第3話:第2王子襲来
夜会の翌日、学園および国中は未曾有の大揺れに揺れた。
当然である。婚約者を放置して聖女(私)に迫り、挙句の果てに夜会の真っ只中で醜態を晒したバカ王太子・リカルド(元)をはじめとするモラル崩壊トリオ。
彼らは激怒した婚約者お令嬢たち(シルビア様、エミリア様、クリスタ様)から、完璧な手際で婚約破棄を突きつけられたのだ。
さらに、自国の恥晒しと判断した国王陛下と貴族会により、元王太子は即日廃嫡のうえ僻地の修道院へ幽閉。
側近の二人も学園を強制退学となり、領地の最果てへと謹慎処分になった。
(自業自得、因果応報! ざまあみろである!)
その後、邪魔者の消えた学園で、私はシルビア様たち「被害者同盟」と優雅なお茶会を楽しみ、放課後はエリオス様と甘〜い時間を過ごすという、まさに理想のバラ色学園生活を満喫していた。
——そう、あの「新入生」たちが入学してくるまでは。
◇
進級し、上級生となった春の日。
新入生歓迎会の準備をしていた私の前に、見覚えのある「美形遺伝子」を持った三人組が立ちふさがった。
「貴様が噂の聖女リリアだな! 聡明なる兄上たちを惑わし、廃嫡へと追いやった悪女め……!」
腕を組み、不遜な笑みを浮かべるのは、新たに王太子となった第二王子ユリウス・オリオン。
そしてその背後には、公爵家次男のニグルド、騎士団長子息次男のハリスが控え、私を威圧するように睨みつけていた。
(うわぁ……顔の造形は兄貴たちにそっくりなのに、やっぱり中身も同じベクトルでポンコツそう……)
ウンザリしながら「はぁ」と深く溜め息を吐いた、次の瞬間だった。
さらりと風が吹き抜け、私の金糸の髪がふわリと揺れる。
バッチリと私の顔を正面から捉えた瞬間、弟王子たちの動きがピタリと止まった。
「……ッ!?」
「な……なんだ、この美しさは……」
「……神が遣わした天使……?」
顔を真っ赤にし、目を見開いて硬直する三人。
すると次の瞬間、第二王子ユリウスはバッと自分の胸に手を当て、手のひらをクルッと返した。
「……前言撤回します! 婚約者がいたにも関わらず、不貞を働いた兄上たちが愚かだったのです! だがリリア様、ご安心ください! この僕にはまだ婚約者がおりません! ぜひ僕の婚約者になっていただきたい!」
「僕もです! 貴女の光魔法について一晩中語り合いましょう!」
「俺が貴女を抱きかかえて移動してやるぞ!」
(全く同じセリフ! 全く同じ構図!! 血筋って恐ろしいーーー!?)
デジャヴどころではない猛アタックに、私の頭痛はピークに達した。
「ハァ……お断りします。私にはすでに、エリオス様という大切な恋人がおりますので」
一刀両断。一切の迷いなく言い放つと、第二王子は信じられないものを見る目で絶句した。
「え……エリオス? 貴様、あの不吉な闇魔法使いの侯爵家嫡男か! お前のような陰気な奴が、リリア様にふさわしいはずがないだろう!」
バカにしたようにエリオス様を指差す第二王子。
その時、私の背後からフッと温度の低い冷気が漂ってきた。
「……これはこれは、王太子殿下」
前髪の隙間から覗く黒い瞳。エリオス様が、静かに私の隣へ歩み寄ってきた。
そして、わざとらしく第二王子たちの視線に触れさせるように、私の手を恋人繋ぎでギュッと力強く握りしめたのだ。
「私のような『陰気な者』がリリアの恋人であることがお気に召さないようですが……あいにく、リリアが選んでくださったのは私ですので。婚約者どころか、まだ何者でもない殿下に口出しされる筋合いはございません」
恭しい敬語。しかし、その声には一切の敬意がなく、氷のように冷ややかだった。
完璧な煽りとマウントに、私は内心で(エリオス様、ナイスマウント!!)と大喝采を送る。
「くっ……貴様……ッ!」
顔を真っ赤にして地踏みする第二王子たち。
またしても面倒な学園生活が始まりそうだけれど——
(ふふ、でも……前と違って、今は隣にこの人がいるしね)
横目でチラリと見上げると、エリオス様は気付かないくらいわずかに耳元を赤くしながら、握る手に少しだけ力を込めてくれた。
頼もしい恋人の温もりを感じながら、私はこれからの波乱の新学園生活に向けて、ニヤリと不敵に笑うのだった。




