帰路へ
「それでは、私たちはこれで失礼します」
アルベルトがそう言って、私たちに向かって頭を下げた。
セドリックもこちらを見る
「今日はありがとう」
「こちらこそ。ネロを助けるのを手伝っていただき、ありがとうございます」
「ネロを大事にしてあげて」
「ええ、もちろんです」
私は腕の中のネロを見下ろした。
「じゃあね。リア」
「ええ、さようなら。セドリック様」
そう呼ぶと、セドリックは少しだけ笑った。
「リクでいいのに」
「でも、王太子殿下に向かって…」
「さっきも言ったけど、今はお忍びだから気にしないで」
「……そういうものですか?」
「そういうものなんだよ」
なんだかおかしくなって、私は笑った。
「それでは…リク。さようなら」
フィオナもセドリックの方へ向き直る。
「セドリック様、さようなら」
「うん。フィオナも気をつけて帰って」
「はい!」
フィオナは元気よく頷いた。
そして、私たちはそれぞれ別の方向へ歩き始めた。
少し進んだところで、私は振り返った。
フィオナはまだこちらを見ていた。
目が合うと、にこっと笑って手を振る。
私も小さく手を振り返した。
セドリックは一度だけこちらを振り返り、それからアルベルトと一緒に人混みの中へ消えていった。
「お嬢様、参りましょう」
「ええ」
アデルに声をかけられ、私は前を向いた。
腕の中では、ネロが小さく身じろぎする。
「疲れたのかしら?」
返事の代わりに、ネロが小さく鳴いた。
私たちも馬車へ戻る。
窓の外には、まだたくさんの人がいた。
さっきまであれほど賑やかだった街が、少しずつ遠くなっていく。
私はネロを膝の上に乗せ、そっと頭を撫でた。
「あなた、今日から私の家族よ」
ネロは目を細めた。
「にゃあ」
私は小さく笑った。
公爵邸へ向かう馬車の中で、私は今日の出来事を思い返していた。
収穫祭に行ったこと。
焼き菓子を食べたこと。
小さなお守りを買ったこと。
ケガをした黒猫を見つけたこと。
そして、セドリックとフィオナに出会ったこと。
この日、私たち三人はまだ知らなかった。
この出会いが、ずっと先まで続いていくことを。




