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結末が残酷な死に方なので棚ぼた玉座は遠慮します!なのに、最大の敵が溺愛してくるんです!  作者: 幻燈 カガリ


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✣ 17話 淑女の湯殿には、ご注意を






 数日間に渡る脱獄生活が終わりを迎え、私はまたこの王宮へと足を踏み入れることになった候……


 お母さん。

 短い脱獄生活でしたわ。



 ガックシ。

 肩の力が抜けました。




「エスティア、今日から────」



 前を歩く、兄やんことカーディアスが、肩越しに声を掛けて来られました。



 ガックシ肩をヨイショと。

 頭をもたげる。



 ん?ここ、私がいたところと……


 違いません、こと??



 威風堂々。

 まさに、その通りの建物が鎮座しておられまする。



「……ここ、は?」



 軽やかにカーディアスが翻った。



「俺の宮だ。そして───」



 ぶら下げていた手に触れ、そっと握る。

 冷えていた指先が解け出しそうだ。



「お前の宮になる」



 は……?

 兄やん、それ、この宮で一緒に暮らす、

 という意味合いで……よろしくて?


 目でカーディアスに訴える。


 だが、カーディアスは微笑みを返すだけ。



 ホワッツ?!ガッテムッ!ジュテームッ!

 あん、なんでやねーん!!


 荒れ狂う私の脳内をお見せ致しましょうか?

 お兄たまッ!



「なんだ、そんなに嬉しいのか?」



 さらに微笑みを深めるカーディアス。



 オメェの目は、節穴か───ッ!!

 どこが、喜んでいるように見えるのかしら?!


 私の顔、引き攣ってるでしょ!

 口端もピクピクさせちゃってますわよ!



「今まで、あんな塔で寂しい思いをさせて、……すまなかった。これから、めいいっぱい、甘えて良いからな」



 頭をポンポンと撫でられる。



 いや、私ね。

 実年齢は貴方より上のお姉さん(オバ……バシッ!)

 だから、寂しくもないし、


 甘えるのも間に合って……



 ないかも。

(やめろ)



「そなたが産まれてから一度も会ったことのない俺を兄として見るのは、今は難しいと思う。これから、少しずつ距離を縮めていこう」



 優しい眼差しが私に降り注ぐ。



 その眼は……


 孫を見る、爺&婆ですわっ!!




 ほら、エスティアちゃん。

 唐揚げだよ。


 ほら?

 エスティア、欲しがってた国だよ?


 ほら、ほら、ほら……

 やめろ────脳内の爺&婆ッ!!




 ン────

 この兄に甘やかれたから、

 現在のエスティアは暴君への道を突き進んだ……?のかしら。



 ……お母さん。

 脱獄から帰ってきたら、お兄たまとの共同生活が始まりました。

 正直、身体が休まる日が無さそうでこれからが不安で、仕方ないです……




 ✣✣✣✣




「王太子殿下、そして、エスティア王女様……おかえりなさいませ」



 ズラーっと並ぶメイド服。

 その前に秩序ッ!と顔に書いてある女性が頭を垂れた。



「ああ、今、戻った。ジョアンナ、準備は万全だろう、な?」



 鋭い視線がジョアンナに注がれる。



「ええ、滞りなく済ませております」


 ゆっくりと面を上げたジョアンナは、カーディアスと目が合った途端に、重ねていた手から親指を小さく上げた。



 この方……かなりのオチャッピィーですわ!

 ジョアンナのギャップに私の心臓持っていかれました。



「さすが、我が侍女長」


「勿体ないお言葉でごさいます。では、王太子殿下。王女様をお連れしても?」



 キラーンと光るジョアンナの瞳が私を射貫く。


 は、はい?



「アナタたち、王女様をお連れしなさい」


「はい」


 有無を言わせぬ声がロビーに響く。

 侍女たちが瞬く間に私を取り囲んだ。



 へ?



 ひと呼吸する前に、私はあっという間に侍女の波に攫われていく。


 それを見守るカーディアスは、満足気に私に手を振る。



 見守ってねーで、

 た、助けろや────ッ!!



 私の心の叫びは静かに萎んでいった。




 ✣✣✣✣




 侍女の波が行き着いた先は、白い湯気が上がる湯殿だった。

 白亜の塔とは比べるのは烏滸がましい程に、ご立派です。



 湯船だけで、何人入れるの……?

 ここだけでパーティ出来るよ?



