初めてのお茶会
春の社交界デビューから、しばらく経った頃の7月。
リリアーナは10歳になった。
初めて自分で主催するお茶会に、芽吹きの会で知り合った二人の少女を、招待することにした。
エミリア・ローゼン伯爵令嬢と、クラリス・ベルフォール侯爵令嬢。
二人から快い返事が届くと、リリアーナはお茶会の日を楽しみに待った。
そして当日。
「ようこそ、いらっしゃいました」
庭へ続く扉の前で、リリアーナが二人を出迎える。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます」
エミリアとクラリスが揃って礼をすると、リリアーナは少しだけ緊張しながら微笑んだ。
「こちらこそ。来てくれて嬉しいわ」
三人は夏の花が満開に咲いている庭へ向かった。
「わあ……素敵!」
エミリアが嬉しそうに声を上げた。
「気に入ってくれましたか?」
「もちろんです!」
庭の奥には、白い柱に囲まれた東屋があり、そこにお茶会の準備が整えられていた。
テーブルには、小さなケーキや果物と一緒に、木の葉の形をした焼き菓子が並んでいる。
「どれも美味しそうですね」
クラリスが目を輝かせる。
「好きなものを食べてください」
「これ、可愛い!」
エミリアが一枚手に取る。
「これは、私のお友達のお店の焼き菓子なのよ」
「お友達のお店ですか?」
「ええ。その子ーー、フィオナって言うんだけど、ご両親が商業区にある『リーフ・パティスリー』っていうお店を開いているの」
「平民の女の子と、お友達なんですか?」
エミリアが少し驚いたように尋ねる。
「ええ。とても大切なお友達です」
リリアーナは迷うことなく答えた。そして、2年前の8歳の時に、収穫祭で出会い、今でも交流が続いていることを二人に話した。
「リリアーナ様のお友達なら、いつかお会いしてみたいわ」
クラリスのその言葉を聞いて、リリアーナは顔を明るくした。
「きっとフィオナも喜ぶと思います。クラリス様やエミリア様のことお伝えしますね!」
「ありがとうございます。…あの、リリアーナ様。せっかく仲良くなれたので、リア様とお呼びしてもいいですか?」
クラリスが緊張した顔でリリアーナに伝えると
「私もリア様ってお呼びしたいです!」
エミリアが元気よく賛同してきた。
「ええ。ぜひ、リアと呼んでください。私はクラリス、エミリアとお呼びしますね」
そう言って、リリアーナは微笑んだ。
そのときだった。
庭の茂みが、かすかに揺れた。
「……あら?」
リリアーナが振り返る。
茂みの向こうから、一匹の黒猫がゆっくりと姿を現した。
「あっ、ネロ!」
リリアーナが立ち上がる。
ネロはまっすぐ彼女のもとへ歩いてくると、足元に身体を擦りつけた。
「この子がさっきお話ししていたネロですか?」
エミリアが目を輝かせる。
「ええ。私がお世話をしているのよ」
リリアーナがしゃがんで撫でると、ネロは気持ちよさそうに目を細めた。
「触ってもいいですか?」
「もちろん」
エミリアがそっと手を伸ばす。
ネロは少しだけ匂いを嗅ぐと、その手に頬を寄せた。
「可愛い!」
エミリアの声に、クラリスも笑った。
「本当に人懐っこいのね」
「ネロは私にとって特別な子なのよ」
リリアーナがそう言うと、ネロが小さく鳴いた。
「ふふ。分かってるのかしら」
三人の笑い声が庭に響く。
しばらくして、エミリアがふと思い出したように尋ねた。
「そういえば……リア様は王太子殿下ともお友達なのですか?」
リリアーナは少し驚いた。
「どうして?」
「芽吹きの会で、殿下とお知り合いだと言っていましたし…」
「それは……」
リリアーナは少し考えてから、二人に正直に話すことにした。
「実は、セドリック様とも昔から仲良しなの」
「えっ?!」
エミリアが目を丸くする。
「収穫祭でフィオナと出会ったって話したけれど、セドリック様もその場に居たのよ」
リリアーナはセドリックに出会った経緯を話した。
「昔からのお友達だったのですね」
クラリスが納得したように頷いた。
「ええ。でも王太子殿下と公爵令嬢って立場から、あまり親しげにできないのよ」
リリアーナは少しだけ寂しそうに笑った。
「でも、王太子殿下とお友達なんて、すごいです」
エミリアが楽しそうに笑う。
「セドリック様は、いつもいろんなことに興味があるみたいで、お話が尽きないわ。時間があっという間に過ぎちゃうのよ」
リリアーナが笑うと、エミリアとクラリスもつられて笑った。
その後も三人は、好きな本や花の話をしながら庭を歩いた。
帰る時間が近づくと、リリアーナは名残惜しそうに言った。
「今日はとても楽しかったわ。またお茶会に招待してもいいかしら?」
「もちろんです!私たちもすごく楽しめました。リア様からの招待、お待ちしております」
クラリスが伝えるとエミリアも大きく頷く。
「ええ。また来てくださいね」
リリアーナは笑って答えた。
こうして、初めてのお茶会は終わった。
リリアーナが、初めて自分の友達を招いて過ごした時間だった。




