ep.23 "静かなる町"
僕らはフジの町を出た。
北へと続く山道を歩くあいだ
会話は最初の頃とは
比べものにならないほど減っていた。
無理もない
この短い間にあまりにも多くの
現実を見てきた。
目の前で多くの命が消えた
そしてロジェロは…家族を失った。
これが国を敵に回すということなのか
僕たちは犠牲の重さに
胸を押しつぶされそうになりながら
それでも前へ進むしかなかった。
そんな中、アスノだけが
なんとか空気を変えようと必死だった。
「…でよォ、その家族が泣きながら
借金頼んできてよ。
でも既にたくさん貸してたから
『その金はどうすんだよ』って聞いたら
子供を差し出すとか言い出しやがってさ
俺、思わず二時間くらい説教して…」
僕は苦笑いしつつ言った
「アスノ…今、家族の話はやめた方が…」
ロジェロの表情が一気に冷えた
「ノンデリってやつだな…
シル、次の町でこいつ置いていかないか」
「ロジェロちゃんごめんって!」
そんなやり取りをしながら
僕らは北へ歩き続けた。
やがて山道を抜け、斜面を下りていくと
空気の重さが変わった
平地の空気を吸った瞬間、体が軽くなった。
ずっと酸素の薄い場所で戦ってきたことと
山という環境で
普通より強い異形を相手にしてきたこと。
そのせいで、平地に出た今
目の前の異形たちは
どこか動きが鈍く見えた。
ロジェロとアスノは異形を軽々と倒す
僕は自分の腕を異形に食わせて
そのまま再生させながら一体を仕留めた。
「貴様…再生するからいいかもしれんが
自分の体をもっと大切にしろ」
ロジェロの言葉は
叱るようでいてどこか優しかった
フジの町の戦いを見て心配してくれていた。
アスノは途中で立ち止まり、拳を構えて叫ぶ
「竜虎覇道…!」
ただの空振りに終わる。
「くそッ、まだ形になんねェ!」
その拳から溢れる気迫は確かだった。
もう誰も失わないために…
そう願う気持ちが
彼の拳から静かに伝わってきた。
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フジからさらに北
商人たちが集い、露店と人の声で
一日中賑わう活気ある町、バーサ…
そんな話を聞いていた。
だが実際の目の前の光景はまるで別物だった。
町を入ると
たしかに建物は建ち並んでいる
けれど通りには人の姿がひとりもない
店先にも…人気がまるで感じられなかった。
しんと静まり返った道を
風だけが通り抜け
葉がカラカラと地面を転がる音だけが
やけに大きく耳に響いていた。
「…なんだァ?やけに静かだな…」
アスノが思わず呟く
町へ入るのも躊躇するほどの静けさだった。
僕らは顔を隠すように布を深く被り
簡単に変装を整えると
恐る恐る町の中へ足を踏み入れた。
通りをどれだけ歩いても
やはり人影がひとつも見当たらない
洗濯物も干されていない
開け放たれた窓もない。
異様な雰囲気…
まるでこの町の誰もが
一斉に姿を消したかのようだ。
やがて通りを進むと
武器屋の看板が目に入った。
ここなら誰かいるかもしれない
そう期待して、僕らは店先へ向かった。
恐る恐る扉をノックする。
…返事はない
静けさだけが返ってきた。
失礼かもしれないが
念のためもう一度、少し強めにノックをする
今度は扉の向こうからかすかな声が漏れてきた。
「…ど、どちら様でしょうか」
弱々しく、たしかに人の声が返ってきた。
「武器を買いに来たんです。旅の途中でして…」
僕らはそう伝える
すると、間をおいて返事が返ってきた。
「…虎牙組では、ないですか?」
…虎牙組?
どこかで聞いたことのある名前だった
アスノがわずかに眉をひそめる。
「おい…今、虎牙組って言ったか?
あいつらがどうしたんだ?」
虎牙組…
それは双竜組の敵対組織。
しばらく沈黙が続いたあと
音を立てて扉が少しだけ開いた
隙間からこちらをうかがう視線がのぞく。
「…本当に、虎牙組の者ではないんだな?」
僕らは素性をごまかしつつ
虎牙組とは無関係な旅人だと告げると
男はようやく警戒を解いたらしく
扉を開けてくれた。
「疑って悪かったな…今この町は誰が来ても
まずは虎牙組かと身構えてしまうんだ…」
店主らしき男が疲れ切った顔で言う
店の棚の武器はところどころ欠けている
売れて減ったのではなく
乱暴に持ち去られたようだった。
「…最近になってな、この町は虎牙組に
ほとんど占領されたんだ」
店主は話し出す。
虎牙組は、双竜組よりも
ずっと暴力的なやり方を好む組織だ
それでも…ここまで露骨に町を乗っ取り
住人を追い散らすような真似は
聞いたことがなかったとアスノは言う
「…昔の虎牙組を知ってるのか。
前は、そりゃ荒っぽい連中ではあったが…
せいぜい酒場で騒いで
誰かと喧嘩して終わりって連中だったさ」
そこで言葉を区切り、低く続ける。
「変わったのは…頭が代わってからだ」
店主は入口の方をうかがい
声をさらに落とした。
「俺が知ってるのはここまでだな。
これ以上余計なことを漏らして
消されるのはごめんだ」
何故いきなり…
どうしてよりによってこの町が標的に…?
僕らは必要最低限の会話だけ済ませると
武器屋を後にし、再び町を歩き出した。




