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影守の令嬢は悪役令嬢と呼ばれる  作者: 高梨しいな
もう一度あの日のように

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12/51

黒猫との暮らし


収穫祭から、少しの時が流れた。


あの日、傷ついていた黒猫ーーネロのケガは、すっかり治っていた。


「ネロ、もう痛くない?」


窓辺で日向ぼっこをしていた黒猫に、リリアーナが声をかける。


ネロはゆっくりと顔を上げると、


「にゃあ」


と短く鳴いた。


「ふふ。元気そうね」


リリアーナが近づくと、ネロは逃げるどころか、当然のように彼女の足元へすり寄ってくる。


最初は抱き上げるだけでも嫌がっていたのに、今ではすっかり慣れていた。


リリアーナが撫でてやると、ネロは気持ちよさそうに目を細める。


「……かわいい」


この子を見つけた日のことを、リリアーナは今でも覚えている。


収穫祭の賑やかな通り

傷ついた黒猫

そして、一緒に助けてくれた二人の子ども。


セドリックとフィオナ

あれから何度か、二人のことを思い出していた。


また会えるだろうか。


そんなことを考えながら、リリアーナはネロの背中を撫でる。


そのとき、扉の向こうから声がした。


「お嬢様、またネロと一緒ですか?」


「アデル!」


入ってきたのは、リリアーナ付きの侍女、アデルだった。


アデルは部屋に入るなり、床に転がっている猫用のおもちゃを見つけて、小さくため息をつく。


「昨日、片付けたばかりだったのですが」


「ネロが遊んだの」


「それは見れば分かります」


「じゃあ、ネロが片付ければいいわね」


「お嬢様?」


リリアーナが真顔で言うと、アデルはしばらく黙った。


「ネロに片付けを教えるところから始めましょうか」


「できるかしら?」


「猫ですから、難しいかと」


「そう……」


残念そうなリリアーナに、アデルは思わず笑った。


「でも、お嬢様が楽しそうで何よりです」


その言葉に、リリアーナも笑顔になる。


ネロを引き取ってから、毎日が少しだけ賑やかになった。


朝は目を覚ますと、ベッドの足元にネロがいる。


本を読んでいれば、いつの間にか膝の上に乗ってくる。


庭へ出れば、後ろからついてくる。


もう、ネロがいない生活なんて考えられなかった。


けれどーー。


ネロには、本当の飼い主がいるかもしれない。

そのことだけが、リリアーナの心に引っかかっていた。


念のため、収穫祭の後に街でも飼い主を探してもらっていた。

けれど、何日経っても名乗り出る者はいなかった。


「飼い主……見つからなかったのね」


「はい」


アデルが答える。


「お父様が、もう探さなくていいって?」


「旦那様からは、そのように伺っております」


リリアーナはネロを抱き上げた。


「じゃあ……ネロはずっとここにいていいの?」


「そのようですよ」


「本当に?」


「はい。旦那様から正式に飼育のお許しが出ました」


「やった!」


リリアーナが嬉しそうにネロを抱きしめる。


「よかったね、ネロ!」


「にゃあ」


まるで返事をするように、ネロが鳴いた。


その日の午後。


リリアーナは父の執務室を訪れていた。


「お父様、本当にネロを飼ってもいいの?」


「ああ」


書類から顔を上げた父が頷く。


「ケガも治ったようだし、飼い主も見つからなかったからな」


「ありがとう、お父様!」


「ただし、最後まで責任を持つこと。世話をするのも遊ぶのも、基本的にはリリアーナ、お前がするんだぞ」


「分かってる!」


元気よく答える娘を見て、父は微笑んだ。


「なら、好きにするといい」


「はい!」


リリアーナは満面の笑みで返事をした。


こうして、黒猫ネロは正式に公爵家の一員になった。


リリアーナにとっては、初めて自分で選び、自分で守ると決めた小さな家族だった。


そしてその日から

リリアーナとネロの、穏やかで少し賑やかな毎日が始まった。


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