明かされた身分
「王太子殿下……?」
私が呟くと、リクは少し困ったように笑った。
「そう。正確には、セドリック・アレクシス・レオンハルトだ。改めて、よろしく」
「…………」
私は思わず固まった。
王太子。
つまり、この国で一番高い身分にいる少年。
そんな人物と、私はさっきまで路地裏で猫を追いかけていたのだ。
「……先に言ってくれればよかったのに」
思わずそう言うと、セドリックは苦笑した。
「言える雰囲気じゃなかったから」
「それは……そうね」
私は立ち上がり、ワンピースの裾を整えた。
そして、公爵令嬢としての礼を取る。
「お初にお目にかかります、セドリック殿下。
リリアーナ・アシュフォードと申します」
セドリックも、さっきまでとは少し違う表情を見せた。
「こちらこそ、リリアーナ嬢。君が公爵家のご令嬢だったなんて、驚いたよ」
その横で、フィオナは口をぽかんと開けている。
「えっと……」
私とセドリックを交互に見る。
「二人とも……偉い人だったの?」
「私は偉い人じゃないわ」
「そんなことない!」
フィオナが声を上げる。
「だって、王太子様と公爵令嬢様なんでしょう?
私…さっきまで普通に話してたよ!?」
「リクでいいよ」
「でも……王太子様なんでしょう?」
「そうだけど、今はお忍びだから」
「でも、そんな……」
フィオナは困ったように私たちを見る。
「じゃあ……セドリック様、でいい?」
「うん。それなら」
私にも視線を向ける。
「リリアーナ様?」
「リアでいいわ」
「でも、公爵令嬢様なんでしょう?」
「そうだけど」
「じゃあ……リア様」
「それならいいわ」
「よかった。私、ちゃんと呼べてる?間違えてない?」
「ええ。ちゃんと呼べているわ」
そう答えて、私は少しだけ笑った。
フィオナは目を大きく見開いたまま、しばらく私とセドリックを見続けていた。
まるで、まだ目の前の真実が信じられないというように。




