これアカン!二世武将や!?
産まれた直後の記憶はなく
思考がはっきりして、この世界の事を理解してきたのは2歳になった頃でしょうか、
パチパチと暖炉が音をならすレンガ作りの一室に若い男女が1組。
まるで御伽噺の絵本に出てくる様な理想的な家庭。
それがこの世界での私が知る全てでした。
20代半ばの黒髪の男性・・・そう父の名は、ポポス。
以前に聞いた事の有る名前です……、転生前に聞いた勇者の名前…
「ガハハハッ!それで見事に魔物の巨象を狩ったのよ!」
父は豪快な笑い声を響かせ私を抱きかかえては頬ずりをしてきます。
はっきり言って臭く痛いのですが、これを我慢するのは子供の最初の義務なのでしょう。
筋肉質な体に生え放題の髭は前世の記憶からすれば勇者と言うよりは山賊に近いでしょうか。
一言で言えば石器時代の勇者と言う感じなのですがドンマイです。
そうしてもう一人の栗色の髪をした綺麗な女性は母親のティアナです、既に妹か弟を妊娠しているのかお腹の辺りが少し大きくなっています。
彼らは私の事をルカと呼びます。
それがこの世界での私の名前なのでしょう。
今は一日の大半を子供用のベッドの中で過ごしています。
ときおり空中を眺めては……思わず手で空を掴みます。
目の前に何か浮かんでいるのです。
最初は目のゴミか何かと思っいましたが
それを意識すると段々とハッキリと見えてくるのです。
落語の中での死神には人の寿命が見えていると言いますが、それはこの様な感じなのでしょうか。
えぇ・・・実際に、そこには私の死ぬまでの全てのものが表示されていました。
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『ルカ・バウアー』(2歳)
攻撃 :16(F)
魔力 :15(F)
魅力 :98(S)
職種:遊び人
LV1
【プレイヤースキル】
・親の七光り
【プロフィール(980~999)】
勇者ポポスの息子、人魔大戦のおり押し寄せる魔王四天王軍1000に対しザサイの砦に立てこもるも砦の陥落と共に死亡したとされる。骸はオーガなど魔王軍の餌とされる。芸術や娯楽を愛し、ポポスを描いた『家族の肖像』は後世で一定の評価を受ける
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……
…
本当に全てが載ってますよ。
そして思わず目を逸らしちゃいました。
気分的には恐怖新聞を見てしまった感じでしょうか、死神の眼と言うよりは古典物理学のラプラスの悪魔ですよね。知っちゃいけない不幸になる未来視です。
えぇ、ろくでもない物を見てしまった感じです。
し、しかも。こ、これ駄目なやつです………
父親が有名なだけで何の功績も無いのに名が残った二世武将です。二代目社長や秀頼タイプですよ職種も遊び人ですし。
自分の能力値の低さに衝撃を受けつつも書かれているスキルと言うものを確認してみます
・親の七光り(ランクB)
相手の思想や好感度に関係なく最初に一度だけパーティを組む事が可能です。著名人の子供が産まれながらに持っている事が多いスキルである。
どうやら誰とでもパーティを組める他力本願な調略能力の様です。一度しか効かないのは、やはり親の七光りだからでしょうか?
最後にプロフィールを読むと……
アカン……19歳で死んどる。。。。
こ、この手の確定した歴史の物語では例え戦死を逃れても歴史に影響を及ぼさない程度に他の要因で死んだり致しますが。。
これは回避は可能なのでしょうか。
星の動きと同じく原子の運動まで知り得た場合(神の視点)で、未来は確定しているとも言われますが正にラプラスの悪魔的予言史です。
それにコレを読む限り、もう普通に一般市民ですよね魔法も使えませんし。
使える能力は魅力だけとは…本当に大丈夫なのでしょうか……
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そして日々は過ぎ、
その年の暮れに妹が産まれる事となります。
新に用意された揺り籠の中で眠る赤子に思わず頬が緩みます。
妹とは可愛いものですね。
前世で兄弟の居なかった私は少々浮かれています。
将来「お兄ちゃん」なんて言われるのでしょうか?
この感情は、何なんでしょうね。
早く妹に尊敬される様な立派な兄になりたいものです。
そして産まれた妹のプロフィールを見て衝撃を受けます!
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『ニーナ・バウアー』(0歳)
攻撃 :092(A)
魔力 :088(B)
魅力 :084(B)
職種:レンジャー LV01
【スキル】
・竜神闘気
【プロフィール(982~1011)】
勇者ポポスの娘。王国崩壊後レジスタンス『自由への誓い』のリーダーとなる。勇者と魔王とによる古代魔法の打ち合いにより訪れた冬の時代において…………(省略)…………庶民の人気が高く、彼女を主人公とした創作の演劇・小説も多く作られる。歴史的な影響はともかく後世の人気では父ポポスを超える存在である。
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えぇ、0歳児の妹に既に負けてますよねー。
一体誰が誰に守ってもらう事になるのでしょうか……。
プロフィールも長いですし(3行の私とは大違いです)……
ただ、その中で兄に対する妹のコメントが幾つか記述されていました。
『本来は早世した兄のルカが解放のリーダーとなるべき英雄でした。』
『兄のルカが生きてれば歴史は変わってたでしょう…』
『私でなく兄が生きていれば・・・・』
いや、無理だからね。
と思わずツッコミを入れます。
Fランクのカス・ステータスでモンスターの餌になった人物に妹は、何を期待してたんだか……
そして、私が4歳の誕生日を迎える頃に父のポポスは国王の命を受け大陸北部へ旅立つ事となります。
私の未来史通りで有れば、これから父のポポスは魔王を倒す力を求め世界を旅し二度とこの街へは戻って来ないのです。さらば父よ魔王退治はアンタに任せたぜ。
出立の日の朝、家の前には手練れのオーラを纏った戦士や魔導師に盗賊など勇者の冒険者仲間が集まっております。
産まれたばかりのニーナを抱える母ティアナと一緒に頼もしい彼らの旅立ちを見送る事になるのです、残念ながらどんなに頼もしい人達にも上には上の存在がいる事を母はまだ知りません
ポポスは最後家族に話しかけました。
本当にポポスとの最後の言葉です。
「ちょっくら北の大地に封印されている魔王の様子を見に行ってくるわ。まぁすぐに戻るさ。」
そして山賊の様なポポスは、ニカっと笑うと私の頭を撫でるのでした
「…母さんとニーナの事を頼むぞ!もし俺に何かあった時は、長男のお前が家族を食わせていくんだ!お前なら出来る」
いやいや無理でしょ。妹にしても父にしても私への期待値が高すぎるのは困ったものです。職業・『遊び人』だし『固定収入』どころか将来『定職』につくのかも怪しいぜ!と思いつつ、二度と戻らない彼の背中を見送る事となります。
さようなら父さん。
そうして私こと『遊び人』ルカ・バウアーの冒険が始まるのです。