新しい春
夏が過ぎ、秋が訪れた。
その日も、いつもの個室に三人が揃っていた。
「最近、リアは忙しそうだね」
セドリックが紅茶を飲みながら言った。
「そうなの。前より勉強することが増えたんです」
「何を勉強してるの?」
「領地のことや歴史、それから社交の場で必要なことも、少しずつ教えてもらってます。知らないことを知るのは楽しいわ」
「僕もそう思う。知識が増えて困る事はないからね」
「…リア様を見習って、私も頑張らなくちゃ」
「フィオナも?」
「はい。最近、お店のお手伝いで覚えることが増えたの。お父さんに、お客さんへの話し方も教えてもらってます」
「みんな少しずつ忙しくなってるんだね」
セドリックがそう言うと、三人は顔を見合わせ笑った。
「セドリック様は?」
「僕も前より勉強が増えたよ。最近は領地のことを教わってる」
「じゃあ、本当にみんな一緒ですね」
フィオナが嬉しそうに笑う。
それから、ふと思い出したようにリリアーナに尋ねた。
「リア様。この前のお茶会のお話し聞かせてください」
「エミリアとクラリスを招待したお茶会ね。とても楽しく、充実した時間を過ごせたわ」
リリアーナの顔が明るくなる。
「あ!それから…二人にはセドリック様とフィオナの事も伝えたの」
リリアーナは隣に座るセドリックを見る。
「私たち三人が昔から仲良くしていることを話したけれど……大丈夫でしたか?」
「僕のこと?」
「ええ。王太子であるセドリック様と親しくしていることを、二人に話してしまったから」
セドリックは少し考えると、ふっと笑った。
「別にいいんじゃないかな。エミリア嬢とクラリス嬢なら、変な噂を広めたりもしないでしょう?」
「うん。二人ともそんな人じゃないわ」
「それなら大丈夫だよ」
「ありがとうございます」
リリアーナはほっとしたように笑った。
「来年は11歳になるし、2人とも王立学園に入るでしょ?通うの?それとも寮に入るの?」
「私は、家から通います。寮だと放課後にお店の手伝いできないですし」
「私も通うわ。ネロは寮に連れて行けないもの。それにネロだって、私がいないと寂しがるわ」
「ネロは大事にされてるね」
セドリックは嬉しそうに笑った。
「……同じ学園でも、リア様とセドリック様は、貴族と王族だから白銀舎ですよね?私は平民だから青葉舎です。せっかく同じ場所にいるのに離れ離れは寂しいです」
「フィオナ…。私も寂しいわ。でも、放課後たまに集まって宿題をしたり、お茶をしたりしましょう」
「うん。僕もたまには息抜きしたいし」
「いいんですか?ありがとうございます!学園生活、楽しみになりました」
フィオナは満面の笑みを二人に向ける。
それから季節は、冬へ向かった。
リリアーナは公爵領で父や母と冬を迎え、セドリックは王宮で王太子としての勉強に励んだ。
フィオナはリーフ・パティスリーで忙しい年末を手伝った。
そして冬が過ぎーー。
春が来た。
この国では、11歳になる子ども達は貴族、平民関係なく全員が学校に入学する。
各領地に貴族、平民用の学校が建っているが、ここ王都では違っていた。
広大な敷地に建つ王立学園には、二つの学舎が並び立っている。
貴族や王族が通う白銀舎
平民の子どもたちが通う青葉舎だ。
ーー王都の桜が咲き始める頃、学園の正門前には、多くの少年少女と、その家族の姿がある。
リリアーナは一度だけ、大きな門を見上げる。
その先には、これまで知らなかった世界が待っている。
期待と少しの緊張を胸に、リリアーナは歩き出した。
青葉舎へ向かうフィオナも、同じように新しい一歩を踏み出していく。
そして白銀舎では、すでに学園生活を送っているセドリックが、新入生たちを迎える春を過ごしていた。
それぞれが、それぞれの場所へ。
三人の時間は、次の舞台へ移っていった。




