちょこちょこと、数体の小さな生き物が小走りでこちらに走ってきた。それは頭が大きく背の低い、人間に似た見た目の妖精だった。彼らはフォリーの周囲に集まり、初めて見るリアを物珍しそうに眺めている。

 

「このとおり、僕には多くの使い魔がいるんです。今は彼らに他の作業をやらせているところで……彼らのおかげで、人手がいる作業もあっという間にできるというわけです。リア様、ここで立ち話もなんですから、早速教会の中へどうぞ。お前たち、呼び出して悪かったね。引き続き作業を続けておくれ」

 もう一度杖を振ると、使い魔たちはこくりと頷き、再びちょこちょこと小走りで戻っていった。

 

「あの使い魔はいったいどこで見つけたのですか?」

「誰もいなくなったこの村に、勝手に住み着いていたんですよ。食料を分けてやる代わりに、ここで僕の手伝いをさせてます。無口ですが気のいい奴らですよ……さあ、どうぞ」

 

 フォリーに案内された教会の中は、綺麗に掃除されていて真新しい椅子も置かれていた。一階は礼拝の間で、祭壇には小さな木彫りの女神像が置かれている。礼拝の間の奥には狭いがキッチンやトイレ、お風呂があった。二階には廊下を挟んで広い部屋が一つと、もう一つ物置のような狭い部屋があった。広い部屋に入ると、そこには木材で作ったベッドと小さな机と椅子がポツンと置かれていた。

 

「どうでしょう? 気に入っていただけましたか?」

「素晴らしい教会です……この家具は使い魔たちが作ったんですか?」

「そうですよ。彼らは手先が器用ですからね」

 リアに褒められ、フォリーは得意げな顔をする。


「これだけの広さがあれば、リア様も暮らしやすいと思いますよ。さて、次はゼインの家を案内しましょう。ゼインの家はまだ建築途中なんですが……」

「えっ? 私はここで暮らしていいんですか?」

 何気なく話を聞いていたリアは驚き、思わずフォリーに聞き返した。

 

「何を言ってるんですか? ここは教会兼、リア様の自宅になる場所ですよ。聖女様をお迎えするから綺麗にしてくれと、ゼインに頼まれたんです」

「そ……そうだったんですか。わざわざすみません……」

「フォリー、さっさと俺の家まで案内しろ」

 

 英雄ゼインはぷいと背を向け、先に家を出た。リアはすっかり拍子抜けしてしまった。てっきりこの家で、ゼインと一緒に暮らさなければならないと思い込んでいたのだ。


(この立派な教会で、一人で暮らしていいだなんて!)

 思わず喜びが顔に出そうになるのを必死で抑え、リアはゼインとフォリーに続いて家を出た。荷馬車に積まれた荷物は御者の手によってその場に下ろされていた。

 

「ご苦労だった。帰りも気をつけてくれ」

「はい、ゼイン様」

 リアが乗ってきた馬車をその場に残し、御者たちは荷馬車に乗って村を出ていく。これで本当に村に残されたのだと思いながら、リアは帰っていく御者たちを見送った。


 遠ざかる荷馬車を見ているあいだに、ゼインとフォリーは先に行ってしまったようだ。リアは慌てて彼らの後を追う。どこもかしこも瓦礫だらけだ。家の残骸、畑があった跡、広場の痕跡などを見るとリアの胸が詰まった。

 ここには確かに、人々が暮らしていた。村の奥には広い森が広がっているが、そちらにも瘴気があるかもしれない。魔族の呪いは人だけでなく、土地そのものが穢される。

 

 土地を穢す呪いのことを人々は『瘴気』と呼ぶ。森が穢れると水も穢れ、その土地に植物が育たなくなり、人が住めなくなる。ゼインの村はどこを見ても瘴気だらけで、ろくに植物が育っていないようだ。わずかに残った緑にリアはホッとするが、圧倒的に穢れた土地の方が多いこの村で、この先どうやって生きていけというのだろうか。


 歩いているとやがて、一本の木が見えてきた。リアは村に残っていた木があったことに驚く。とても太い幹の立派な大木だ。これだけの大木だからこそ、枯れずに耐えられたのかもしれないとリアは思った。

 その木のすぐそばに、真新しい小さな一軒家があった。こちらはまさに建築中といったところで、先ほどの使い魔が何体もいて、せわしなく動き回っていた。家の外観は殆どできあがっているようで、今は家の内部を作っているようだ。

 

 リアが到着すると、ゼインとフォリーは家を見ながら何やら話をしていた。

「ゼインが暮らしていた頃の家にできるだけ近づけたかったけど、木材が足りなくてね」

「……いや、十分だ。感謝する」

 フォリーに礼を言うゼインの横顔は、どこか寂しそうだった。


「こちらに家を建てたんですね」

 リアが声をかけると、フォリーが振り返って笑顔を見せる。

「リア様。ここはゼインの家があった場所なんですよ」

「そうでしたか……」

 ゼインのどこか寂しそうな顔の理由を知ったリアは、気遣うように彼の顔を見る。ゼインはぷいと目を逸らした。

 

「フォリー、後のことは頼む。あんたは俺についてこい」

「え?」

 

 リアの返事を待たず、ゼインはずんずんと歩いて行った。リアは戸惑いながらゼインの後を着いていった。

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