魔王vsルカ・バウアー
☆☆宮廷兵士から見た幼児達☆☆
華麗にして気品に満ちたイルディア宮殿内の玉座の間。
そこを守護するのは嘗て帝国全土での激しい競争を勝ち残り特別な技能を認められた宮廷兵士達である。
煌びやかな装備に身を包み順風満帆な人生を約束されたエリート達である彼等は、その日その場所で人生最大の嵐にして最悪の悪夢に襲われる事となる。
最初に訪れた嵐は、王国最狂である。
王国最狂は見た目こそ5歳程度の幼児だが中身は人類史上類を見ない梟雄である。
5歳にして国王を殺害し6歳にして死霊王と戦い都市王国を攻略、11歳にして人類を裏切り魔王軍の将軍として攻めてきた化物にして売国奴である。
幼児は突如雷撃と共にイルディア宮殿内に現れると、まるで館の主であるとばかりに無警戒に行動した。妖怪ぬらりひょんの如くである。その余りの無警戒ぶりに宮廷兵士達は戦慄する。
次に訪れた悪夢は、宮廷兵士達を更なる絶望の谷底に突き落とした。
王国最狂の後を追う様に魔王が登場したのである。
宮廷兵士達からすれば王国最狂一人でも手に負えないのに更なる大物悪魔が登場したわけで。相手は、どれだけ過剰な戦力なのだと。また5年前の魔王討伐軍で前皇帝を護衛していた彼等は魔王の恐ろしさを嫌と言うほどに知っていたのである。
ここに来て帝国皇帝は、味方の不利を一早く悟り停戦交渉に入ったのである。この皇帝は見かけによらず政治的な判断においては卓越した能力を持つ人間であったのだ。彼は大臣や宮廷兵士達を引き連れ幼児達の元へ行くと、双方納得しうると思われる停戦条件を提示して見せたのである。
「どうだろう、これ以上の双方の争いを朕は無意味と判断する。最低、朕と臣下の城外までの安全を保障してもらえるなら王都の武装を解除し民にも抵抗せぬよう伝えようではないか。必要な金銭も相場の倍まで払おう」
幼女が皇帝陛下に手を差し伸べ交渉が成立かと思えた瞬間、全ての者が耳を疑い戦慄する事になる。
「ローストポークじゃ」
幼女は皇帝陛下を指差し『ローストポーク』と返答したのである。陛下が意味を理解する前に彼は正しく焼き肉にされていたのだ。幼女は嬉々として駆け出し
「ミートボール、青椒肉絲、ハンバーグ」
と辺りを血と肉塊で埋め尽くす大殺戮を始めたのである。
彼女は最初っから交渉などしていなかったのである、晩餐の食材と会話をする人間が居ないように、政治の駆け引きなど通じない別次元の存在であったのだ。交渉に見えたのも彼女が夕食のメニューを思案していたのであり、その後は殺戮ですらなく正しく食材の調理を開始したのである。
そして幼女が黄金の薔薇十字騎士団のメンバーを『焼肉』にしようとした時、王国最狂と魔王の対立が表面化したのである。
これが世に云う、
『王国最狂・魔王と晩餐のメニューをめぐり対立する』である。
後に、この惨劇を生き残った宮廷兵士は吟遊詩人に語る。
「ハハッ、正に地獄絵図だったよ。周りの仲間達が文字通りミンチにされ蒸され捌かれ調理されていくのだからね…あぁ地獄だ…よ」
「王国最狂が貴方達を庇ったと言う事ですか?」
吟遊詩人の質問に、やつれた宮廷兵士は冷笑を浮かべるとだらしなく伸びた髪の間から血走った目を見せ語る。
「ヒッハハ!ハ…ハ…分かってねーな!王国最狂がそんな人間かよ。幼女のメニューは、子供趣味だったからな…奴はそこに怒ったのよ…これは俺の勘だが、きっと王国最狂は俺たちを『しゃぶしゃぶ』にしたかったんだと思うぜ!あの場で幼児達に俺たちが言える事は『美味しく食べて下さい』って事だけさ!ヒャーハハハ!」
