新年の祝賀祭
冬が訪れ、王都にも冷たい風が吹くようになった。
年末になると、三人はそれぞれの場所で忙しい日々を過ごしていた。
リリアーナは、両親とともにアシュフォード公爵領を訪れ、領地で新年を迎える準備を手伝った。
セドリックは、王宮で新年の行事に向けた準備や勉強に追われていた。
フィオナは、家族と一緒に、年末の忙しさで賑わうリーフ・パティスリーを手伝っていた。
それぞれの場所で、それぞれの時間を過ごしてーー。
そして、新しい年が始まった。
王都の大神殿には、朝早くから多くの人が訪れていた。
新年の祝賀祭
王国中の人々が新しい一年の無事と幸せを祈る、年に一度の大切な日だ。
王族が神殿へ到着すると、集まった人々から一斉に歓声が上がった。
王と王妃に続いて、セドリックも姿を見せる。
今日のセドリックには、いつものような少年らしい笑顔はなかった。
王太子として、初めて人々の前で言葉を述べる日なのだ。
神殿広場に設けられた壇上に立つと、セドリックは一度だけ小さく息を吸った。
「新しい一年が、皆様にとって穏やかで実りある年となりますように。そして、この国に暮らすすべての人々が、健やかに過ごせますように」
短い言葉だった。
けれど、セドリックは最後までしっかりと顔を上げていた。
人々から拍手が起こる。
その中には、アシュフォード公爵夫妻とリリアーナの姿もあった。
少し後方の離れた場所では、フィオナも両親と一緒に見ている。
王族や神殿長の挨拶が終わると、王族と貴族たちは神殿内の広間へと移動し、神殿関係者を交えた新年の交流会が始まった。
アシュフォード公爵夫妻も、他の貴族たちと挨拶を交わすためその場へ向かう。
一方、フィオナの両親は商売繁盛と家族の健康を願うため、祈祷を受けに向かっていた。
そして子ども達はーー。
三人で神殿を周る約束をしていた為、待ち合わせ場所にそれぞれ向かう。
セドリックは公務用の礼服から動きやすい服に着替えていた。
「セドリック様、先程の挨拶すごかったです」
「ええ。とても素敵だったわ」
フィオナとリリアーナに褒められ、セドリックは少し照れていた。
「二人とも見てたの?」
「もちろん!」
「ありがとう。緊張しすぎて足が震えそうだったよ」
「全然そんなふうに見えなかったわ」
「…じゃあ、挨拶は成功ってことだね」
とセドリックは笑う。
神殿の廊下を歩きながら、リリアーナがセドリックを見る。
さっきまで壇上に立っていた姿と、今の姿が全然違う。
「なんだか不思議ね」
「何が?」
「さっきまで、王太子様って感じだったのに」
「今も王太子だよ」
「そうだけど……」
「今はいつものセドリック様ですね」
フィオナが笑うとセドリックも、
「二人といるときくらい、普通でいたいよ」
と小さく笑った。
三人は神殿の奥へ向かって歩いていく。
「この絵見てください。すごく大きいですよ!」
フィオナが見上げたのは、神殿の壁に描かれた大きな絵だった。
そこには、一人の女性が描かれている。
「これは誰ですか?」
フィオナは案内役の神官に尋ねた。
「昔の聖女様です。聖女は何百年もの時を経て現れると言われています」
「そんなに長い間、誰も現れないこともあるんですか?」
「はい。だからこそ、聖女の誕生は国にとって大きな出来事なのです」
「私たちが生きている間に、聖女が誕生することはあるのかしら」
リリアーナは呟いた。
さらに奥へ進むと、そこには小さな泉があった。
「聖女の泉です」
神官が説明する。
「かつて聖女様が祈りを捧げた場所だと言われています。普段は何の変哲もない泉ですが、聖女の力が強く現れたとき、水が光るという言い伝えがあります」
「へえ……」
フィオナが興味深そうに泉を覗き込む。
その隣で、リリアーナも水面を見つめていた。
するとーー。
水面の奥で、淡い光がふっと揺れた。
「……え?」
リリアーナが目を瞬く。
けれど、セドリックもフィオナも何も言わない。
神官も気にした様子はなかった。
リリアーナはもう一度、泉を覗き込む。
水面には、いつもと変わらない三人の姿が映っているだけだった。
「……気のせい、かしら」
そう呟いて、リアは泉から視線を離した。
「この大きな石は何?」
セドリックの前にあるのは、台座の上に淡い光を宿した石だった。
「これが神聖石です。神聖石は、神殿を守る大切な石です。何百年もの間、ここで人々の祈りを受け止めてきました」
「じゃあ、この石があるから神殿は守られているの?」
「そう伝えられています。ですが、詳しいことは今でも分かっていません」
白く静かに輝く神聖石を、三人はしばらく眺めていた。
*
やがて、大人たちとの合流の時間が近づく。
「またカフェで会おうね」
そう約束し、今年も三人の一年が始まった。




