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影守の令嬢は悪役令嬢と呼ばれる  作者: 高梨しいな
もう一度あの日のように

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19/51

また会える日


カフェ・ミモザで過ごす時間は、あっという間に過ぎていった。


三人の前には、すっかり空になったケーキの皿と、飲み終えたカップが並んでいる。


「楽しかったね」


リリアーナが笑う。


「はい!」


フィオナも頷いた。


セドリックも満足そうに笑っている。


最初は少し緊張していたフィオナだったが、今ではすっかり肩の力が抜けていた。



「ねえ」


リリアーナが二人を見る。


「また、ここに来ようよ」


「うん」


セドリックが頷く。


けれど、フィオナはすぐには答えなかった。


「……また、来られるかな」


「どうして?」


リリアーナが首を傾げる。


「だって……」


フィオナは少しだけ視線を落とした。


「私たちは住んでいる場所も違うから……」


言葉を選ぶように、ゆっくり続ける。


「リア様は公爵家で、セドリック様は王宮でしょう?

私は商業区のお店で暮らしてるし……」


今日こうして会えたことが、特別だったのだ。

次も同じように会えるとは限らない。


フィオナ自身も、そんなことは分かっていた。


「それに……セドリック様は王太子殿下だから」


その言葉に、セドリックも少しだけ考えるような顔をした。


「そうだね。僕も、いつでも自由に外へ出られるわけじゃないんだ」


セドリックは苦笑する。

王太子としての勉強、剣の稽古、礼儀作法や王族としての務め。


王宮での予定も、年齢とともに少しずつ増えていく。


「今日みたいに出かけられる日は、そう多くないかもしれない」


やっぱり。


三人は仲良くなった。

けれど、暮らしている世界は違う。


フィオナは、改めてそのことを感じていた。


するとーー。


「じゃあ、会える日に会えばいいじゃない」


リリアーナが、あまりにもあっさりと言った。



「セドリック様も、会える日があるでしょう?」


「うん……まあ」


「フィオナも、お店がお休みの日なら来られるでしょう?」


「そうですね…」


「だったら、その日に会えばいいのよ」


リリアーナは何でもないことのように笑った。


あまりにも簡単な答えだった。

フィオナは目を瞬かせる。

セドリックも、思わず吹き出した。


「リアらしいね」


「そう?」


「うん。難しく考えすぎてたみたいだ」


会える日があるなら、その日に会えばいい。

それだけのことだった。


身分が違うから。

住んでいる場所が違うから。

王太子だから。

平民だから。

そんなことを一つずつ考えていたら、何もできなくなってしまう。


けれど、リリアーナはそんなことを考えていない。


ただ、また会いたい。


だから、会える日に会えばいい。


それだけだった。


「じゃあ……また会おう」


セドリックが笑った。


「はい!」


フィオナの顔にも笑顔が戻る。


「また会おうね!約束よ」


リリアーナも嬉しそうに頷いた。




小さな約束だった。

けれど三人にとっては、それで十分だった。



 *

 *

 *



公爵邸へ戻ったリリアーナは、自分の部屋へ入ると、窓辺にいたネロを見つけた。


「ネロ!」


「にゃあ」


駆け寄って抱き上げる。


「今日はね、フィオナに会ったのよ」


ネロは腕の中でもぞもぞと動いた。


「それから、セドリック様も一緒だったの」


「にゃ」


「三人でケーキを食べたのよ。フィオナのお店が、収穫祭で食べた焼き菓子のお店だったの!」


リリアーナは楽しそうに今日の出来事を話して聞かせる。そして最後に、ぎゅっとネロを抱きしめた。


「それからね、また会おうって約束したの!」


「にゃあ」


「うん。次はいつになるか分からないけど……きっとまた会えるわ」


リリアーナは嬉しそうに笑った。



 *


同じ頃。


王宮へ戻ったセドリックも、いつもの日常へ戻っていた。


机の上には、明日の勉強に使う本が並べられている。


「……明日から、また忙しいな」


そう呟きながらも、今日のことを思い出すと自然と笑みがこぼれた。


また会える。


その約束があるだけで、いつもの王宮での生活が少しだけ違って感じられた。



 *



そしてフィオナも、家へ戻っていた。


「ただいま!」


「おかえりなさい」


迎えてくれたのは、いつもの両親。

いつもの店。

いつもの暮らし。

何も変わっていない。


けれどーー。


フィオナの胸には、新しい思い出が一つ増えていた。

三人は、それぞれ違う場所で暮らしている。

身分も、立場も違う。

これから先、いつでも会えるわけではない。


それでも


また会おう。


その小さな約束が、三人を繋いでいた。


 

そして三人の時間は、再びそれぞれの日常へと戻っていった。



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