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国を救った英雄は「褒美に聖女が欲しい」と言った  作者: 弥生紗和
第2章

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第22話 役目は終わり

 一方そのころ、英雄の村では。

 リアは食事処にいた。テーブルの上で手紙を広げ、なにやら熱心に読んでいる。


『親愛なるリアへ。


 手紙ありがとう。リアが新しい村で元気に暮らしているのが分かって安心したわ。マティアス王子との婚約がなくなったことは残念だったわね。でもリアが今幸せならいいと思う。町のみんなも教会のみんなも、リアのことをいつも想っていることを忘れないで。

 私たちはみんな元気よ。教会は相変わらず雨漏りが酷いし、この前は嵐で窓が壊れて、祈りの間が水浸しになったから掃除が大変だった! でも呪いに侵された患者の数は、魔族が減ったおかげでだいぶ少なくなった。私たちの負担も随分減って、すごく楽になったわ。それもこれもみんな、英雄ゼインのおかげね。みんな英雄ゼインの噂をしているわ。凄く乱暴で恐ろしい人だったって聞いてたけど、どうやらいい人らしいってリアの手紙で知れて安心した。

 いつかリアの村にも行ってみたいな。私たち聖女は自由に旅ができないからそれが残念よね。でも離れていても、私はずっとリアの親友だと思ってる。リアもそう思ってくれていたら嬉しいな。


 あなたの親友、アナベルより』


 手紙を読むリアの顔には自然と笑顔が浮かんでいた。手紙の差出人は、リアの故郷の教会で一番仲が良かった聖女アナベルだ。歳はアナベルが二つ上だったが、二人はすぐに意気投合した。夜遅くまでくだらないお喋りをして、二人で笑い転げていたあの日々。ずっとこのまま楽しい毎日が続くとリアは思っていた。ある日突然、教会長から『マティアス王子との婚約話が来ている』と告げられるまでは。


「何を笑っている」

 

 突然頭の上で声がした。顔を上げるとそこに立っていたのはゼインだった。


「友人からの手紙です」

「王都の友人か?」

 ゼインはリアの向かいに座りながら尋ねた。

 

「いえ、私の生まれ故郷にある教会で一緒に暮らしていた聖女です」

「故郷の友人か。確かリアは『ルナベリー』で暮らしていたんだったな? 王都からはかなり遠い町だ」

 リアは微笑みながら「ええ」と頷いた。リアの故郷である『ルナベリー』は、王都から南にあるのどかな港町である。王都の人間には「田舎町」と蔑まれることもあったが、のんびりとした町に暮らす人々はみんな陽気で人がいい。リアの大好きな故郷だ。

 

「アナベルとはいつも一緒でした。私が呪いの浄化で苦しんでいる時、彼女はそばにいて私を励ましてくれました。くだらないことで笑い合い、悩みを相談して……彼女は、私の親友です」

 

 しんみりと話すリアの顔を、ゼインは無言で見つめていた。


「私たちが暮らしていた教会はとても古くて、雨が降ると雨漏りが酷くて……雨が降るとみんなで一斉に教会中の器をかき集めるんです。さっき飲んでいたコップまで引っ張りだして」

「修理はしないのか? 雨漏りは大変だろう」

「もちろんそうしたかったんですけど、建物を直すのは、たくさんのお金と人が必要で……ルナベリーでも魔族との戦いで多くの人手が必要でしたから、私たちの家に大切な人手を回すわけにはいかなかったんです」

「まあ、どこもそんなもんか。しかし聖女の能力は国を守る為に必要不可欠だというのに、当の聖女が雨漏りだらけの部屋で暮らしているとはな。王都の連中はこの長い戦のあいだでも贅沢をしていただろう?」

「それは……私にはよく分かりません」

 

 リアは苦笑しながら首を振った。魔族との戦いは長年続いていて、特に激しい戦いになったのはここ十年ほどのことだが、バークス王の『贅沢を控える』という宣言はとっくに形骸化していた。王宮を飾り立てるのを少し控えたくらいのもので、相変わらず王族と貴族たちは派手なパーティーを開いていた。もちろん大っぴらにはしていなかったが、そういう噂はすぐに広まる。市井しせいの人々が苦しい日々を送っていた一方で、上流階級は普段と変わらない暮らしをしていたという記憶は、人々のあいだにくすぶり続ける火種のように残り続けている。

 

 王都教会には聖女たちが生活をする別棟があり、そこは『聖女棟』と呼ばれていた。リアは初めて中に入ったとき、今まで暮らしていた環境とあまりに違うので驚いたものだ。聖女たちにはそれぞれ個室が与えられ、立派な家具も備え付けられていた。聖女たちの家からの寄付もあり、部屋の環境はかなりいいものだった。

 

「でも、もう戦も終わりましたし、きっと寄付も増えてすぐに教会の修理もできるようになると思います」

 そううまくいくか……と言いかけたゼインだったが、リアが笑顔で話す姿にその言葉を飲み込んだ。

「まあ、そうだな。戦が終わった今、どこも復興で大忙しだ。あんたの町もきっと同じだ」

 

 リアは「ええ、そうですね」と笑顔で応えた。故郷を懐かしく思うリアは、時々故郷に帰りたいと思うこともあった。しかしリアは自分には大切な使命があると分かっている。聖女として生まれたリアは、それを覚悟したうえで故郷を出たのだ。


 話が終わり椅子から立ち上がったゼインに、リアは「これからどちらに?」と声をかけた。

「狩りに行ってくる。日没までには戻る」

「分かりました。お気をつけて」

 

 ゼインは小さく頷き、去っていった。村は見事に復興を遂げ、ゼインは元々の仕事であった狩猟をする為に出かけることが増えていた。呪いを解く作業も終わり、リアはずいぶん暇になった。ゼインを訪ねてやってくる旅人の応対をしたり、鶏の世話をしたりはしているが、聖女としての役目は既に終わったと言える。


 リアは食事処を出て、村を見渡した。あちこちに家が建ち、商店や宿屋もでき、屋根の煙突からは煙が立ち昇っているのが見える。そこにあるのは日常の生活だ。リアが初めてこの村にやってきた頃からは考えられないほど、英雄の村は素晴らしい復興を遂げた。ここまで早い復興を遂げられたのは、ゼインをはじめとする仲間たちの頑張りのおかげだ。朝から晩まで働き、フォリーの呼びかけで多くの移住者がやってきた。


(私の役目は、もう終わったのかもしれない)


 リアは村の光景を見つめながら、そんなことを思った。

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