元宮廷兵士がここで精神に少し異常をきたした為に会話は打ち切られる事となったのである。
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様々な肉の焼ける匂いが漂うイルディア王宮の玉座の間、
地響きを鳴らし溶岩を噴き出す山々をバックに褐色の肌の幼女は、綺麗な銀髪をかきあげ闘争本能からか食欲からか楽しそうに笑っていた。
「流石に私等くらいの高レベルの者が相対すると精霊どもが騒ぎ過ぎて少々鬱陶しいのう…三頭龍よ」
三頭龍や魔王の到着時に起きたこれらの現象は、ボスクラスの者が得るスキルに『精霊の祝福』と言う畏怖や恐怖を与えるものが有るからなのであった。
そしてこの時、王国最狂は皇女たち黄金の薔薇十字騎士団のメンバーを庇う様に魔王の前に立ちはだかっていたのである。それは保身的な彼らしからぬ行動であり自分自身も驚きの余り唖然としていた。魔王は目を細め心底悔しそうに舌打ちする。皇女は、そこに幼いながらも彼女の幼児に対する愛憎の深さを感じた気がした。
「人間に情がうつらぬか心配で来てみたが案の定じゃな……本当に残念じゃ。」
その時、幼児の鑑定を行っていた、筆頭執事が、ゲフッと過呼吸を起こし仰け反り背後の壁まで後退した、そして荒い息で皇女達に話しかける。
「ハァハァ、し、信じられません。」
「幼児様は、真実の水晶の測定限界のLV999を軽く振り切っております。」
皇女達は眼を見開き衝撃をうける。何故ならそれまでの定説では人類の限界LVは99辺りとではと思われていたのである。勿論限り有る人の命では、その域まで達した者がおらず確認はされてなかったが。
「そっか…」
だが皇女は何処か素直に納得できた。旧王女の雷神の剣を幼児が受けきれたのは奇跡では無く本当に強くなっていたからなのである。5年前の女子寮では早熟な子供なだけとも思った事も有るし当時の彼を今なら超えたと胸も張れる、でも幼児は遥か先に行っていたし自分はそこまでは辿り着けないと分かるのである。
そして筆頭執事は、皇女に5年前と同じく、幼児が単純な戦闘力では皇女に及ばず宮廷兵士達にも満たないと告げる。
「そう………でしたの…」
これには彼女も少し驚く、王国最狂・三頭龍などと言われても戦士の才能も魔法の才能も無い只の11歳の子供なのである、旧王女の剣もおそらくワザと受けたのでなく避けられなかったのだろうと理解できた。そんな子供が自分等を庇って魔王と相対してると思うと皇女は胸が苦しい様な熱いような感覚におそわれる。
幼児は、戦士・魔法・商人の何の才能も無い高レベル者…前代未聞の神業である事は理解できるが、それは強いのか?弱いのか?旧王女の頭に浮かぶ疑問に筆頭執事は言葉を選びつつ答える。
「愚者は、落ちこぼれ・夢想・愚行・熱狂の象徴と言われます、ですが一方で権力に与していない愚者は真なる賢者とも言われ、唯一、王を倒せる存在でもあります」
旧王女の疑問にまるで答える様に幼女は目を細め呟く。
「凶悪じゃな」
「ふんっ!相対すると三頭龍の力が良う分かるわ。初見殺しの魅了系スキルの超神級じゃ!歴史上、道化師を三頭龍の域まで極れた者はおるまい。高レベルになればなるほど危険な職種じゃ。」
幼児は戦術レベルにおいては兵士に満たない無価値な存在であるが、戦略レベルにおいては盤をひっくり返しかねない双方にとって恐ろしい存在であった。
実際に幼児に有るのは他人を魅了する魅力だけであり、その一点をアイテム補正等で限界以上に上げていたのである。今の幼児の魅力は100を限界のSとすれば150を超えてた超S級であったのである。そして、その行動は常に人類・魔王軍どころか神の歴史にすらとらわれる事なく自己の欲求に基づき他人に制御きるものではなかった。彼自身が歴史を操り動かす中心なのである。
