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『天使と紫の炎』  作者: Bro_Be_Like_83
第4部 — 優しきヴォルタ王国および氷霜のエーテル王国における数多の戦闘。
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チャプター56 ― 霧が街を包む前の、特別な出会い……

俺たちは通りを歩いていた。

エンジェル、エリー、エスター、ヴァイオレット、ブランシュ……そして、フードの女。

彼女は俺の隣を歩いていたが、ほとんど口を開かなかった。

ただ、ときおり淡いラベンダー色の瞳で俺を見つめ、何かを読み取ろうとしているかのようだった。


「ねえ、どうして私のことを……『フードの女』って呼ぶの?」

少し戸惑ったように、彼女が尋ねる。


「だって……フード被ってるだろ?」

俺は子どもっぽい調子で肩をすくめた。


彼女はぱちりと瞬きをし、どこか可笑しそうな、微妙な笑みを浮かべる。


「それだけ? もう少し……ひねりはないの?」


「いや……何て呼べばいいか分からなかったんだよ」

俺はさらに大げさに肩をすくめた。


後ろでエリーがくすっと笑う。


「いかにもエンジェルだな。相変わらずストレート」


ヴァイオレットが首を振りながら、楽しそうに俺を見る。


「エンジェルって……たまに本当に“そのまんま”だよね。でも、そこが可愛いと思う」


これまで黙っていたブランシュが、フードの女を一瞬だけ見つめてから言った。


「あなたに悪意は感じない。ただ……観察しているだけ」


フードの女は少し身をかがめ、俺のほうへ顔を近づける。

ラベンダー色の瞳が、不思議な光を帯びていた。


「ふぅん……エンジェル、ね。悪くない名前」


その言葉に、俺は眉をひそめる。


「え……知ってたの?」


「うん。なんとなく」

彼女はいたずらっぽく微笑む。

「面白い人だね。初対面の相手にも、こんなに素直で」


俺は少し照れて肩をすくめる。

後ろでエリーが笑いながら首を振っていた。


「エンジェル、そのままでいろよ。唯一無二なんだから」


「唯一無二、ね……」

俺は小さくつぶやき、前方の道を見る。

この“フードの女”が、本当にただの通りすがりなのか――それとも、もっと厄介な存在なのか。そんなことを考えながら。


風が通り抜け、彼女のフードがわずかに揺れる。

ラベンダー色の瞳は、相変わらず静かに、しかし強く俺を捉えていた。

きっと、長く話すことになる。だが、それは今じゃない。

今はただ、歩く――俺は俺のままで。


そのとき、俺は彼女を見た。

燃えるような赤髪を背中の下まで垂らし、赤と黒の王族のような装いで、まるでこの広場を支配しているかのように歩く女。


心臓が、少し早く打つ。

近づきたい。話したい。彼女が何者なのか、知りたい。


「エンジェル……行かないほうがいい」

ブランシュが氷のような声で言い、俺を射抜くように見つめる。


「大丈夫だって……」

俺は小さく息を吐き、警告を無視した。

「ちょっと話しかけるだけだ」


ブランシュはため息をつく。


「分かってない。危険よ。私でも、彼女が冷静でいられるか保証できない」


「それでも」

俺はきっぱり言った。

「知りたいんだ」


後ろでヴァイオレットとエスターが不安そうに視線を交わす。

フードの女は黙ったまま、状況を見守っていた。


「エンジェル……」

エリーが小さく呼びかける。

「好きにすればいい。でも、気をつけろ」


俺はうなずき、赤髪の女だけを見つめる。

周囲の音が、遠のいていく。


「すみません……赤い髪の方」

少しだけ、ためらいが混じった声で呼びかけた。


彼女は優雅に――そしてどこか危険なほど美しく――振り返る。

赤髪がふわりと揺れた。


「はい? 何か――」

そう言いかけて、言葉を止める。

頬が一気に赤く染まり、目をわずかに見開いた。


「……あ」

息を呑むように。

「天使……?」


その声には、驚きと、はっきりとした憧れが混じっていた。


俺は思わず視線を落とす。顔が熱い。


「え、えっと……ありがとう……その……」


彼女は軽く首を振り、平静を取り戻そうとする。

だが、頬の赤みは消えきらない。


「ご用件は?」

柔らかいが、芯のある声。


「いえ……」

俺は少し迷ってから言った。

「ただ……ご挨拶を」


彼女は澄んだ笑い声を上げる。


「ふふ……可愛らしい方ですね」

赤い瞳が楽しげに輝く。

「とても面白い」


俺はさらに赤くなり、何も返せなくなる。


ブランシュは腕を組み、警戒を緩めない。

ヴァイオレットとエスターは一歩近づき、エリーは少し離れて様子を見ていた。


