第6話:魔王討伐訓練!勇者覚醒!
それからというもの、私たちは学園を休学し、魔王討伐に向けて連日ハードな訓練に明け暮れていた。
復活した魔王の影響か、近隣の村々が魔族に襲われており、一刻の猶予もないからだ。
私、エリオス様、そしてドワーフのガルフさんは元々十分な戦闘力を持っている。……問題は、当の「勇者」である勇斗くんだった。
異世界から突然召喚されたばかりの少年。命をかけた戦いの恐怖と心細さに押し潰されそうになり、剣を握る手はいつも震えていた。
(うぅ……可哀想に。前世の感覚で言ったら、まだ部活で汗を流してる年頃の男の子だよ? いきなり『世界を救え』なんて無茶振りすぎるでしょ……!)
前世で後輩社員を育てていた血が騒ぎ、私はエリオス様の「……あまり甘やかすな」という制止も聞かず、毎日勇斗くんを励まし続けた。
「まだ不安だよね……。いきなり慣れろって方が無理だよ。大丈夫、勇斗くんが傷ついたら私がいくらでも光魔法で治すから! 安心して思い切りやっておいで!」
「り、リリアさん……っ」
聖女としての慈愛(※中身はアラサーOLの面倒見の良さ)で満面の笑みを向けると、勇斗くんの目がパッと輝いた。
私の言葉に勇気づけられた彼は、めきめきと成長。訓練の合間には楽しそうに私へ話しかけてくるようになり、二人の距離はぐっと縮まっていった。
……当然、それを面白く思わない人物が約1名。
「……リリア。水なら俺が渡す。あいつに直接触れるな」
「いやエリオス様、ただのスポーツドリンク的なポーションですよ!?」
嫉妬で重たい雰囲気を撒き散らすエリオス様をなだめつつ、時は流れた。
◇
それなりに剣術をモノにした勇斗くんの実戦予行演習も兼ねて、私たちは被害が出ているという街道沿いの街へ出向いた。
だが、そこに広がっていたのは——惨状だった。
黒煙が上がり、家々が焼き払われ、魔族たちが無差別に襲いかかっている。
小説やゲームの画面越しではない、生々しい悲鳴と血の匂い。前世で平和な日本に生きていた私は、あまりの恐怖に血の気が引き、足がすくんで動けなくなってしまった。
(ひっ……! 嫌、怖い……っ!)
その時だった!
瓦礫の陰に潜んでいた魔族が、無防備な私の背後から殺意に満ちた攻撃魔法を放ってきたのだ。
「リリアっ!?」
いち早く気づいたエリオス様が、咄嗟に私を庇うように背中に回る。
しかし——エリオス様の魔法が発動するよりも早く、疾風のような影が弾け飛んだ。
「リリアさんに……手を出すなあああッ!!」
——ズバッ!!
眩い聖なる光を纏った剣が一閃。
リリアの危機に反応して「勇者」として覚醒した勇斗くんが、一瞬で魔族を真っ二つに斬り伏せたのだ。
あまりの速さと威力に、ドワーフのガルフさんも「ほう……! ようやくお目覚めか、勇者殿!」と感心したように声を上げる。
ハァハァと息を荒らしながら剣の血を払うと、勇斗くんはパッとこちらを振り返った。
その顔には、先ほどまでの弱気な少年ではなく、一目惚れしたヒロインを守り切った男の誇らしげな笑みが浮かんでいる。
「リリアさん! 大丈夫ですか!?」
そう言って、彼は私を抱き起こそうと優しく手を差し伸べてくれた。
(あ、ありがとう勇斗くん! すごい、かっこよかっ——)
私がその手を握り返そうとした、次の瞬間。
バチンッ!!
「……リリアに触れるな」
躊躇のない力強い音とともに、勇斗くんの手が容赦なく弾き飛ばされた。
見上げれば、そこには冷酷そのものの表情をしたエリオス様。
前髪の隙間から覗く黒い瞳は極寒の氷のように冷たく、自分の彼女に手を伸ばした少年を射殺さんばかりに睨みつけている。
「な……ッ!?」
手を払われた勇斗くんも、せっかく覚醒していいところを見せたのに邪魔をされ、カッとなってエリオス様を強く睨み返した。
魔族の脅威が去った直後の戦場で、まさかの【恋の火花】がバチバチと散り始める。
(いや待って!? 覚醒した途端にヒロイン争奪戦に参戦してこないで!? 今は魔王を倒すためのパーティー結成中でしょーーー!?)
頼もしく覚醒した勇者と、相変わらず独占欲の塊な最強の恋人。
魔王を倒す前にパーティーが崩壊しそうな予感に、私は頭を抱えて深々と溜め息を吐くのだった。




