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国を救った英雄は「褒美に聖女が欲しい」と言った  作者: 弥生紗和
第3章

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第32話 再び王都へ

 リアとゼインはレーイン村から英雄の村に戻った。リアは再び、英雄の村で穏やかな生活を始めた。

 

 ゼインはもうリアに「好きなところへ行け」などと言わなくなった。レーイン村を去る時、ゼインに「村へ帰ろう」と言われたリアは、これで本当に自分は英雄の村の一員になれたのだと心から思えた。

 リアは元々英雄の村にいたかったのだ。ゼインに好きなところへ行けと言われた時、自分の存在というのはそんなに軽いのかと落ち込み、怒りすら覚えた。だがゼインはリアを軽く見ていたわけではなかった。リアの為を思って言った言葉だったと分かってからは、ゼインのさりげない優しさや気遣いを素直に感じることができた。

 ゼインは常にリアを気にしていて、リアが嫌な思いをしないように守っていた。レーイン村へ行ってから、ゼインという男がより理解できるようになったとリアは感じている。

 

 そして季節はあっという間に過ぎ、朝晩の冷え込みがめっきり強くなってきた。

 もうすぐ冬が訪れる。リアにとっては村で過ごす初めての冬だ。雪が積もる前に、村人総出で冬支度をしなくてはならない。

 

 肉や魚は塩漬けにして保存食にする。野菜や果物は干して乾燥させる。これは長い冬に重宝する食材となる。残りの野菜や穀物は保存庫へ。

 少ない食材はみんなで分け合って過ごす。他にも家の補強をしたり、冬用の寝具や新しい防寒着を作ったり、薪となる木材を大量に用意したりと、本格的な雪の季節を前に村人たちはみんな忙しい。フォリーの『使い魔』たちは、村人たちが忙しそうにしている中、森で好き勝手に遊んでいた。だが人手が足りなくなり、とうとうフォリーに手伝いを命じられるようになった。彼らはフォリーが魔力を与えるので、疲れを感じずよく働く。村人たちは使い魔たちにお礼として食べ物を分けたり、暖かそうな毛布をあげたりしていた。使い魔と村人の関係もいいようだ。


 レーイン村がその後どうなったのか。リアはずっと気にしていたが、冬支度の忙しさに追われそれどころではなかった。レーイン村方面からやってくる行商人や旅人も、村について詳しくは知らないようだった。レーイン村は彼らにとって『既に滅びた村』なので、村に立ち寄る理由がない。村の現状が分からないまま、王国に冬がやってこようとしていた。

 

「ゼイン様、レーイン村はどうなっているんでしょうか。もうすぐ雪が降りそうですが……」


 ある日リアがゼインに尋ねると、ゼインは眉をひそめた。

 

「またその話か。俺たちがいくら気を揉んでもどうにかなるわけじゃない。あの王子と聖女がなんとかするだろう。いいか、俺たちには俺たちのやることがある。新たな村人たちと迎える初めての冬なんだ。悪いがレーイン村のことまでは面倒見切れん。あの村のことは二人に任せるんだ」

「……すみません」

 

 リアはゼインにたしなめられ、しゅんとなった。何度もレーイン村のことを聞くリアに、ゼインは少し呆れ顔だ。


「王子と聖女には騎士団がついてる。リアが心配する必要はない」

「そうですね……少し心配しすぎました」


 一応納得したような表情で去っていくリアを、ゼインはため息をつきながら見送る。ゼインもレーイン村のことを心配していないわけではないが、彼は自分の村のことで頭がいっぱいだった。長い冬を無事に乗り越える為には、雪が降る前の準備が非常に重要だ。男たちは家の補修や薪割りをしていて、女たちは魚の塩漬けやソーセージ、ハムなどの仕込みをしている。リアも女たちと一緒に仕込みの作業をしていた。ゼインも狩りに出たり村の様々なトラブルの対応をしたり、日々走り回っていた。短い秋はあっという間に過ぎていった。


 ♢♢♢

 

 その日は朝から冷え込みが強まり、いよいよ雪が降りそうな空模様だった。そんな日に突然、王都から使者が村を訪ねてきた。使者はリアとゼインに会いに来たという。

 

 何か不穏な空気が流れる中、教会の礼拝の間でリアとゼインは王の使者と会った。使者は国王からの伝言を持ってきて、二人に伝言を読み上げた。


「――陛下はお二人に英雄の村の話を直接伺いたいとのことです。今からお二人には、私と一緒に王都へ出発していただきたい」

「ずいぶん急な呼び出しだな。見てのとおり俺の村は今、冬支度で忙しい。もうすぐ雪も降ろうというこの時期に、あえて呼び出す陛下の魂胆は何だ?」

 

 ゼインが鋭い目を使いの使者に向ける。使者は少し怯んだが、負けじとゼインを睨み返した。


「雪解けの春を待ってからでは遅い、とのことです。無理なお願いなのは承知のうえ。来ていただければ、英雄の村に乳牛を欲しいだけ贈ると陛下は申しております」

「乳牛を欲しいだけ、だと?」


 ゼインとリアは思わず目を見合わせた。村の家畜はずいぶん増えたが、まだ乳牛はいなかった。乳牛がいれば新鮮な牛乳が沢山手に入る。ヤギはいるものの数は少なく、村で乳製品は貴重だった。今後はチーズやバター、ヨーグルトなどが大量に生産でき、新しい商売もできるだろう。乳牛を贈るという王の言葉は、村長のゼインにとって無視できないものだった。


「……分かった、すぐに出発する」

「感謝します」


 二人は国王の呼び出しに応え、すぐに王都に出発することとなった。急いで旅支度を整えた二人を見送る為、村人たちが二人の周囲に集まった。


「みんな、この忙しい時期に村を空けることになってすまない。あとのことはフォリーに任せる」

 

 ゼインが村人たちに頭を下げると、彼らは一斉に「気にするなよ!」「村のことは心配すんな!」と声を上げた。魔法使いフォリーは一歩前に出て、ゼインの肩を叩く。


「村のことは僕に任せてくれ。使い魔たちもいるし、冬支度は心配ないよ」

「頼む。できるだけ早く村に戻る」

「ああ、待っているよ」

 

 ゼインは以前王都に行った時と同じ格好をしていた。身体を守る皮鎧に皮手袋、頑丈なブーツ。腰にはしっかりと剣を下げ、毛皮で首周りを覆ったコートを着ている。ゼインの隣に立つリアも、同じような形の毛皮のコートを着ていた。


「気をつけて行ってこいよ」

「新年を迎えるまでには、帰ってこい!」

「リア様をちゃんと守れよ、ゼイン!」


 声をかける仲間たちに、ゼインは「分かっている」と頷いた。


「それでは皆さん、行ってまいります」

 

 リアは村人たちに手を振り、村人たちからの見送りの声を浴びながら馬車に乗り込んだ。再び王都へ向かうことへの不安はあったが、王に村の話を報告するだけならそれほど大変ではないだろう。村の現状を話し、王を喜ばせ、機嫌を取って村に戻るだけでいい。


 だがリアの予想はこのあと、大きく外れることとなる。

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