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国を救った英雄は「褒美に聖女が欲しい」と言った  作者: 弥生紗和
第1章

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第12話 聖女になった日

 それはリアが十二歳の時の話だ。リアは母に連れられ、町の教会へ来ていた。その日の母はやけに緊張していて、朝からピリピリしていたので何事かと思えば、教会に『大聖女アズーラ』がやってきたのだ。

 大聖女アズーラは、この王国にいる全ての聖女の頂点となる存在である。国王の親族でもある彼女は普段、王都から遠く離れた屋敷で、静かに暮らしている。年老いて膝を悪くし、普段は表に出てくることがない。聖女たちにとって雲の上の存在である彼女が、突然田舎町の教会にやってきたのだから、リアの母が緊張していたのも当然だ。

 

 アズーラは杖をついてはいるものの、年齢を感じさせないハキハキとした口調と、近寄りがたい迫力がある聖女だった。そんな彼女が真っすぐにリアの元へとやってきたのだ。リアの母は身を固くし、慌ててその場に跪いた。

 

「アズーラ様。この子が娘のリアでございます」

「なるほど、この子がそうなのですね?」

 アズーラは既にリアのことを知っているようだった。リアは母に促されるまま、アズーラに挨拶をした。アズーラは幼いリアを見て目を細める。


「リアの噂を聞き、ぜひ一目会いたいと思っていたのですよ」

「まさかこんなところにアズーラ様のような方がいらっしゃるなんて……光栄でございます」


 リアは母親がアズーラをひたすら恐れているのを見て、大聖女アズーラという存在がどれほど恐ろしいのだろうと思い、心細くなって母親の服をぎゅっと掴んだ。


「幼い頃からリアの力は群を抜いているとか……聞けば、まだ『癒しの手教会』の一員でないのにも関わらず、リアに呪いを解かせているようですね?」

 アズーラの問いかけにその場の空気が凍りついた。

 

「も……申し訳ございません! 近頃魔族に襲われる者が後を絶たず……聖女の手が足りないのでリアを頼らざるを得ない状況でして……」

 

 母親は頭を下げ、ひたすらアズーラに謝っていた。のどかな港町にも、近頃魔族の出現が増えていた。魔族の呪いを受けてしまった人々を救う為、聖女たちは呪いを解いていたが、まだ幼いリアも手伝っていたのだ。

 これは『癒しの手』教会にとっては規則違反となる行為だ。呪いを解くことができるのは『癒しの手』教会に所属する聖女と限られている。リアはこの時まだ十二歳。聖女となれるのは十四歳からという規則があり、当然ながら彼女はまだ聖女になっていなかった。


「私が、母にお願いして手伝わせてもらっています」

 

 リアはアズーラに声を張り上げた。アズーラは口元に笑みを浮かべたままリアを見つめるが、その目は笑っていなかった。


「あら、あなたが自分から呪いを解きたいと言ったと……そういうわけですか?」

「はい、アズーラ様」

 

 アズーラの目が怖かったが、リアはきっぱりと言い切った。嘘はついていない。リアの力は大人の聖女も叶わないほど強く、取り込んだ呪いの力もすぐに浄化できた。周囲の大人たちはリアを褒め、天才聖女と持ち上げた。呪いを解くと驚かれ、感謝された。それがリアにとっては気持ちがよかったのだ。自分が役に立っていると思えるのは嬉しかった。

 

「なるほど。あなたがそう言うのならそれでいいでしょう。ではリア、あなたにはここで一つ試験を受けてもらいましょうか」

「試験……?」

 

 アズーラはお付きの聖女に「持ってきて」と指示をした。お付きの聖女はすぐに小さな木箱を持ってきてアズーラに渡した。


「この中には呪われた花が入っています。これの呪いを解いて見せなさい。あなたにとっては簡単かもしれないけれど、これは教会に入る聖女が全員受ける試験ですから」

 

 リアは箱を受け取り、ゆっくりと開けた。中には真っ黒な花が一輪入っていた。バラを持ち上げてみると、呪いはみるみる吸い取られ、花びらのはっきりとした白が現れた。


 あっさりと呪いを解いて見せたリアに、アズーラは驚いて目を大きく見開いた。

 

「……試験を受けるまでもありませんでしたね。本来なら、教会に入る聖女は十四歳からと決められていることは知っていますね? あなたが聖女になるにはあと二年必要ですが、資格は十分にあると判断しました。リア、あなたを今日から『癒しの手』教会の聖女として正式に認めます」

 

「……本当ですか! ありがとうございます!」

 リアは美しい花を胸で抱くように持ちながら喜んだ。横の母親もホッとした表情で、リアの肩を抱いた。

 

「リア。あなたは正式に聖女となり、これから教会で他の聖女と共に暮らすことになります。家族とも離れて暮らすことになるのですよ。それでもいいのですか?」

「……はい! 覚悟はできています!」

 

 少し動揺したが、リアはきっぱりと答えた。母親はそんなリアを心配そうに見ていたが、母も聖女として生きてきた女だ。リアの決断をすぐに受け入れた。


 リアは翌日から教会に入り、独身の聖女たちと共同生活を始めた。教会の規則は厳しく、自由な外出は許されなかった。毎日同じ食事をして、多くの書物を読み、人々を呪いから救う。まだ幼いリアにとっては大変なことも多かったが、同世代の聖女たちとはすぐに打ち解け、友人もできた。意外にもリアにとって、教会での規則正しい生活は性に合っていたようだ。


 リアは自分の力が優れていることを知り、周囲の期待に応えようと生きてきた女だ。自分がこの世に生を受けた意味は、呪いを解いて人々を救うことなのだと信じていた。

 

 いつの間にか、リアは自分の力に縛られていた。呪いを解けなければ、自分の存在意義がなくなると考えるようになった。どんなに厳しい呪いも進んで解いた。危険な戦場だろうが、リアは決して断らなかった。自分の命など、呪いを解く為ならば失っても構わないとすら思うようになった。

 

 彼女はいつの間にか、自分自身を呪っていたのかもしれない。

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