第9話:決戦の地、魔王城!……にいたのは、可愛すぎるラスボス!?
道中の凶悪な魔物たちをなんとか退け、私たちはついに魔王城の最奥——「玉座の間」へと足を踏み入れた。
重々しい扉が開き、張り詰めた緊張感が場を支配する。
玉座の前には、いかにも一筋縄ではいかなそうな強者オーラを放つ「四天王」と呼ばれる凄腕の魔族たちが立ち塞がっていた。
万全の構えをとるエリオス様とガルフさん。勇斗くんも聖剣を強く握り締め、鋭い視線で玉座を見据える。
いよいよ、世界を賭けた最終決戦——!
「……ん?」
だが、私が緊張のあまりゴクリと唾を呑み込んだその時。
四天王たちの中心、豪華な装飾が施された大きな玉座の上に座っている“それ”が目に入り、私は思わず素の声を漏らしてしまった。
サラサラとした夜空のような黒髪。ルビーのようにきらめく大きな赤い瞳。そして、小さな頭からちょこんと生えた幼い角。
……そこにいたのは、どう見ても天使のように可愛らしい美ショタだった。
(えええええっ!? あ、あの可愛すぎる子は誰!? 魔王城のマスコット!? それとも四天王の隠し子……!?)
私だけでなく、勇斗くんたちも「え、何この子……?」と言いたげに呆然と固まっている。
すると、玉座の上の男の子が、ちょこんと首を傾げて自ら口を開いた。
「なに固まってるの? 僕がこの城の主、魔王のルベリオスだよ。そっちが噂の勇者一行?」
(声が可愛すぎるーーーっ!!?)
透き通った愛らしい声。けれど、その瞳にはどこか堂々とした王の威厳が宿っている。
「っ〜〜〜!? 嘘だろ、あんなちっちゃい子が魔王だって!? 騙されないぞ!」
勇斗くんが聖剣を構え直して叫ぶと、四天王のうちの一人、立派な髭を蓄えた大男——バビルスさんが静かに首を振った。
「嘘ではない。しかし安心されるが良い。我が魔王様には、貴方がたと戦う意思は一切ない。……それでもなお剣を引かぬというのなら、まずは我ら四天王全員を倒してからにしていただこう」
意外すぎる丁寧な対応に、全員が言葉を失う。
ルベリオスくんは玉座の上で足をぶらぶらさせながら、呆れたように言った。
「だって僕たち、別に戦うの好きじゃないし。君たち人間が勝手に『魔族は悪だ』って言ってきたから、身を守ってただけだし」
衝撃の事実に固まる私達を余所に、隣にいたエリオス様が「ふむ」と顎に手を当て、即座に思考を切り替えた。
「なるほど。つまり……我々側に戦う意思がなければ、人間を襲うことはなく、今後の平和的交渉および友好関係の構築が可能ということだな?」
「おいエリオスっ!? 順応するのが早すぎるだろ! 相手は魔王だぞ!?」
「静かにしろ未熟者。無駄な流血を避け、終戦協定を結べるならこれ以上の利はない」
冷徹かつ現実主義なエリオス様の問いかけに、ルベリオスくんはニヤリと生意気そうに微笑んだ。
「そうそう! 話が通じるお兄さんでよかったよ」
あまりのテンポ感にクラクラしつつも、私はどうしても気になっていた疑問を口にした。
「あ、あの……! では、私たちがここに来るまでに倒してきた凶暴な魔物たちは……? 街の人々も被害に遭っていました」
「ああ、あの連中?」
ルベリオスくんは「ふぅ」と溜息をついた。
「あいつらは僕たちの言うことを聞かない『野良の魔物』だよ。勝手に暴れてただけ。でもこれからは協定も結ぶし、僕たちが力ずくでシメて暴れないようにさせてあげる」
まさかの「野良」問題。
さらにバビルスさんがサッと手際よく「不戦条約の証書」を取り出し、あっという間にサインと魔法印の調印まで完了してしまった。
「……ちなみに、ルベリオスくんはお幾つなのですか?」
私が尋ねると、彼は胸を張ってドヤ顔を決めた。
「5歳だよ! すごいでしょ!」
「ご、5歳……!?」
絶句する私に、バビルスさんが誇らしげに補足する。
「先代魔王様が崩御された際、先代を実力で叩き伏せ、弱肉強食の理に従って自ら王座を勝ち取られたのが、このルベリオス様なのです」
「(見た目とやってることが不一致すぎるーーーっ!!)」
見かけによらず、とんでもなく恐ろしい5歳児だった。
こうして、世界を賭けた魔王討伐は——恐ろしくあっけなく、平和に幕を閉じたのだった。
「ふ〜ん……ところで、そっちのお姉さん。僕の城に残らない? 美味しいお菓子いっぱいあげるよ!」
「えっ、私ですか!?」
ルベリオスくんが身を乗り出して手招きした瞬間。
「ダメに決まってるだろ(だろうが)!!!!」
勇斗くんとエリオス様が、この日一番の息ぴったりな大声でブチギレたのは言うまでもない。




