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国を救った英雄は「褒美に聖女が欲しい」と言った  作者: 弥生紗和
第2章

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第19話 試練

 占い師ヨークはバークス王のお気に入りだ。王は大きな決断を迫られる時、彼の占いを頼りにする。リアをマティアス王子の婚約者とすること、ゼインの望みを全て叶えること、それらも全て占い師ヨークの助言によるものだった。

 そして彼は魔法使いでもある。豊富な人生経験と先を見通す冷静な目は、彼の占いを説得させるために役立った。


 ヨークはバークス王に頼まれ、ある占いをした。リアと婚約を解消したマティアス王子の新たな婚約者を選ぶためだ。王家の男は必ず『聖女』を妻にしなければならないという掟がある。よって新たな候補も聖女ばかりだが、バークス王はどの候補者にも興味を示さなかった。候補者はみな若く美しい聖女ばかりだったが、肝心な『聖女の力』がリアには遠く及ばなかったのである。


 そこで呼ばれたのが占い師ヨークだった。判断に迷ったバークス王はヨークに「相応しい聖女は誰か」と尋ねた。

 占いはそれぞれの名前が書かれたカードから選ぶ形で行われた。前回の占いでは、ヨークはリアの名前が書かれたカードを引いた。バークス王はもともとリアの能力を高く評価していたので、その結果にとても満足していた。

 

 そして今回、ヨークが慎重に選んだ一枚に書かれていた名前は「ルイーゼ」だった。ルイーゼの名前が書かれたカードを見せられたバークス王は、あからさまに落胆の表情を浮かべた。


「これは、間違いないのか? ヨーク」

「私の占いでは、そう出ております」


 実はこの占いには仕掛けがあった。カードにほんのわずかな傷をつけ、選ぶふりをしてヨークはルイーゼのカードをあえて引いたのだ。はっきり言えばインチキだが、確実にルイーゼのカードを引く為には仕方がない。

 ヨークは息子のマティアスが希望するルイーゼを選ぶよう仕向けた。このことにヨークは少し罪悪感を覚えたが、気に入らなければ王自身が占いの結果を反故にすればいい。あくまで最後に決断するのは王なのである。


「ううむ……」

 バークス王は顎に手を当て、立派に蓄えられた髭をさすりながら考え込んでいた。眉間に刻まれた皺はますます深く、明らかに自分の望みと違う結果が出た表情である。

 

「陛下。これまでにも申し上げております通り、占いはあくまで道標。しかしその道標に従わなくとも、人生にはまた別の道があるのでございます」

「ああ……分かっておる。しかし、よりによって聖女ルイーゼとは。これは逃れられない運命なのか? マティアスはあの聖女と深く愛し合っているようだ。ルイーゼの血筋は問題ないが、あれは少々、聖女としての資質に欠けておると『大聖女アズーラ』も眉をひそめておった。我が『コーザー家』に迎えてもいいものか……」


 王は悩んだ。ルイーゼの力は他の聖女に劣るが、血筋の良さは問題がない。聖女の能力は必ず受け継がれるものではなく、平凡な聖女の娘が天才的な能力を持って生まれることはある。ルイーゼに娘が生まれれば、その娘は優れた聖女になるかもしれない。ヨークの占い結果を無視していいのか……王は悩んだ。


 結局バークス王は占い師ヨークの占いどおりに、聖女ルイーゼをマティアスの新たな婚約者とした。マティアスの企みは見事に成功し、二人は晴れて結ばれることとなったのである。


 ――そして、現在。


 聖女ルイーゼは他の聖女たちと『癒しの手』教会で生活している。彼女の部屋は聖女たちの中で最も広い個室だ。部屋の中にはマティアスからの贈り物がたくさんある。宝石をふんだんに使ったアクセサリーや、愛をささやく手紙の束。数多くの服や靴で部屋が溢れた為、彼女専用の物置部屋が用意された。聖女は普段、聖女服と呼ばれるローブを着て過ごすので、豪華な服は本来なら必要ない。これらはルイーゼがマティアスとお忍びで出かける時の為にある。


「ルイーゼ様、おはようございます」

「おはよう、いい天気ね」


 廊下をすれ違う聖女たちは、ルイーゼのことを「ルイーゼ様」と呼ぶようになっていた。ルイーゼがマティアスの新たな婚約者に選ばれたというニュースは、聖女たちのあいだでもあっという間に広まった。王子の未来の妻となったルイーゼは、これまでと立場が変わるので、呼び方も変わったのだ。


