小さな問いかけ
アルベルトは相変わらずネロを撫でている。
私たちの会話には、特に口を挟む様子もなかった。
フィオナもそんなアルベルトとネロを眺めていたが、ふと口を開いた。
「どうして猫は自由なのに、人間には役割があるの?」
「……役割?」
私はネロとフィオナを見比べた。
フィオナは少しだけ考えるように視線を落とし、それからゆっくりと口を開く。
「リア様は公爵令嬢で、セドリック様は王太子様。
私はただの平民の女の子で……ネロは、どこにも縛られていない猫でしょう?」
「……ずいぶん難しいことを言うのね」
「だって、気になったんだもん」
フィオナはネロを見つめたまま、小さく首を傾げる。
「それに、不思議で……。平民だと思っていた二人が、実は高貴な方だったなんて」
その言葉に、セドリックは静かにネロへと視線を向けた。
「……僕にも、はっきりとは分からないな」
ふっと小さく笑い、肩をすくめる。
「けれど、いつか答えに辿り着く日が来るのかもしれない」
「そうかもね!」
フィオナは迷いなく頷いた。
そのとき、路地の入り口から聞き慣れた声が響いた。
「お嬢様!」
アデルと護衛がこちらへ駆けてくる。
「勝手に走っていかれては困ります!どれだけ探し回ったか…」
「ごめんなさい」
私は素直に謝る。
「本当に、ご無事でよかったです」
アデルは息を整えながら私の前まで来るとケガをした黒猫に気づいた。
「まあ……その猫は?」
「ネロよ」
私は答えた。
「ケガをしているの。手当をしたいから私が引き取ることにしたの」
アデルは一瞬だけ目を丸くした。
けれど、すぐに小さく息を吐く。
「お嬢様なら、そうおっしゃると思っておりました」
「でしょう?」
私は少し得意げに答え、ネロを抱き上げた。
そして、頭をそっと撫でる。
「この子を見つけてから、色々あったの」
アデルと離れたあとに起きたことを簡単に説明した。
私と一緒にいる少年が王太子殿下だと知ると、アデルは驚き、言葉を失ったーー。




