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国を救った英雄は「褒美に聖女が欲しい」と言った  作者: 弥生紗和
第1章

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第13話 ゼインと仲間たち

 リアの身体は無事に病から回復した。身体が元気になれば、体内で暴れる呪いも浄化できる。

 リアが元気を取り戻したのは、彼女が倒れてから数日が経ってからのことだった。


(随分長く寝ていた気がする)


 リアは教会の外に出て、空を見上げて朝日の眩しさに目を閉じながら、深く深呼吸をした。早速森の女神像のところへ行こうと村を歩いていたリアは、畑で水やりをしているゼインの姿を見つけた。


「おはようございます、ゼイン様」

 声をかけると、ゼインは驚いた顔でリアを見た。

「もう身体はいいのか?」

「はい、もうすっかり。ゼイン様やフォリー様には、色々とお世話になりました」

「気にするな。もう無理はするなよ」

「はい……すみません」

 

 身体を縮め、小さな声で答えるリアに、ゼインは「ちょっと見てみろ」と声をかけた。リアは首を傾げながら畑の中に入る。


「これを見ろ」

 ゼインが指を差した先にあったのは、小さいがしっかりと空に向かって伸びる芽である。畑に植えた野菜の種が、見事に芽吹いたのだ。リアは目を輝かせ、その場にしゃがんだ。

 

「凄い……こんなにたくさんの芽が」

「大地の瘴気が消え、水が綺麗になった証だ。これで野菜が育てば、自分たちの食い扶持は確保できるようになる」

「よかった……」

「あんたのおかげだ。感謝する」


 リアはハッと顔を上げた。そこにはリアをじっと見下ろすゼイン。相変わらず笑顔のない顔だが、その口から出た感謝の言葉に、リアは自然に口元が緩む。


「これが私の使命ですから」


 リアは立ち上がると「朝のお祈りに行ってきます」と言って畑を出た。突然この村に連れてこられたリアだったが、今の彼女には充実感があった。大変だったが、リアの力で村は元の姿を取り戻しつつある。畑で野菜を作れるようになり、鶏小屋には鶏がいて、村人も少しずつだが増えてきた。

 

 呪いに侵された人を救い、感謝されることでやりがいを感じていた彼女だが、村そのものを『救った』のは初めてのことだ。


 森に入り、リアは女神像の前で祈る。

(今日も一日、無事に呪いが解けますように)

 まだ森の中には瘴気が残っている。完全に森が元に戻るまではあと少しだ。ゆっくり休んでなどいられなかった。


 ♢♢♢

 

 森の瘴気を浄化していたリアはふと気づくと、村からだいぶ離れた場所まで来てしまっていた。


(この辺りはもう安全かな)


 リアが見渡す限り、森に不穏な様子はない。瘴気をだいぶ身体に取り込んでしまったので、そろそろ村へ戻ろうとしたリアは、更に奥の方で瘴気の気配を感じた。


(なんだろう、他の瘴気よりも強い)


 慎重に近づいてみたリアは、思わず息を飲んだ。瘴気に侵されている場所があったが、瘴気の強さが明らかに違う。森の瘴気は時間の経過で少しずつ薄れていくのだが、ここだけはまるで『ついさっき』呪われたように見えるのだ。


(さっきまでここに、何かがいた……?)


 リアの身体にぞわっと鳥肌が立った。魔族との戦いは、魔族の王ウィラードを倒したことにより、終わったはずだ。だが魔族が全ていなくなったわけではない。彼らは住処に戻って息をひそめ、虎視眈々と次の機会を狙っているのは間違いない。瘴気がなくなったからといって、ここが安全だということにはならない。


 リアは駆けだすように村へと急いだ。


 ♢♢♢

 

「――そうか。魔族の生き残りが近くにいるのかもしれんな」

 

 ゼインはリアから報告を受けても特に驚く様子もなく、冷静だった。食事処に集まった仲間たちは、リアの話を聞き今後の話し合いをしていた。

 

「リア様が森に入る時は、誰かが必ず付くようにしよう」

「それがいいな」

「俺たちがいるんだから、魔族の残党なんか怖くもないよ」

 鼻息の荒い仲間たちがリアを励ますが、当のリアは浮かない顔だった。


「私がこの村にいるから……魔族は私を狙っているんじゃないでしょうか」

 

 リアの言葉に、その場が一瞬静まりかえった。魔族にとって聖女は邪魔な存在だ。魔族がリアの存在を知り、襲ってくる可能性は十分に考えられた。


 沈黙を破ったのは、ゼインだった。

「そんなのは初めから想定済みだ。たとえそうでも、俺たちがリアを守るから心配するな」


 ゼインがぴしゃりと言った一言に、仲間たちは「そのとおりだ」と頷いた。こういう時、リアはゼインが彼らのリーダーであると強く感じる。ゼインの言葉はリアを安心させ、仲間たちを勇気づけた。


「俺は森を少し見てくる」

 

 ゼインはそう言い残して席を立った。遠ざかるゼインの後ろ姿を見ながら、ブライアスはため息混じりに話す。


「リア様、不安だろうがゼインに任せておけば心配ない。あいつの強さといったら、他の連中とは比べ物にならんからな」

「そうですね……」

 ブライアスの言葉に少し安心したリアはようやく笑顔に戻る。


「もう戦いは終わったと思ったけど、なんだか思い出しちゃうねえ」

 ぽつりと呟くワイリーの表情は暗い。横のフォリーは若いワイリーを慰めるように、肩に手を置いた。


「あの……皆さんは、ずっとゼイン様と一緒だったんですか?」

 