 これまでもルイーゼは、聖女たちのあいだでリーダー的な存在だった。育ちがよく明るい彼女は、他の聖女たちをあっという間に味方につけた。多少わがままな面はあったが、聖女たちを引っ張る存在としてルイーゼは慕われていた。


「今日も私は出かけるから、後のことはお願いね」

「はい、ルイーゼ様」


 ルイーゼは上機嫌だ。戦が終わり、王都は戦が始まる前の賑わいを取り戻しつつあった。しかし未だ各地に残る瘴気を浄化する為、王都の教会でも多くの聖女が各地に派遣されていたが、ルイーゼは王都に残っていた。彼女はあまり多くの呪いを解けない。現地に行っても役に立たないのは明らかであり、ルイーゼが行きたがらなくても、それを咎める者は誰もいなかった。


 ルイーゼは今日、王宮に呼ばれていた。意気揚々と王宮に向かう彼女の表情は明るく、自信に満ち溢れたその顔はますます美しさを増していた。

 彼女が通された部屋には、既にマティアス王子が席に着いて待っていた。同じテーブルに着いていたのはバークス王だ。ルイーゼはマティアスを見て嬉しそうに微笑んだが、すぐに王を見て表情を引き締めた。


「俺たち二人に話したいことって何ですか? 父上。婚約の話ならもうとっくに……」

 

 マティアスもルイーゼ同様に浮かれていた。ルイーゼを隣に座らせ、早速手を握って見つめ合う。マティアスは占い師ヨークにこっそり頼んで、ルイーゼを婚約者として選ばせるよう誘導していた。それが見事に上手くいったので、マティアスはずっと機嫌がいい。


「それが私と話す態度かね。いい加減手を離したらどうだ」

 ずっとイチャイチャと見つめ合っている二人に、王は眉をひそめた。

「ああ、すみません父上。それで……話って?」

 

 悪びれる様子もなく笑うマティアスと、隣で微笑むルイーゼを見ながらバークス王は小さくため息をつき、ようやく本題に入った。


「二人の婚約を認めるにあたり、私から一つ試練を与えることにした」

 

「……試練? どういうことです。父上はルイーゼを選ぶと言ったはずでしょう?」

 マティアスは怪訝な顔をして、隣のルイーゼと視線を合わせた。

 

「確かにそう言ったが、聖女ルイーゼの力を私に見せてもらいたいのだ。聖女ルイーゼが我がコーザー家に入る聖女として本当に相応しいかどうか、その能力を確かめたい」

 

 ルイーゼの顔に不安が浮かんだ。マティアスはルイーゼの手を握ったまま彼女の顔を見つめ、声に出さず「だいじょうぶだ」と口を動かす。


 つまりこれが、バークス王がマティアス王子と聖女ルイーゼに課した『試練』であった。

 王都から馬車で六日ほどかかる『レーイン村』に向かい、魔族の襲撃で滅んだ村の瘴気を浄化し、村を元通りに復興させて見せよ、というのがバークス王の命令だ。


「――レーイン村を復興させろって? 西の小さな村が一つ滅んだところで問題ないでしょう? 他に力を入れるべき場所はたくさんあるんです。村人は村を捨てていったんですから、今さら元通りにする意味なんてありますか?」

 

 マティアスはムッとした顔で父親に言い返した。隣のルイーゼも、その通りだと言わんばかりに大きく頷いて見せる。

 

「私はお前たちに『レーイン村を元通りにして見せよ』と命じた。私がそうすべきだと考えたからだ。英雄ゼインは自分の生まれ故郷である村を、聖女リアと共に見事に復興させたそうだぞ。英雄ゼインと聖女リアにできたことを、お前たちができないわけがない。そうだろう?」

 

 ゼインとリアの名前が出ると、マティアスはあからさまに不機嫌な表情になった。

 

「……当然ですよ父上。俺とルイーゼが必ずや、レーイン村を元の姿に戻して見せますから安心してください」

「よろしい。それと一つ付け加えておくが、この試練はお前と聖女ルイーゼの二人で臨むのだ。他の聖女から力を借りてはならない」

「お任せください。ルイーゼならきっと試練を乗り越えられますよ、なあ? ルイーゼ」

「え、ええ。もちろんですわ陛下」

 

 自信たっぷりに胸を張るマティアスだったが、その隣に座るルイーゼの表情は冴えなかった。

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