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影守の令嬢は悪役令嬢と呼ばれる  作者: 高梨しいな
目覚めた光、揺らぐ影

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聖女の目覚め


「こっちに薬草があるよ!」


森の中に、エルナの明るい声が響いた。


新学期が始まって間もない頃。

王立学園の校外授業で、青葉舎三年生の生徒たちは教師の指示を受けながら森へ入り、薬草の採取を行っていた。


「本当?どこ?」


フィオナがエルナのもとへ駆け寄る。


「この斜面の下。ほら、あそこ」


エルナが指を差した先には、小さな白い花をつけた薬草が群生していた。


けれど、そこは森の中でも特に急な斜面だった。下まではかなりの高さがある。


足を滑らせれば、岩や木の根に身体を打ちつけ、大怪我をしてもおかしくない。


「先生がここは危ないから気をつけろって言ってたよ!」


ノアが注意する。


「分かってるって」


エルナは笑いながら、慎重に斜面へ足をかけた、その瞬間ーー


「えっ?」


足元の土が崩れ、エルナの身体が斜面を滑り落ちる。


「エルナ!」


フィオナが咄嗟に手を伸ばした。


けれど、届かない。


エルナの身体はどんどん斜面を下っていく。


その先にあるのは、大きな岩。

このままではーー。


「嫌……!」


フィオナの胸が強く締めつけられた。


怖い。

エルナが怪我をする。

嫌だ。

助けたい。


ただ、それだけだった。


「お願い……!」


次の瞬間。

フィオナの身体から、淡い光が溢れた。


光は風のように広がり、斜面を滑り落ちていたエルナを包み込む。


「……え?」


落下していた身体が、ふっと軽くなった。


そしてーー。

エルナは岩の手前で、柔らかな草の上に落ちた。


「……痛く、ない?」


エルナが恐る恐る身体を起こす。


周囲の生徒たちは、誰一人として声を出せなかった。


フィオナも、自分の手を見つめている。

手のひらには、まだ淡い光が残っていた。


「フィオナ……?」


ノアが呆然と呟く。

その声に反応するように、光はゆっくりと消えていった。


「今の……何?」


フィオナ自身にも分からなかった。


そこへ教師が慌てて駆け寄ってくる。


「エルナさん、大丈夫か!」


「はい……。どこも痛くありません」


「そうか……。」


教師は安堵したように息を吐き、それからフィオナへ視線を向けた。


「フィオナさん。今の光は……あなたが?」


「わ、私……?」


フィオナは首を振った。


「分かりません。私はただ……エルナを助けたいって……」


言葉が途切れる。

自分が何かをした。

それだけは分かる。

けれど、自分の意思で力を使ったという感覚はなかった。


ただ、目の前から友達が落ちていくのが怖かった。


それだけだった。


「……私、何をしたの?」


フィオナの問いに、ノアは答えられなかった。

教師も、すぐには言葉を返さない。


やがて、教師が静かに告げた。


「……授業は中止する。全員、すぐに学園へ戻るぞ」


その声には、明らかな動揺が滲んでいた。


 

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