 リアはいい機会だとばかりに、彼らの出会いについて聞いてみた。リアが知るのは、ゼインがリーダーとなって仲間たちを率いて戦ったということくらいである。


 ゼインたちは『傭兵団』という組織に入っていた。彼らは王家が率いる『王国騎士団』とは違い、志願すれば誰でも入れる。その中身は農民や猟師や木こりなど、様々だ。

 はっきり言って彼らはいわゆる『騎士団を守る為の盾』だった。戦士として技術があるわけでもない彼らは、使い捨ての駒として危険な場所に送られる。その見返りは高い報酬なので、金目当てで傭兵団に入る者も多くいた。

 

 その中で、ゼインとその仲間たちは破竹の勢いで魔族を倒していき、名を上げていったのだ。


 ブライアスは当時を懐かしむように、遠い目をしながら話し始めた。

 

「そうだな、ゼインとフォリーはもともと二人組でな。俺がゼインたちと初めて会ったのは、傭兵団に入るために集まった酒場だった。金を稼いでやろうって輩がみんな目をギラギラさせてるってのに、ゼインとフォリーだけは酒場の隅で静かに酒を飲んでいたんだ」


 ゼインとフォリーは酒場の隅にいた。どこか浮ついた空気のなか、話しかけられても無視をして酒を飲むゼインに苛立った男が、急にいきり立ってゼインに喧嘩を売り始めた。


「よくある小競り合いさ。ゼインはずっと無視しててな、フォリーが仲裁に入ったが、男が相当酔っぱらってて話なんて聞きやしない。その男、とうとうゼインの酒を奪って思い切りゼインにかけたんだ」


 周囲は喧嘩が始まる気配に興奮し、はやし立てていた。髪の毛からポタポタと雫が落ち、ゼインは前髪を拭うようにかきあげ、じろりと男を睨んだ。

 

「あの時のゼインは恐ろしくてなあ。こいつは殺しをやりに来たんだと俺は思ったね」

 大きな身体のブライアスが、身を縮めるように話した。


 男に絡まれたゼインは、椅子を蹴るようにして立ち上がると、男の腹をいきなり殴った。うめき声をあげる男にゼインは容赦しなかった。顔や頭を殴りつけ、最後に身体を持ち上げて床に叩きつけたのだ。二人が勝負にならないのは明らかだった。


「他に文句がある奴は?」


 獲物を狙う獣のような目で、ゼインははやし立てる男たちを睨んだ。男たちは一斉に黙り込み、ただ一人床に転がる男のうめき声だけが酒場に響いていた。フォリーはこの騒ぎの中、平然と酒を飲み続けていた。


 ブライアスは目を輝かせ、話を続ける。

「俺はその時、思ったね。こいつらについていけば、魔族とも十分に戦えるってな。急いで俺はゼインとフォリーに話しかけ、酒を奢った。最初は相手にされなかったが俺は諦めなかった。ゼインこそが、俺が組むべき相手だと思ったってわけだ」


「俺は戦場で彼らに出会ったんだ。三人とも強くて、一目見て憧れたよ。それで無理やりゼインたちについていったんだ」

 ワイリーがブライアスに続く。ブライアスとワイリーが話すあいだ、フォリーはずっと無言だった。


「フォリー様は、ゼイン様と一緒に行くと決めたのはどうしてですか?」


 リアは無言のフォリーが気になり、声をかけた。フォリーは魔法使いと呼ばれているが、魔法使いというのは元々魔族と同じ種族である。古い歴史の中で魔族と袂を分かった者を『魔法使い』と呼んでいるのだ。フォリーにとって魔族は同族である。彼が魔族をどう思っているのか、リアは直接彼に聞いたことがなかった。


「僕はこの村で彼と一緒に暮らしていた友人ですからね」

「それでも……魔族と戦うというのは、フォリー様にとって複雑なのでは?」

「それは僕が、魔族の仲間かもしれないってことですか?」

「そういうことでは……! 魔法使いは魔族との戦いにあまり関わりたくないのだと聞いていたものですから」


 慌てるリアに、フォリーは目を細めて微笑んだ。

「リア様をからかうつもりはなかったんですよ、すみません。僕は魔族と人間、どちらの味方にもならないつもりで生きてきました。魔族と人間の戦いが激しくなっても、僕は関わらないと決めていました。でも、この村で起きた出来事は本当に不幸なことでした。ゼインが魔族に復讐したいと思うなら、それを手伝うべきだと思ったんです」

 

「フォリーも相当な変わり者だが、俺たちと共に戦ってくれた。こいつはいい奴だよ」

 ブライアスが口を挟むと、フォリーは照れたように微笑んだ。


「ゼインは魔族の襲撃で村を滅ぼされ、家族を失いました。彼は魔族の王を殺し、その目的を果たしたら死ぬつもりだと言っていました。復讐の為に彼は人生の全てを懸けている。口では復讐などと言っても、本当にそれを実行できる者は滅多にいません。ゼインは……本当に強い男です」


 魔族の王を殺し、復讐という目的を果たしたゼインは死を選ぶつもりだった――フォリーから話を聞き、リアは衝撃を受けた。だが結局ゼインは死を選ぶことなく、故郷に帰ってきてこの村を元に戻そうと頑張っている。

 

(私を褒美として村に連れ帰ることができたから、彼は今も死なずに生きていられるのかもしれない)


 リアはそんなことを思った。彼がリアを村に連れて来た目的は、村を元の姿に戻すことだ。それは彼にとっての新しい生きがいに違いない。

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