 立っていただけで、物の見事に身包みを剥がされた私は気が付けば湯船の前にいた。



「……王女様、どちらの香りがよろしいでしょうか?」



 侍女がトレイに乗せた三つのガラス瓶。

 首を傾げると、億劫がることなく答えてくれた。



「こちらは、白檀(サンダルウッド)、ムスク、ローズとなっております」



 顔が仰け反る。



 うわッ。

 どれも良い覚えがございませんことよ!



「どれも、お気に召しませんか?」


 返事をしない私に侍女さんは眉を八の字に曲げ、しゅんとしてしまった。



「あ、今日はちょっと……」


 頬を爪で軽く掻きながら取り繕うように返事をすると、背後からではと声が投げられた。



「王女様、こちらは?」



 サッと小瓶を差し出した手を辿ると、穏やかな表情を浮かべたジョアンナがいた。



「ラベンダーです。リラックス効果がございます。どうでしょう?」



 で、出来る女…

 ジョアンナ、グッジョブ!!



 私は思わず、こくりと頷いた。








「では、私どもは一旦下がります。何かありましたら、コチラを鳴らして下さい」



 それでは、とジョアンナ達は呼び鈴を置き湯殿から下がって行った。



「ふぅ──。一時はどうなるかと思ったけど、お風呂は最高、ですわ……」




 振り返る。

 怒涛の如く過ぎ去った湯殿での死闘……


 自分で洗いたい私。


 お世話したいジョアンナ。



 互いに一歩も引かなくて、

 侍女さんたち飽きれてたわね……



 え?どうなったか、ですって…?



 節約を徹底していたお母さんに仕込まれた私。

 いかに短時間で、いかにお湯を使わずに身体を磨き上げるかを追求した私ですわよ。

 迅速に身体を洗い、瞬速で髪を洗いつくしてみせましたわ。


 フッ。

 ジョアンナのぽかーんとした顔が。


 ふふっ。うふふ。あはっ。



「アハハ───」



「ずいぶんと……楽しそう、ですね」



「ヘギャ?!」



 ───バシャ。


 身体からお湯が滴る。

 辺りを見回すが、白い湯気でよく分からない。



「……ん?」


 目を凝らす。ボワッと何かが見えた。

 顔を前へと突き出す。


「へっ……、う、そ……」


 わなわなと震える唇。

 口を叩くように押さえた手。



 わ、私……見えちゃ、……った?


 ……ヤバい。


 …………ヤバすッ!!!



 水面が細かに波立つ。



 思いっきり、息を吸い込んだ。



「うぎゃあああああ、……ああ?」



 瞼を擦り、目を細める。



 霞んで見えていたものが、鮮明になっていく。



 伏せた顔にボサボサの髪。

 薄汚れたメイド服……



「え?シーネ、ちゃん……?」



 ガバッ。

 潤んだふたつの瞳に私が映った。

 ぶわっと溢れ出す涙と鼻から流れるダイヤモンド。



「もぉ────王女様ッ!なんて、ことしてくれたんですか!!うわぁぁあああん」



 まるで、カエルの如く跳ぶシーネガエル。

 とっさに腕を伸ばした。



 湯船にダイブしたシーネちゃんを抱き留めた。

 ぐすん。ぐすんと泣きじゃくるシーネちゃんの頭を撫でてやる。



 私のボディの事は……

 うん。気にしない。


 …………気に、しない。



 だって、こうなったのは私のせいだから、ね。




「貴女には、申し訳ないことをしてしまったわね。本当にごめんなさい」



 ちゃぽん。


 波立つお湯。


 黒いメイド服が漂う。


 ふわっと鼻をくすぐるラベンダー。


 静まり返った湯殿の床が振動する。



 ……じ、地震?

 うそっ?!

 私、真っ裸よ?!


「ひ、避難しましょう!!」


 シーネちゃんを支えながら、湯船から立ち上がる。



 ───バーンッ!


 扉が開け放たれた。

 冷気と共に湯気がかき消える。



 …………え?



 私と同じ瞳の色がこちらを向いていた。




「───エスティア!!無事かッ!?」




 しばしの間。




 思考停止…………



 ……ロード中。





「ハッ!───す、すまん」





 顔を林檎のように赤らめ、視線を泳がせたのち、背中を見せたカーディアス。




 頭が再起動。



 状況を把握した私。



 やることは、……そう。



……ロック、オン。



 置いてあった呼び鈴を手に取った。

 目がギラつく。



「……男が、入ってくんなッ!!!」


私は振りかぶり、投げた。



 ラッキースケベ兄やんの後頭部に豪速球がぶち当たった。


 ゆっくりと、前のめりで倒れていくカーディアス。




 チリ────ン。




 その鈴の音は王都中に響いた、かもしれない。






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