(フンッ。私には、お主が魔王に見えるぞ…)
最後の魔王の言葉は本当に誰にも聞こえない呟きであった。そして魔王は、ハードレザーのビキニから覗く自身の肌に触れるとニヤリと笑い伝える。
「三頭龍が私に勝つには身体にふれ魅了をかけるしかないの。そうすれば……」
皇女は思う、『そうすれば…』おそらく魔王にも効くのであろうと。
魔王ですら凶悪と評する魅了である、彼女には、その後が想像できる。
淫らな想像ではあるが四つん這いになり全裸で必死に幼児に奉仕し喘ぐ褐色・銀髪の少女の姿が…。
そして部下の魔将達の前でだらしなく幼児の椅子となっている魔王の姿がである。
はっきり言って見てみたいと思う。
それを考えると皇女は身体が熱くなるのを感じる。だが一方で一般人である幼児に魔王に触れる事など可能なのだろうかと。
魔王の口元には常に余裕の笑みがあるが決して眼は笑っていない、幼児の事をいっさい侮ってはいないのである。そして魔王が腕を振るうと、王国最狂は呆気ないほど簡単に旧王女や皇女達の目前で燃え上がり灰となり消え失せた。皇女は余りの事に目を点にし恐ろしいほどの胸の苦しみと悲しみに襲われる。魔王も寂しそうに呟く。
「愚か者め…………逆らわなんだら……」
と言いかけた所で魔王は心底驚きかつ呆れたような引きつった笑みを見せる。幼児が消えた場所から炎が巻き起こり身体を再生させていたからである。幼児は魔王ですら所持していない蘇生アイテムまで持っていたのである。
だが魔王は、直ぐに獲物を狙う獣の瞳に戻り幼児に対する警戒感を最大級引き上げ、再び腕を振り上げようとした所で止める。
後ろに居た皇女が幼児が完全に復活する前に胸倉を掴み別方向に放り投げたからである。
幼児はポーンポーンポーンと漫画の様にバウンドしながら転がっていく。
そして皇女が幼児を放り投げた先は、ニーナ・バウアーでは決して起動出来なかった古代魔法の魔法陣があった。彼女は王国最狂ならば古代魔法を起動できるのではと賭けたのである、そして逆に彼以外の者では起動する事は不可能なのではないかと感じていた。
王国最狂が転がった先にある魔法陣に彼が触れると、魔法陣は光り輝き急速に回転しながら轟音と共に空中で膨れ上がった。古代魔法が完全に起動したのである。
皇女達は知らなかったが、その魔法陣は取得レベルによって呼び出される効果や威力が違いニーナ・バウアーでは低すぎて起動しなかったのであった。
そして個体能力は最低ながら最高レベルの王国最狂から呼び出されたのは巨大にして最強・最悪な光の龍であった。
巨大に膨れた魔法陣ですら入りきれず全貌が想像もつかない巨大な龍の顔が覗く。
幼女の魔王は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしつつ呆れた様に
「これは凶悪じゃな……」
と言うや否や光の龍に飲み込まれた。
☆☆☆☆☆☆☆
まだイルディア宮殿内では光の渦が荒れ狂っており、皇女は王宮から避難する事を決め幼児の所へ向かおうとした時、驚愕のモノを目にする。
光の渦の中から半死半生の魔王が出てきたのである、再び光に飲まれるのは時間の問題と思われたが、その手はしっかりと幼児を掴んでおり彼を道連れにしようとしていたのである。皇女と旧王女は彼女の生命力に驚きつつも止めをさすべく剣の柄に手をかける。
「三頭龍、お主にも一緒に来てもらうぞ………」
