第4話:第2王子達と私の攻防
新学期が始まってからというもの、私の平和な学園生活は再び脅かされることとなった。
その元凶は、言わずもがな第二王子ユリウスとその金魚フン……もとい、側近候補の二名である。
「リリア様! 本日も陽光のように美しい貴女に、この僕から愛の詩を捧げに来ました!」
「私の高尚な光魔法理論をお聞きください!」
「俺の筋肉で抱きかかえて移動してやるぞー!」
毎時間休みのたびに、我が物顔で上級生の教室へ乗り込んでくる第二王子トリオ。
その行動パターンは、廃嫡された元王太子兄貴たちと寸分違わず同じであった。
(学習能力という概念はオリオン王家の遺伝子に存在しないのだろうか!?)
あまりのしつこさに私が般若のような顔で頭を抱えていると、どこからともなく冷たい気配が漂ってくる。
「……殿下。授業の鈴が鳴る前に、ご自分の教室へお戻りになってはいかがですか」
すっと私の前に立ちふさがったのは、私の愛しい恋人・エリオス様だ。
前髪の隙間から覗く黒い瞳で冷ややかに見下ろすと、第二王子ユリウスは待ってましたとばかりに剣の柄に手をかけた。
「フン、また邪魔立てするか陰気な闇魔法使いめ! リリア様をかけた正々堂々の決闘を申し込む! 僕が勝ったら、リリア様は僕の婚約者となってもらう!」
「断る」「いい加減にしろバカ王子!」と私が叫ぶより早く、エリオス様は「はぁ……」と深々と溜め息を吐いた。
「分かりました。お受けします」
「なにっ、受けるのか!?」
放課後、武道場にて。
意気揚々と剣を構える第二王子に対し、エリオス様が杖を一振りをすると——
『影縛り(シャドウ・バインド)』
「ぐえっ!?」
一瞬だった。
第二王子の足元から伸びた影が足首をガッチリと捕まえ、そのまま豪快にひっくり返したのだ。所要時間、わずか三秒。
「くっ……卑怯だぞ! 魔法ではなく剣で勝負しろ!」
「私は魔法使いですので。では、リリアが待っているので失礼します」
ジタバタと地べたで暴れる第二王子を完全スルーし、エリオス様は私の元へと戻ってくる。
そして、私の手を恋人繋ぎでキュッと握りしめると、「待たせたな」と柔らかく微笑んだ。
(強すぎるし冷酷すぎるし、私に向ける笑顔が甘すぎるーーー!!)
◇
もちろん、毎回決闘につきあうのも面倒なので、さらなる対策もバッチリだ。
第二王子たちが遠くから走ってくる気配を察知すると、エリオス様が『影潜み』の魔法を発動。私とエリオス様をまるごと影の中に隠し、気配を完全に遮断する。
「ぬぬっ!? リリア様がいらっしゃらない……!?」
キョロキョロと廊下を探し回る第二王子たちの真横を、影の中から「アホだなぁ」と見送りながら通り抜けるのは、なかなかに爽快だった。
さらに、影から出たところでバッティングしそうになった時は、頼れる親友たちが助けてくれる。
「まあ、ユリウス殿下。上級生の教室で騒ぎ立てるなど、次期王太子としての品格を疑われますわよ?」
扇子を優雅に広げたシルビア様が立ちふさがり、完璧な貴族の論理で第二王子を正論論破。
「殿下、そんなことよりこちらの分厚い歴史の教科書を百回音読なさってくださいまし!」
エミリア様が満面の笑みで激重タスクを押し付け、
「運動不足のようですから、グラウンド百周走ってくるといいですわね」
クリスタ様が脳筋思考を逆手にとって強制退場させる。
完璧すぎる「被害者同盟」のガード体制に、第二王子たちはぐうの音も出ず引き下がるしかなかった。
◇
——が。
(……いや、待てよ?)
放課後、生徒会室で書類の山と向き合いながら、私はふと真顔になった。
前王太子が廃嫡され、繰り上がった第二王子がこのザマである。
顔だけはいいが、都合の悪いことは聞こえないフリをし、立場を振りかざし、自分の欲望のままに学園で暴れまわるバカ殿。
(……この国の未来、マジで終わってないか???責任者出てこい!!)
前世でしがない事務員OLとして社会の荒波に揉まれてきた私(30歳)の危機管理能力が、激しく警鐘を鳴らしていた。
このままコイツが国王になったら、重税と失政で国が傾き、巡り巡って私の聖女としての平和な隠居生活(と、エリオス様との甘い将来)が脅かされる!
「……エリオス様」
「ん? どうした、リリア」
隣で静かに紅茶を淹れてくれていたエリオス様を見上げる。
「私、ちょっとお城に行ってきます」
「……は?」
翌日。
私は聖女の権限をフル活用して王宮へと乗り込み、国王陛下との単独会見を取り付けた。
「国王陛下。大変差し出がましいとは存じますが……ユリウス殿下の再教育、および王位継承権の見直しを強く進言いたします」
突然の聖女の直訴、しかも内容が「第二王子のポンコツぶりの暴露と再教育の要求」である。
私は学園でのユリウス殿下の愚行、モラル欠如、学業の怠慢さを、前世のプレゼン資料作成で培った圧倒的な論理的構成力(※口頭)で淡々と告発した。
「……う、む……。まさかユリウスまでそこまで愚かだったとは……」
顔を蒼白にし、胃を押さえる国王陛下。
「陛下、国を護るのは光魔法だけではありません。上に立つ者の『まともな頭脳』と『誠実さ』です。このままでは国民が不幸になります!」
熱弁を振るう私を、横で控えていたエリオス様が「……よく言った」と言わんばかりに感心した目で見つめていた。
こうして、私の必死の訴えにより、第二王子ユリウスには『国境付近でのスパルタ再教育合宿(※期限未定)』が言い渡され、側近候補の二人も過酷な騎士団・文官の特訓施設へと叩き込まれることが決定したのだった。
◇
「ふぅ……これでしばらくは静かになりますね!」
王宮からの帰り道、夕焼けに染まる街並みを歩きながら、私は清々しい気持ちで息を吐いた。
「お前、本当に聖女っていうより……国の御意見番だな」
エリオス様が呆れ半分、感心半分といった様子で前髪をかき上げる。
「だって、せっかくエリオス様と静かに過ごせるようになったのに、邪魔されたくないじゃないですか」
私が少し頬を赤くして本音を漏らすと、エリオス様はピタリと足を止めた。
前髪の隙間から見える黒い瞳が、夕日を受けて怪しく、そして甘く揺れている。
「……そういう可愛いこと、外で言うな」
「へ? んぐっ!?」
低く呟かれた直後、ぐいっと腕を引かれ、私は街頭の影へと引きずり込まれた。
次の瞬間、さくらんぼ色の唇に、少し強引で、熱いキスが落とされる。
「……んっ……えり、おす……っ」
「……邪魔者は消えたんだから、今夜はたっぷり付き合ってもらうぞ」
耳元で囁く低く甘い声に、私の脳みそは本日何度目かの沸騰を迎えるのだった。
(国の平和も守ったし……うん、万々歳かな!)
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