ep.20 "好きなだけ殺していいよ。"
ツワブキは血を吐き始める
いくら伝説と呼ばれた彼女でも
今の状況は、誰が見ても限界だった。
ロジェロたちは震えながら立ち尽くす
何もできない自分たち
そして、自分たちのせいで母が死んでいく現実。
嗚咽が漏れ、涙がこぼれる。
そこへ、ブラムが愉悦に満ちた声で言った
「おい、そこのユーリとかいうやつ…」
ユーリが顔を上げる
ブラムはにやにや笑いながら続けた
「そろそろツワブキの首を斬ろうと思うんだが…
君の行動次第で
どうするか決めようと思っている」
「…は?」
「そこのゼラという男を──斬れ」
その瞬間、空気が凍った。
(このクソ野郎…!
ここまでして
まだ私達に屈辱を与える気か…!)
ユーリの身体は震えて動かない
沈黙が続いた。
ゼラが苦しげに笑い、言う
「ユーリ…大丈夫だ…俺は大丈夫だ…
ツワブキさんの命が助かるかもしれない…やれ」
ブラムは肩をすくめる。
「私は待てない性格でね…早くしないと…」
ユーリは、弱々しく震えた声を絞り出した。
「…やる!やるから!!」
鼓動が跳ねる、呼吸が乱れる。
涙がこぼれながらも
剣を握る手だけは離さなかった。
呼吸が覚悟を決めたような強い鼻息に変わる
ツワブキは薄れゆく意識の中で涙をこぼす。
ユーリは泣きながら
──ゼラの背中を斬った。
誰もが悔しさで言葉を詰まらせた
ゼラが崩れ落ちる
ユーリは罪悪感に耐え切れず
その場で気絶した。
ロジェロとマリーは歯を食いしばりながら
ブラムを殺すような眼で睨みつける。
ブラムは高らかに笑った。
そして… 楽しぃぃぃぃ!!と叫びながら
…ツワブキの首を斬った
~~~~~~~~~~
また…親を失った。
ロジェロもマリーも
現実を受け入れられず固まった。
しばらくして
床に落ちるほど大粒の涙がこぼれた。
(このまま死ねば…この悲しみも終わるのかな)
(失ってばかりの人生…もう……疲れた)
(国を裏切った私が…悪かったのか…)
言葉が出ない
静寂の中で、ブラムの笑い声だけが響いていた。
…こんなに長い一秒は、初めてだ……
背後から、足音が響く
ロジェロがゆっくりと震えながら、振り返る。
そこには
───シルが立っていた。
~~~~~~~~~~
シルは静かに立っていた
逆光で表情は見えないのに…
その存在だけで、空気が変わった。
ブラムが眉をひそめる
「…貴様は…指名手配の…?」
シルは静かに歩み寄る。
ロジェロは涙を流しながら言う
「…シル……
私は…もう……」
周囲をゆっくり見回す。
斬り落とされたツワブキの首
倒れたゼラ、気絶しているユーリ
崩れ落ちそうなロジェロとマリー。
そして、シルはブラムへ向き直る。
ブラムは嘲るように言った
「私とやるつもりか?
なんだその体は…筋肉のひとつもついていない。
殴れば折れそうな、哀れな体だなぁ」
「いまは気分がいい…
もし貴様が私に戦いを挑むなら
この前買った国宝"オニマル"で
相手をしてやろう」
「もっとも、私を倒したらここにいるやつらの
毒が治るかはわからんがなぁ?」
「…」
シルは沈黙を続け
ゆっくりと口を開いた。
「思ったんだ…」
「…?」ブラムが眉を寄せる
「僕は…どんな攻撃を受けても死なないんだ」
「だけど、痛みはある」
「…何を言っ「でも…」
「死んでいった人たちが感じた痛みは
…きっと僕の何十倍も、何百倍も…
痛かっただろうね」
「やりたいことも、願いも叶わず、
復讐も果たせず、心も…痛かっただろう」
『いざとなったら、私があんたたちを守るよ…』
「その痛みに比べたら、死なない僕の痛みなんて
…無に等しい」
ブラムはその気迫に息を飲む。
「ロジェロ達はいま心を痛めている
…その痛みに比べたら、何も感じない…」
「シル…」
ロジェロの顔が崩れ、また涙が落ちる。
──シルはブラムを見つめる。
「君が絶命するまで、僕は殴る」
「君がどれだけ
僕を斬ろうが
撃とうが
燃やそうが」
「僕は倒れない」
「何度でも殴る」
(前の僕は…疲れたらすぐ休んでいた
…でも気づいたんだ)
「僕は死なない」
「限界なんて、ない」
「息が止まろうが」
「心臓や肺が潰れようが」
「僕は死なない」
───だから
君が壊れるまで殴り続ける
君の全てが止まるまで、僕は止まらない。
シルは拳を握りしめる
「始めようか」
「好きなだけ殺していいよ。
君のことを、ゆっくり壊していくから」




