新しい友達
王立学園に入学して、一ヶ月が経った。
最初は知らない人ばかりだった青葉舎にも、フィオナはすっかり慣れていた。
授業にも少しずつ慣れ、朝、青い制服を着て学園へ向かうことも、今では当たり前になっている。
「フィオナ、おはよう!」
教室に入ると、元気な声が飛んできた。
「おはよう、ノア」
手を振っているのは、フィオナの席の前に座る少年だった。
ノアは商業区で革製品を扱う店を営む家の息子だ。
父親の店では、靴や鞄、ベルトなど、様々な革製品を扱っているらしい。
「今日の算術の宿題やった?」
「もちろん」
「……ほんと?」
「ほんとよ」
「お願い!ちょっとだけ見せて」
「自分でやりなさいよ」
フィオナが笑うと、ノアは少しだけ残念そうな顔をした。
「やっぱりダメか」
そんな二人のやり取りを見て、隣の席から笑い声が聞こえた。
「ノアって、いつもそれだよね」
少女が呆れたように言う。
「エルナ、おはよう」
「おはよう、フィオナ」
エルナは、王都近郊で牧場を営む家の娘で、家では牛や羊、馬の世話をしている。
明るくさっぱりした性格で、動物の話になると途端に饒舌になる。
「昨日ね、うちの仔馬が初めて柵の外に出たの!」
「本当?」
「うん。まだ生まれて半年くらいなんだけど、すごく元気でね」
エルナは嬉しそうに話し始めた。
フィオナは頬杖をつきながら、その話に耳を傾ける。
ノアは机に向かい宿題と戦っている。
「ねえ、ノア。聞いてる?」
「聞いてるよ。仔馬が元気なんだろ?それより僕は今、やらなきゃいけない事があるんだ」
「それはノアが宿題忘れたからでしょ」
「じゃあエルナ、宿題写させてくれ!」
「絶対にイヤよ。フィオナだったら…すぐ見せるけど」
「よし!じゃあ今日から僕はフィオナだ。だから…お願い」
「フィオナはそんなに図々しい子じゃ、ありません」
三人で顔を見合わせ、同時に笑った。
入学して一ヶ月。
フィオナには、いつの間にか一緒に笑える友達ができていた。
昼休みになると、三人は中庭のベンチに座って昼食を食べるのがいつもの習慣になった。
「フィオナのお弁当って、いつも美味しそうだよね」
ノアがフィオナの弁当を覗き込む。
「うちの店で作ってる焼き菓子も入ってるよ」
「いいなあ。今度買いに行ってもいい?」
「もちろん。お母さんもお父さんも喜ぶと思う」
フィオナは学園に通うようになってからも、時間がある日は店を手伝っている。
「そういえば、二人は家の仕事を手伝ったりする?」
フィオナが尋ねると、ノアが頷いた。
「僕は店の手伝い。革を磨いたり、商品の整理をしたりね」
「私も餌やりや掃除、ブラッシングもするよ」
エルナは胸を張った。
「朝は馬の世話をしてから学校に来ることもあるよ」
「それは大変そう」
「慣れれば平気。馬って可愛いし」
エルナは楽しそうに笑った。
貴族の子どもたちが多い白銀舎とは違い、青葉舎には様々な家の子どもたちがいる。
商人の子。
職人の子。
農家の子。
フィオナと同じように、家の仕事を手伝いながら学園へ通っている子も少なくない。
そんな環境が、フィオナには心地よかった。
「ねえ、フィオナ」
不意にノアが尋ねた。
「白銀舎にも友達がいるんだよね?」
「うん」
フィオナの頭に、銀色の髪が浮かんだ。
「リリアーナ様っていうの。とっても大好きなお友達なの」
「貴族のお嬢様?」
「そう。でも、私にも普通に接してくれる優しい人よ」
フィオナは笑った。
「いつか学園内で会えるかな」
ノアが言う。
「私も会ってみたい」
エルナも興味津々だ。
「うん。私も会えるといいなって思ってる」
フィオナは頷いた。
今は白銀舎と青葉舎に分かれているけれど、同じ王立学園に通っている。
きっと、また三人で会える日もある。
そう思うと、少しだけ楽しみだった。
そのとき、校舎の鐘が鳴った。
「次の授業、遅れるよ!」
三人は慌てて立ち上がった。
「待って、ノア!」
「先に行ってる!」
「もう!」
笑いながら走っていく二人を追いかける。
春の風が、青葉舎の中庭を吹き抜けた。
入学してから、まだ一ヶ月。
けれどフィオナにとって、ここは少しずつーー自分の居場所になり始めていた。