その弱々しい声に幼児は驚きの余り口を開きかけるが、息を飲むと悲しい笑みで魔王の腰に軽く手を回した。魔王は一瞬魂を奪われた様に呆然とするが、直ぐにポロポロと大粒で暖かな涙をこぼす。
皇女には幼児と魔王の会話は分からなかった。だが幼児が別れを告げる様に軽く胸元に手を上げた事で全てを察し目頭を熱くする。彼は自分たちと生き伸びるより魔王と共に死ぬ事を選んだのだと。
そして幼児と魔王の気配が光の渦の中に掻き消えていった後、筆頭執事が伝える。
「お嬢様……お時間が……」
皇女は分かっているとばかりに筆頭執事を手で制す。
幼児の放った古代魔法は、これからが本番とばかりに、まだ宮殿内で荒れ狂っているのである。
「いえ、お嬢様……あのお方は、転移魔法で一早く逃げられた様ですので、我々も急ぎ撤収致しませんと!」
その言葉に皇女達は驚きの余り一瞬で石化した様に固まり、旧王女は声を震わし走り出す
「あ、あ、あ、あの幼児!自分だけ逃げやがったのか!」
幼児は最後まで幼児であったのだ。皇女達は急ぎ撤退を始め途中、玉座の間の端で感無量とばかりに打ち震えているニーナ・バウアーとジェシカ・エデラーを回収する。
「さ、さ、さ、流石はお兄様!媚びぬ!詫びぬ!省みぬ!の王者の精神です!」
この妹にとって兄の行動は全て肯定されるようであった。
爆音が轟き古代魔法は更に力を増しイルディア宮殿を崩壊させていくのであった。
その日イルディアの首都は古代魔法の暴走により壊滅的な被害を受けるのだが、黄金の薔薇十字騎士団とその関係者はどうにか無事逃げ切る事に成功したのである。
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ここはイルディアの首都から10kmほど離れた山水の景色が美しい山の頂である。
そこからは崩壊し大量の土煙を上げ続けるイルディアの首都の様子が遠景で知る事ができた。
そして頂の木陰では幼児が、数珠を片手に
『黄金の薔薇十字騎士団の皆さま成仏して下さい』
と手を合わせて念仏を唱えていたのである。
旧王女などが見たら即座にぶん殴っていたであろう光景である。
そして幼児の横では、生い茂る柔らかな草の上で静かな寝息を立てていた褐色の幼女が目を覚ます。
「ん……ぅ………ん?…何じゃ、私は生きておったのか」
だが彼女は次の瞬間には胸の底から湧きあがる焼け付かんばかりの情欲に顔を紅潮させると、幼児を睨みつけ
「お、お、お、お主!魅了を使ったな!」
幼児の用心深さに涙目の視線を送りながらも
その胸のトキメキに悪い気はしていなかった。
そして魅了など無くても自分は幼児に魅了されたのではないかと思う。
その事実に魔王は幼児に完敗したのだと思い知る、もはや魔王軍内の勢力でも二度と自分は幼児に勝てないだろうと。でも人間の女達同様に幼児に守ってもらうのも悪くないと思えるのであった。
「完敗じゃ三頭龍よ!いや人の勇者、ルカ・バウアーよ。お主と私との婚姻を持って人類と魔族のこの戦争の終結とせぬか」
綿帽子が飛び二人の頬を爽やかな春の風が撫でる
狐につままれた様な顔をしている幼児に、
幼女は、可愛いお尻を向けると、
「お主の焼印、私にも入れてくれるのだろうな……」
焼印とは三頭龍親衛隊が入れている、『L・B』の刻印の事である。
その日、魔王がお尻に『L・B』の焼印を入れルカ・バウアー親衛隊に入った事で、魔王軍での派閥争いは解消されたのであった。
後に、
『王国最狂・魔王と晩餐のメニューをめぐり対立し王国最狂、魔王を打ち破る』
と付け加えられる事となるのであった。
後1話です。