「落ち着いて」

フードの女が穏やかに言う。

ラベンダー色の瞳が、周囲をなぞる。


だが、赤髪の女は敵意を一切見せなかった。

むしろ、朗らかに微笑んでいる。


「心配いりません」

温かい声で。

「争うつもりはありません。ただ……あなたのような方に会えて、嬉しいだけ」


その態度に、空気は自然と和らいでいく。

ヴァイオレットも表情を緩め、エスターは小さく笑った。

エリーは肩をすくめる。


「……まあ、大丈夫そうだな」


赤髪の女はにこりと笑い、首を傾けて言った。


「あなたたち……みんな、クールですね」


「赤い髪の女性……?あなたは誰ですか?」

思わず好奇心に駆られて、俺は尋ねた。


彼女は微笑む。柔らかく、しかし自信に満ちた笑み。


「私の名前はアンバーです」


「アンバー……」

エリーが少し眉をひそめながら繰り返すが、その後は黙っている。


アンバーはうなずき、肩のあたりで赤い髪が軽く揺れた。


「私はパイラ王国の王女です……燃え盛る灰の王国」

落ち着いた声で説明するが、王国がどこにあるかは詳しく語らない。

「ここ、ヴォルタに来たのは少し休息をとるため……そして、ある人を探すためです。結婚したい相手を」


俺は眉を上げ、わずかに皮肉っぽく微笑む。


「……当ててみようか……紫色の瞳を持つエルフ、かな?」


アンバーは瞬きをし、その視線が燃えるように熱く、ほとばしる情熱で満ちる。


「ええ。まさにその通りです」


その一言に、彼女の言葉の重みを感じずにはいられなかった。

声も、態度も、視線も――すべてが揺るぎない決意を語っている。


隣のブランシュは静かに観察している。表情は変わらないが、目は注意深い。

ヴァイオレットはわずかに眉をひそめ、興味深げに見つめる。

エスターとフードの女は慎重に距離を保つ。

エリーは俺に向かって、まるで「だから言っただろう」とでもいうように、少し笑った。


アンバーは言葉を続ける。赤い唇に浮かぶわずかな微笑み。


「分かりますよね?これは私だけの話じゃありません……約束なのです。必ず見つけなければならない人。どこにいようとも」


その言葉の重みが、俺の頭の中に浸透する。

彼女の決意には抗えない何かがある。


「なるほど……君は、彼のためなら何でもする覚悟があるんだな」

俺は小声でつぶやく。


アンバーは静かにうなずき、燃えるような青い瞳で数秒間俺を見つめた後、付け加える。


「ええ! 何でもします! そして必ず見つけます。どんな道を通ってでも」


驚きと不思議な好奇心が混ざった感覚が、胸に広がる。

この女性は単に王族であるだけじゃない。力も、迫力も……何かが、並外れていた。


「それじゃ……まあ、頑張ってね」

最後に、少し笑みを浮かべて言った。


アンバーは澄んだ、小さくて美しい笑い声を上げる。

「ありがとう、天使。きっと、私たちはうまくやっていけるわ」


こうして、二人の関係の輪郭が、静かに、しかしはっきりと形をとり始めた。

青の塔は、まるでガラスと鋼でできた巨人のように街を見下ろしていた。

朝の光を反射する無数の窓。その頂上には、一人の男が立っていた。

フードを深く被り、吹き荒れる風の中でもなお、圧倒的な存在感を放つ影。

その周囲には、黒装束の暗殺者たちが数名。

息を殺し、ほとんど超自然的とも言える集中力で、眼下の通りを見下ろしていた。


「……あそこだ。」

男が低く呟き、下方の一つの影を指差す。

「――あれが、エンジェルだ。」


暗殺者たちはわずかに身を乗り出し、少年の動きを観察する。

仲間と共に歩く仕草、無防備にも見える立ち居振る舞い。

男は続ける。

その声は冷たく、鋼のように硬い。


「回収する。無駄口は不要。失敗も許されない。手段は問わん。」


若い暗殺者の一人が、眉をひそめた。


「ですが、ボス……囲まれています。人が多すぎる…」


「問題ない。」

男は視線を動かさずに言い放つ。

「混乱は我々の味方だ。抵抗するなら……障害はすべて排除しろ。」


合図とともに、暗殺者たちは準備を始めた。

短剣を取り出す者、鋼製のロープとフックを点検する者、肩に静音式のクロスボウを装着する者。

その動きは洗練され、軍事的とも言える精度を誇っていた。


フードの男はしばらく沈黙し、下のエンジェルを見つめ続ける。

すべてを分析する冷たい眼差し。


「忘れるな……」

やがて、低く囁く。

「彼はただの子供ではない。お前たちが侮れる存在ではない力を持つ。だが――必ず、我々の手中に収める。何としてもだ。」


重苦しい沈黙がテラスを支配した。

風が塔を鳴らし、遠くから街のざわめき――人々の声、車輪の音、生活の気配が運ばれてくる。

暗殺者たちは互いに視線を交わし、この任務の重みを理解していた。


