第5話:勇者と対面することになりました
第二王子一派がドナドナされてからというもの、私の学園生活は平和そのもの……とは、惜しくも言い難かった。
「リリア様! 僕のこの溢れんばかりの愛を受け取ってください!」
「リリア様! この薔薇の花束のように情熱的な私の想いを……っ!」
そう、バカ王子たちが撃沈したことで「次は俺にもチャンスが!?」と勘違いした男子生徒たちが、毎日ひっきりなしに押し寄せてくるのだ。
しかし、私は一蹴。
「申し訳ありませんが、私には心に決めた方(エリオス様)がおりますので!」
バッサリと切り捨て、横からぬっと現れたエリオス様が「……何か用か?」と冷ややかな闇魔法の圧を放つと、男子生徒たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
そんなお決まりのルーティンをこなしつつ、無敵の彼氏とイチャイチャ甘い日々を送っていた……
――あの知らせが届くまでは。
◇
「……魔王が、復活した……!?」
緊急召喚された王宮の大広間。
聖女である私と、学園最強の闇魔法使いとして同行したエリオス様は、国王陛下の重々しい言葉に目を見開いた。
だが、私の意識はすぐに、玉座の前にぽつんと立っている人物へと向けられた。
制服と思われる学ランを着た、黒髪の男子高校生。
その後ろには、自分の背丈ほどもある巨大な斧を担いだ、厳めしいヒゲのドワーフが控え、不機嫌そうに腕を組んでいる。
(あ、あの制服……! 明らかに日本の高校生じゃん!?)
どうやら彼は、魔王討伐のために異世界召喚された「勇者」らしい。
周囲の厳めしい騎士や大臣たちに囲まれ、まだ状況が理解できていないのか、生まれたての小鹿のようにブルブルと肩を震わせている。
(うわぁ……可哀想に。右も左も分からない世界にいきなり召喚されて、超パニックだろうな……)
前世はしがない事務員OL(30歳)だった私の母性というか、社会人の先輩としての同情心が激しく刺激された。
式典の合間、少し距離が縮まったタイミングを見計らい、私は彼にそっと歩み寄って小声で話しかけた。
「急なことで、すごく驚いてるよね。……大丈夫? 実は私もね、日本からの転生者なの。何か困ったら遠慮なく頼ってね。よろしく!」
完璧な聖女の笑顔に、元OLの親しみやすさを添えて挨拶をする。
「……っ!!?」
少年――倉田勇斗くんは、バッと私を見た瞬間、爆発したかのように顔を真っ赤にした。
金糸の髪、宝石のような青い瞳、そして自分と同じ「日本」の匂いを感じさせる美少女。
完全にノックアウトされたようで、彼は言葉を詰まらせながら、必死に目を泳がせた。
「……っ、あ……っ……よ、よろしく……お願い、します……っ!」
(よしよし、ちょっと安心したかな? 同郷のよしみだし、仲良くしてあげないとね!)
前世の社畜時代、新入社員に優しく教えていた頃の気持ちでほっこり微笑んでいた、その時だった。
ずいっ。
「……リリア。少し男との距離が近くないか」
私の隣に、氷点下の冷気を纏ったエリオス様が割り込んできた。
前髪の隙間から覗く黒い瞳が、すっと細められ、勇斗くんを射殺さんばかりの目力で睨みつけている。
(あ……ヤバい。エリオス様、めちゃくちゃ面白くなさそうな顔してる……!?)
「え、エリオス様? 彼は異世界から来たばかりで不安そうだったから、挨拶を……」
「……へぇ。挨拶ね」
エリオス様は冷ややかに呟くと、私の腰をぐっと自分の引き寄せ、見せつけるように腕を回した。
そして、顔を真っ赤にして固まっている勇斗くんに向かって、極上の冷酷な笑みを浮かべる。
「初めまして、勇者様。……見ての通り、リリアは俺の『大切な恋人』ですので。あまり気安く触れ合わないでいただけると助かります」
「っ!? 恋、び……っ!?」
完璧な牽制とマウント。勇斗くんはショックで固まり、ドワーフの男が「がっはっは! 若いのは元気でいいのう!」と豪快に笑う。
(エ、エリオス様ーーー!? 相手はまだ状況も分かってない高校生男子ですよーーー!?)
頼もしいけれど、相変わらず嫉妬深くて独占欲が強すぎる恋人の腕の中で、私は「これからの魔王討伐旅、色んな意味で波乱になりそう……」と密かに遠い目をするのだった。




