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国を救った英雄は「褒美に聖女が欲しい」と言った  作者: 弥生紗和
第3章

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第38話 痕跡

 リアとゼインは英雄の村に戻った。

 出迎えた仲間たちはみな一様に驚いた。なぜならゼインから「リアと夫婦になる」と聞かされたからだ。彼らが驚くのも当然だ。


「驚かせて済まない。ただここだけの話だが、夫婦になるというのは偽装だ」

 

 ゼインが伝えたのは、リアとの『偽装結婚』の話である。初めは驚いていた仲間たちはゼインの話を聞いてようやく落ち着いた。集まった仲間は魔法使いフォリー、傭兵団仲間のブライアスとワイリー、幼馴染のヴィクターと妻のローザ。みなゼインが信頼する者ばかりだ。


「――そういうわけで生活は今までどおりだし、家もこれまでどおり別々に暮らす。もしも他のやつから何か聞かれても、上手くごまかしてくれ」

「了解だ。でもなあ、偽装結婚なんて面倒なことせずに、本当に結婚しちまえばいいと思うんだが」

 

 思わずブライアスが呟くが、ゼインにじろりと睨まれ、気まずそうに肩をすくめた。


「リア様を守る為に一番いい選択をしたと思うよ、ゼイン」

 フォリーがそう言うと、他の仲間たちも「そうかもな」「いいと思う」と続いた。


「皆さん、ご迷惑をおかけします」

 リアは仲間たちに頭を下げた。ヴィクターの妻、ローザは真っ先に「気にしないで!」と声をかけ、リアの肩に手を置いた。ローザの笑顔にリアはホッと頬を緩める。


「そうと決まればゼイン、みんなで結婚のお祝いをしないとね」

「お祝い? フォリー、そんなのはいらん」

 

 目を輝かせるフォリーをゼインは面倒くさそうに睨んだ。


「いいえ、お祝いはしないと。二人が結婚したことをみんなに知らせる意味もあるわ」

 ローザもフォリーに続く。


「これから冬が来るんだぞ。貴重な食料や酒を無駄遣いできん」

「少しくらいなら平気よ。ゼインは村長になって初めての冬だからって怯えすぎ。長い冬をちょっとは楽しまないと」


 ローザの意見に他の仲間たちもそのとおりだと頷く。ゼインは苦々しい顔でリアを見た。リアにはゼインの気持ちが手に取るように分かり、思わず笑いだしそうになる。ゼインは嘘の結婚で周囲に祝われるのが嫌なのだ。


「それならもうすぐ新年ですし、新年を迎えたお祝いを兼ねて……というのはどうでしょう? ささやかなパーティーならば負担にもならないと思います」

 

 リアはみんなに提案をした。フォリーは真っ先に「それはいい!」と言い、他の仲間たちも笑顔で同意する。


「……まあ、そういうことなら俺は構わんが」

 

 ゼインも渋々同意し、こうしてリアとゼインの結婚祝いパーティーが開かれることとなった。


 ♢♢♢


 仲間たちが解散したあと、魔法使いフォリーはリアとゼインを「ちょっと」と呼び止めた。フォリーは二人に付き合ってほしい場所があるといい、三人は森の中に入った。

 

 森の中にはうっすらと雪が積もっていたが、まだ土がほとんど見えている状態だ。もう少し雪が降れば、やがて歩くのも困難になるほどの雪が積もるだろう。

 三人の白い息が流れ、見上げれば重苦しい白い空。枯れ枝を踏む足音だけが響く森をしばらく歩き、フォリーはようやく立ち止まった。


「これを見て欲しいんだ」

「これは……」


 フォリーが指す先を見てリアは思わず息を飲んだ。そこは一か所だけが黒ずんでいた。間違いなく、瘴気に侵された場所である。

 

「……魔族が来たのか。これを見つけたのはいつだ?」


 ゼインは瘴気を見つめながら険しい顔で呟いた。


「三日前だよ。リア様が戻るまでは、村人たちには近づかないように言ってある」

「すぐに浄化します」


 リアはすぐに瘴気に手をかざした。黒いもやのようなものがリアの手のひらに吸い込まれていき、あっという間に瘴気の痕跡はなくなった。


「大丈夫か? リア」

「ええ、それほど大きな瘴気ではありませんから。それより、どうしてこんなところに魔族は瘴気を残したんでしょう……そういえば、以前にもこのような痕跡がありましたね」

「ああ、そうだな。あの時は魔族がこの辺りをうろついていると思って警戒していたが」


 リアがまだ森の瘴気を浄化して回っていた頃、一か所だけ強い瘴気が残っている場所があった。その時は魔族の襲撃を警戒していたが、結局あのあと何も起こっていない。


「……魔族は、俺に復讐するつもりか」

 

 ゼインは瘴気のあった場所を見ながら呟いた。魔族の王ウィラードを倒したゼインは、魔族にとっては王の仇である。ゼインがそう考えてもおかしくない。だがフォリーはゼインの言葉を否定するように首を振った。


「いいや、ゼイン。僕の考えは君とは違う」

「違う?」


「僕はここに瘴気を残したのは『ウルティオ』だと思うんだ」

「ウルティオだと……?」


 ゼインの目が驚きで大きく広がった。ウルティオとはフォリーが保護した魔族の子の名前である。フォリーはウルティオがウィラードの子である事実を知らず、彼を保護して一緒に暮らしていた。魔族はウルティオを取り戻す為に村を襲撃し、ウルティオは魔族と共に去っていった。彼とはそれきりである。


「魔族がゼインを狙ってここに来たのなら、わざわざ分かりやすい痕跡など残すわけがない。しかもこの痕跡は二度目。これは恐らく、僕に対するウルティオからのメッセージだ」

「お前……」


 呆れ顔でゼインはフォリーを見る。フォリーは自分の考えに確信があるようだ。


「そうか……てっきり戦で死んでしまったかと思っていたけど……ウルティオは元気にやっているんだな……」


 フォリーは瘴気があった場所にしゃがみ、そっと地面に手を触れ、しみじみと呟いた。ゼインは何か言おうと口を開きかけたが、結局何も言わなかった。

 リアもフォリーに何も声をかけられなかった。フォリーの背中から、魔族の子に対する深い愛情を感じたからだ。たとえ敵の子だったとしても、フォリーが彼を守り、育てていたのは間違いない。それは家族を持たないフォリーに唯一できた『家族』だったのだ。


 ウルティオは自分を守ってくれたフォリーの顔を見に来たのだろうか。自分が来た証に、少しの瘴気を残して。


(きっとそうだわ)


 真相は分からないが、そうリアは思うことにした。

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