入学式
王立学園は、王族や貴族を中心とした白銀舎と、平民を中心とした青葉舎の二つの学舎に分かれている。
白銀舎の制服は、白を基調としている。
白い生地に銀色のボタンや刺繍が施され、王族や貴族が多く通う学舎にふさわしい、上品で格式のあるデザインだ。
青葉舎の制服は、青を基調としている。
爽やかな青色の生地に白い装飾が施され、白銀舎とは異なる、明るく親しみやすい印象を与える。
学園は全6学年制で、11歳で入学し、16歳で卒業する。
白銀舎は各学年A組・B組の2クラス制。入学時にクラスが決まり、特別な事情がない限り、卒業までクラス替えは行われない。
春の柔らかな風が、王都を吹き抜けていた。
街路樹には小さな若葉が芽吹き、冬の終わりを告げている。
リリアーナは馬車の窓から、遠くに見える大きな建物を眺めていた。
白い校舎と、その中央にそびえる時計塔。
今日から、ここが自分の学び舎になる。
「王立学園……」
思わず呟くと、隣に座っていた父が微笑んだ。
「緊張しているのか?」
「少しだけ…。でも、楽しみの方が大きいです」
そう答えたものの、胸の奥は落ち着かなかった。
これまでの生活とは、きっと何もかもが変わるだろう。
馬車がゆっくりと停まった。
「行ってらっしゃい、リア」
「はい。行ってきます」
父に見送られ、リリアーナは馬車を降りた。
正門には、白と青、それぞれの制服に身を包んだ生徒たちが集まっていた。正門を通り抜けると、それぞれの学舎へ向かって歩き始める。
リリアーナも学園指定の白い制服を身につけている。
いつものような公爵令嬢としての華やかなドレスではない。
それが少し新鮮だった。
「リア様!」
聞き慣れた声に振り返る。
そこにはエミリアとクラリスがいた。
二人も同じ制服姿だ。
「おはようございます、リア様」
「おはようございます!」
「おはよう、二人とも」
友達になって以来、二人とは何度も手紙を交わしていた。
今日からは、同じ白銀舎で学ぶことになる。
「同じクラスになれるといいですね」
クラリスが嬉しそうに言った。
三人で話しながら、白銀舎の玄関をくぐると、案内板が置かれていた。
そこには、第一学年のクラス分けが書かれている。
「クラス分けが出てる!」
エミリアが駆け寄った。
リリアーナとクラリスは後を追いかけ、自分の名前を探した。
そしてーー。
【第一学年A組】
アシュフォード・リリアーナ
その少し下には
ローゼン・エミリア
ベルフォール・クラリス
三人の名前が並んでいた。
「やった!」
エミリアが嬉しそうに声を上げる。
「これからずっと一緒ですね」
クラリスも笑顔になる。
「そうね。よろしくね」
リリアーナも嬉しくなった。
今日から始まる6年間を、このA組の仲間たちと過ごすことになる。
「6年間……」
リリアーナはクラス分けを見つめた。
長いような、短いような。
この6年間で、自分はどんな人間になるのだろう。
「リア様?」
「ううん。なんでもない」
三人は教室へ向かった。
教室には、すでに何人もの生徒が集まっている。
芽吹きの会で挨拶を交わした生徒もいるが、知らない顔も多かった。
これから新しい友人ができるかもしれない。
新しい出来事も待っているだろう。
リリアーナが席に着いたそのときだった。
廊下から、少しだけざわめきが聞こえてきた。
「セドリック殿下だ」
「王太子殿下がいらっしゃったぞ」
その声に、リリアーナは顔を上げた。
廊下を歩いていたのは、セドリックだった。
白い制服に身を包んだセドリックは、王太子というより、ただの学園生に見えた。
その姿を見た瞬間、リリアーナはなぜかほっとした。
そこにいるのが、王太子ではなくーー見知ったセドリックだったからだ。
セドリックもリリアーナに気づいた。
一瞬、目が合う。
そして、ほんの少しだけ笑った。
セドリックはすぐに表情を戻し、軽く会釈をした。
リリアーナも公爵令嬢として礼を返す。
ほんの一瞬のやり取り。
それだけだった。
「……なんだか、寂しいですね」
隣でエミリアが小さく呟いた。
リリアーナは少しだけ目を伏せた。
「うん。でも、仕方ないわ」
王太子と公爵令嬢。
それぞれの立場がある。
それは、ずっと前から分かっていたことだった。
やがて、入学式の開始を告げる鐘が鳴った。
白銀舎の講堂には、第一学年の生徒たちが集まっていた。
高い天井から吊るされたシャンデリアが、白い制服に身を包んだ生徒たちを照らしている。
壇上には王立学園の紋章が掲げられ、その前には学園長と教師たちが並んでいた。
「新入生、起立」
教師の声に合わせ、生徒たちが一斉に立ち上がった。
静まり返った講堂に、学園長の声が響く。
「本日より皆さんは、王立学園の生徒です。これから始まる六年間で、多くのことを学び、多くの人と出会うでしょう。身分や立場にとらわれず、自ら考え、自らの道を見つけてください」
リリアーナは、その言葉を静かに聞いていた。
自らの道。
この言葉が、なぜか心に残った。
その後も来賓からの挨拶や祝辞が続き、ようやく入学式は幕を閉じた。
講堂を出た生徒たちは、それぞれ帰路についた。
寮へ向かう者もいれば、迎えの馬車が待つ馬車乗り場へ向かう者もいる。
そんな生徒たちの流れを眺めながら、リリアーナもまたエミリアとクラリスとともに歩き出したーー。