「準備しろ。」

フードの男が告げる。

「十分後に降下する。誰一人として、彼を連れずに戻ることは許されん。」


張り詰めた空気。

塔の最下層にいる者でさえ感じ取れそうなほど、空気は帯電していた。

何かが起こる――決定的な何かが。


男は一度、空を仰ぎ、そして手を振る。

暗殺者たちは音もなく動き出し、影のように街へと降下していった。


赤い円盤が床に置かれた瞬間、テラスから光がわずかに失われた。

冷静な暗殺者が小型の機構を展開し、中央の黒い部分を押す。

乾いた、機械的な音。

足元が微かに震える。


最初は細い白い蒸気。

だが一呼吸の間に、それは綿のように濃く、冬の外套のように重たい白い霧となって噴き出した。


「アーティファクトです。」

起動した暗殺者が感情のない声で言う。

「十分後には霧が濃密化し、広場へと流れ込みます。センサーは無効化され、視界は遮断される。彼らは位置を把握できなくなる。」


巨体のボスは顎に手を当て、氷のような集中力で展開を見つめる。

街全体を見渡し、出口、侵入経路――大橋、路地、屋根を一つずつ分析する。


「十分……」

彼はその時間を刻み込むように繰り返す。

「霧が流れた瞬間が、我々の窓だ。降下し、訓練通りに実行しろ。迅速に、綺麗に、目立たずに。」


ロープ担当の暗殺者が頷き、結び目を再確認する。

その動きは機械的で、死に慣れた者たちの静かな舞踏のようだった。


「群衆がパニックになれば散らす。衛兵が来れば、回収後に陽動を。」

別の暗殺者が広場を見据えながら言う。


ボスは短く、苦い笑みを漏らす。

その声は、より硬く、私的で、どこか憎悪を孕んだものとなった。


「……ルドヴァーンのようにはならん…」


沈黙。

ルドヴァーン――その名は重かった。

公的失墜、致命的失敗、権力を剥ぎ取られた者の屈辱。


ボスは一瞬、目を閉じる。

狂信的な技術者が敗北し、捕らえられ、さらし者となった光景が脳裏をよぎったのだろう。


「奴は慢心した…」

歯を食いしばり、言う。

「機械がすべてをやると思い、勝利を確信した結果があれだ。捕縛、収監、嘲笑……栄光などない。あるのは無様な末路だけだ。」


若い暗殺者が慎重に応じる。


「同じ過ちは繰り返しません。カバーなしでアーティファクトは露出させない。痕跡も残さない。リスクを受け入れ、撤退します。」


「その通りだ。」

ボスの声が鋭くなる。

「対象と“物”を回収する。それだけだ。見世物は不要。名も血も路上に残すな。お前たちは、それができるから選ばれた。」


彼は若者を一瞥し、再び赤い円盤へ視線を戻す。

霧はすでに濃くなり、静かな脅威のように空へ立ち上っていた。


「青の塔の衛兵は北側を十分間閉鎖します。」

オペレーターがイヤーピース越しに報告する。

「換気トラブルだと信じるでしょう。我々は自由に動けます。」


小型スクリーンが展開され、地図が映し出される。

軌道、障害物、監視の死角。

白い霧に覆われた広場、その中に赤いアイコン――エンジェルとその一行。


「隊形は密集しています。」

暗殺者がカフェのテーブル、大橋、噴水を指す。

「中央の最も脆弱な者を押さえ、裏庭へ退避します。」


「アンバー王女、もしくは他の想定外が現れた場合に備えろ。」

ボスが言う。

「王族は常に事態を複雑にする。」


低いざわめきが走る。

予測不能な要素――危険であり、同時に機会でもある。


円盤が脈打つように震え、霧はさらに濃くなった。

一筋がすでに近くの建物の壁を這い、音もなく距離を呑み込んでいく。


「五分後、降下開始。」

オペレーターが時計を確認する。

「時間を誤るな。速度、静寂、撤退――忘れるな。」


影に覆われたボスの顔に、一瞬、約束のような歪んだ笑みが浮かぶ。


「今日、俺についてくる者は、明日、自由な人間として生きる。」

「失敗した者は……ルドヴァーンと同じ屈辱を味わうことになる。」


暗殺者たちは動き出す。

武器を最終確認し、フードを深く被り、無言の合図を交わす。

霧は低く、そして次第に厚くなり、欄干を越えて広場へと流れ落ちていった。


フードの男は、眼下の影を見つめる。

仲間に囲まれたエンジェル――まだ、この冷酷な機構が動き出したことを知らない。


ボスの唇が、残酷な笑みに歪む。


「……十分後だ……」

独り言のように、そして部下たちへ。

「広場は霧に沈む。我々は刃のようにそれを切り裂く。やるべきことは分かっているな。」


それ以上の言葉はなかった。

暗殺者たちは展開し、準備を整える。

その間も街は下で生き続けていた――

すぐそこまで迫った罠に、気づくこともなく。

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