秋の収穫祭へ
仕立て屋を出ると、店の従業員がドレスの入った箱を抱えて、私たちの馬車まで運んでくれた。
それを見届けたアデルは
「さて、お嬢様。収穫祭を楽しみましょう」
と優しく微笑み、平民街へと歩いて行く。
平民街の中央通りでは、何人かの楽師たちが並んでいる。
木でできた笛の軽やかな音に、太鼓の音が重なり、その合間を弦楽器の明るい旋律が駆け抜けていく。
曲が一区切りつくたびに、周囲から拍手と歓声が上がる。
こんなに大勢の人がいるのに、不思議と騒がしいだけには感じなかった。
笑い声も、楽器の音も、屋台から聞こえる呼び声も、全部が一つになって、この日だけの音楽を作っているようだった。
「……すごい」
思わず呟く。
「お気に召しましたか?」
隣にいたアデルが尋ねる。
「ええ」
私は素直に頷いた。
少し先では、子どもたちが走り回っていた。
手には木の実を使った飾りや、小さな旗を持っている。
兄弟らしい二人が、どちらが先に広場へ着くか競争していたかと思えば、別のところでは女の子たちが輪になって笑っている。
「元気ですね」
アデルが苦笑する。
「……楽しそう」
私がそう言うと、アデルが少し驚いた顔をした。
「お嬢様?」
「何?」
「いえ……」
アデルは何でもないように首を振った。
私は再び通りへ目を向ける。
普段、私が暮らしている貴族街では、こんなふうに子どもたちが自由に走り回っている姿を見ることはほとんどない。
大人たちは皆、きちんとした服を着て、決められた場所を歩いている。
それが当たり前だと思っていた。
けれど、ここでは違う。
少しくらい服が汚れても、髪が乱れても、誰も気にしていない。
みんな今日という日を楽しんでいる。
そのことが、なんだか羨ましかった。
「お嬢様、こちらへ」
アデルに促され、通りを進む。
両脇にはたくさんの屋台が並んでいた。
籠いっぱいに積まれた野菜や果物。
香ばしい匂いを漂わせる肉料理。
大きな鍋から湯気を立てているスープ。
「まあ……」
私は思わず足を止めた。
一軒の屋台に、焼き菓子が並べられている。
丸いもの、細長いもの、木の葉の形をしたものまである。
表面には砂糖がまぶされていたり、木の実が乗せられていたりして、どれも美味しそうだった。
「アデル」
「はい」
「あれは何?」
「焼き菓子ですね」
「それは見れば分かるわ」
「失礼いたしました」
アデルが笑う。
「お腹も空きましたし、いくつか買ってきます。
お嬢様はこちらでお待ちください」
ベンチに座りながら、屋台から漂ってくる甘い香りに、私はもう一度目を向けた。
どうやら収穫祭というものは、思っていたよりずっと楽しいものらしい。
焼き菓子を堪能した後も、私たちはしばらく屋台や露店を見て回った。
果物を使ったジャムや、色鮮やかな布、手編みの籠。
中には、何に使うのか分からないような小さな道具まで並んでいる。
見ているだけでも楽しくて、私は何度も足を止めた。
そんな中、ふと目に留まったのが、一軒の小さな露店だった。




